知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

具体的記載も示唆もない特許請求の範囲の機能的表現を字義どおりに解釈した事例

2009-05-05 22:21:05 | 特許法36条6項
事件番号 平成20(ワ)4394
事件名 損害賠償
裁判年月日 平成21年04月27日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

 被告は,構成要件Dの「開き戸の自由端でない位置」との構成が本件明細書に記載されておらず,サポート要件を充たさないとも主張するので検討する。
(1) 特許請求の範囲の記載
 本件各特許発明においては,地震時ロック装置の取付位置について,「開き戸の自由端でない位置の家具,吊り戸棚等の天板下面に取り付け」(構成要件D)と記載されているのみであり,「開き戸の自由端でない位置」の具体的範囲については何らの記載も示唆もないことから,かかる意味を字義どおりに解釈すると,自由「端」とみなし得る程度に自由端にごく近接した領域を除く自由端に近接した位置から蝶番に近接する位置までをも含むものと解することになる。そこで,かかる構成が発明の詳細な説明に記載されているかについて検討する

(2) 発明の詳細な説明の記載等
 ・・・
 このように,本件明細書の発明の詳細な説明では,「地震時のロックが確実になる」との効果を奏することにより本件各特許発明の課題を解決することができると当業者が認識できるように記載された取付位置は,あくまで「自由端から蝶番側へ(一定程度)離れた位置」であり,「自由端でない位置」との特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明に記載された発明の範囲を超えるというべきである。

機能的表現が用いられた特許発明の解釈

2009-05-05 22:20:20 | Weblog
事件番号 平成20(ワ)4394
事件名 損害賠償
裁判年月日 平成21年04月27日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 山田陽三

(1) 本件各特許発明の技術的範囲の解釈について
 被告は,本件各特許発明には機能的表現が用いられているから,その技術的範囲を本件実施例に限定して解釈すべきと主張する

 たしかに,本件各特許発明に係る特許請求の範囲のうち,「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動しわずかに開かれる開き戸の係止具に係止する」地震時ロック装置との記載(構成要件C)及び「使用者が閉じる方向に押すまで閉じられずわずかに開かれた」ロック位置との記載(構成要件E)は,いずれも具体的な構成ではなく,作用的,機能的な表現で記載されているものと認められる。

 このように,特許請求の範囲の記載が作用的,機能的に記載されている場合,発明の外延が不明確になりがちであり,またこれを文言どおりに解すると明細書で開示された技術思想に属しない構成までもが技術的範囲に含まれることになりかねず妥当でない。しかし,他方で,被告が主張するように,特許請求の範囲が作用的,機能的に記載されているからといって,明細書の発明の詳細な説明に開示された実施例のみに限定されると解すべきではなく,明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が認識し得る技術思に基づいて当該発明の技術的範囲を定めるのが相当である
そこで,上記の観点から,まず構成要件Cについて,その技術的範囲を検討することとする。

(2) 本件明細書の記載
 ・・・

 ・・・よって,本件各特許発明においては,地震のゆれによって係止手段が自ら移動するとの技術思想が開示されているというべきである。
 そうすると,構成要件Cの「係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動し」というためには,少なくとも地震のゆれによって係止手段が自らロック位置に移動する構成であることを要するというべきである。

イ この点,原告は,原出願明細書の記載(図6ないし図9)を参酌して本件各特許発明を解釈しようとする
 しかし,同明細書図6ないし図9に開示の球は,本件各特許発明の係止手段に相当するものであるが,これらの球は本件明細書には記載されておらず,また,このように球を用いる構成が周知技術であることを認めるに足りる証拠もない。したがって,かかる当業者にとって自明でない構成について,本件明細書に記載されていない原出願明細書の記載をもって本件各特許発明の技術的範囲の解釈を補うことは許されないというべきである

 ・・・
 このように,被告各物件は,他の部材である球(3)を積極的に利用して係止手段たるアーム(4)をロック位置まで移動させ,これを保持するものであるから,本件各特許発明におけるような地震のゆれによって係止手段が自ら移動する構成とは異なるものというべきである。したがって,被告各物件は,構成要件Cの「該係止手段が地震のゆれの力で開き戸の障害物としてロック位置に移動し」との要件を充足するとは認められない。