事件番号 平成21(ワ)6994
事件名 補償金請求事件
裁判年月日 平成22年07月22日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 森崎英二
(3) 構成要件Cについて
ア 特許請求の範囲の記載
(ア) 構成要件Cに係る特許請求の範囲の記載は,「地震時に前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり,」というものである。
・・・
そうすると,特許請求の範囲の記載によれば,構成要件Cの「地震時に前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり,」とは地震時に,前後又は左右の方向で規定される地震のゆれで,係止体がその後部において回動が妨げられ,扉等が開き停止位置を超えてそれ以上に開く動きを許容しない状態になることを意味するものと解することができる。
(イ) しかしながら,構成要件Cに係る特許請求の範囲の「地震時に前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり,」との記載を上記のように解釈できるとしても,この構成要件は,抽象的な文言によって係止体の機能を表現するにとどまっているのであって,地震時の前後または左右のゆれによって,いかなる仕組みで係止体の回動の動きが妨げられることになるのか,また係止体の回動の動きが妨げられることによって,いかなる仕組みで扉等の開く動きが許容されないことになるのかという,本件特許発明にいう地震時ロック装置に欠かせない具体的構造そのものは明らかにされているとはいえない。
ところで,特許権に基づく独占権は,新規で進歩性のある特許発明を公衆に対して開示することの代償として与えられるものであるから,このように特許請求の範囲の記載が機能的,抽象的な表現にとどまっている場合に,当該機能ないし作用効果を果たし得る構成すべてを,その技術的範囲に含まれると解することは,明細書に開示されていない技術思想に属する構成までを特許発明の技術的範囲に含ましめて特許権に基づく独占権を与えることになりかねないが,そのような解釈は,発明の開示の代償として独占権を付与したという特許制度の趣旨に反することになり許されないというべきである。
したがって,特許請求の範囲が上記のように抽象的,機能的な表現で記載されている場合においては,その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず,上記記載に加えて明細書及び図面の記載を参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきであり,具体的には,明細書及び図面の記載から当業者が実施できる構成に限り当該発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。
イ本件明細書の記載
そこで以上のような観点から本件明細書を見ると,本件明細書の発明の【詳細な説明】の個所には次の記載がある。
ウ 検討
・・・
(イ) 以上のとおり,本件明細書には,地震時ロック装置において,前後又は左右の方向で規定される地震のゆれによって係止体がその後部において回動が妨げられ,扉等が開き停止位置を超えてそれ以上開く動きを許容しない状態を生じさせるための具体的構成としては,装置本体の震動エリアに収納された球により地震時に係止体の回動を妨げる構成が開示されていることが認められるが,それ以外の構成は記載されておらず,またそれを示唆する記載もない。また,本件明細書の【背景技術】にも,従来技術として地震時ロック方法が紹介されているが,それはゆれによって球が動くことにより地震を検出するものであって,他に,振動エリア内に収容した球を用いる以外の構成を示唆するような記載は一切認められない。
したがって,本件明細書には,装置本体の振動エリアに収納した球を用いて係止体の回動を妨げるという技術思想だけが開示されているというべきである。
以上によれば,本件明細書の記載から当業者が実施できる構成は,振動エリアに収納した球を用いて係止体の回動を妨げる構成だけというべきであるから,かかる構成に限り本件特許発明の技術的範囲に含まれる(構成要件Cを充足する)と解するのが相当である。
事件名 補償金請求事件
裁判年月日 平成22年07月22日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 森崎英二
(3) 構成要件Cについて
ア 特許請求の範囲の記載
(ア) 構成要件Cに係る特許請求の範囲の記載は,「地震時に前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり,」というものである。
・・・
そうすると,特許請求の範囲の記載によれば,構成要件Cの「地震時に前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり,」とは地震時に,前後又は左右の方向で規定される地震のゆれで,係止体がその後部において回動が妨げられ,扉等が開き停止位置を超えてそれ以上に開く動きを許容しない状態になることを意味するものと解することができる。
(イ) しかしながら,構成要件Cに係る特許請求の範囲の「地震時に前後または左右のゆれでその後部において回動の動きが妨げられ扉等の開く動きを許容しない状態になり,」との記載を上記のように解釈できるとしても,この構成要件は,抽象的な文言によって係止体の機能を表現するにとどまっているのであって,地震時の前後または左右のゆれによって,いかなる仕組みで係止体の回動の動きが妨げられることになるのか,また係止体の回動の動きが妨げられることによって,いかなる仕組みで扉等の開く動きが許容されないことになるのかという,本件特許発明にいう地震時ロック装置に欠かせない具体的構造そのものは明らかにされているとはいえない。
ところで,特許権に基づく独占権は,新規で進歩性のある特許発明を公衆に対して開示することの代償として与えられるものであるから,このように特許請求の範囲の記載が機能的,抽象的な表現にとどまっている場合に,当該機能ないし作用効果を果たし得る構成すべてを,その技術的範囲に含まれると解することは,明細書に開示されていない技術思想に属する構成までを特許発明の技術的範囲に含ましめて特許権に基づく独占権を与えることになりかねないが,そのような解釈は,発明の開示の代償として独占権を付与したという特許制度の趣旨に反することになり許されないというべきである。
したがって,特許請求の範囲が上記のように抽象的,機能的な表現で記載されている場合においては,その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず,上記記載に加えて明細書及び図面の記載を参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきであり,具体的には,明細書及び図面の記載から当業者が実施できる構成に限り当該発明の技術的範囲に含まれると解するのが相当である。
イ本件明細書の記載
そこで以上のような観点から本件明細書を見ると,本件明細書の発明の【詳細な説明】の個所には次の記載がある。
ウ 検討
・・・
(イ) 以上のとおり,本件明細書には,地震時ロック装置において,前後又は左右の方向で規定される地震のゆれによって係止体がその後部において回動が妨げられ,扉等が開き停止位置を超えてそれ以上開く動きを許容しない状態を生じさせるための具体的構成としては,装置本体の震動エリアに収納された球により地震時に係止体の回動を妨げる構成が開示されていることが認められるが,それ以外の構成は記載されておらず,またそれを示唆する記載もない。また,本件明細書の【背景技術】にも,従来技術として地震時ロック方法が紹介されているが,それはゆれによって球が動くことにより地震を検出するものであって,他に,振動エリア内に収容した球を用いる以外の構成を示唆するような記載は一切認められない。
したがって,本件明細書には,装置本体の振動エリアに収納した球を用いて係止体の回動を妨げるという技術思想だけが開示されているというべきである。
以上によれば,本件明細書の記載から当業者が実施できる構成は,振動エリアに収納した球を用いて係止体の回動を妨げる構成だけというべきであるから,かかる構成に限り本件特許発明の技術的範囲に含まれる(構成要件Cを充足する)と解するのが相当である。