知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

新旧著作権法の著作者

2009-05-18 05:27:03 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)6848
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成21年04月27日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

(2)本件各映画の著作者について
ア 本件各映画は,いずれも新著作権法が施行される前に創作された映画の著作物であり,同法附則4条によれば,映画の著作物の著作者に関する規定である同法16条は適用されないから,本件各映画の著作者がだれかに関しては,旧著作権法によることになる。そして,旧著作権法においては,映画の著作物の著作者について直接定めた規定はないのみならず,そもそも著作物一般についての著作者の定義や著作物の定義を定める規定もない

 他方で,
 新著作権法では,著作物及び著作者の定義規定が設けられている(同法2条1項1号及び2号)が,その内容が旧著作権法における著作物及び著作者についての解釈と異なるのであれば(・・・),・・・,何らかの経過措置が設けられるのが通常と考えられるところ,これに関する経過規定は設けられていない
 また,
 旧著作権法の下で公表された著作物の著作権が,新著作権法の下でも存続することを前提とした規定(例えば,同法附則7条)もある
 これらのことからすれば,新著作権法における著作者及び著作物の定義は,旧著作権法における著作者及び著作物の定義を変更したものではないと解するのが相当である。

 なお,旧著作権法の下における裁判例においても,著作物とは,「著作者の精神的所産たる思想内容の独創的表現たることを要す」(大審院昭和11年(オ)第1234号同12年11月20日第三民事部判決・法律新聞4204号3頁参照),「精神的労作の所産である思想または感情の独創的表白であって,客観的存在を有し,しかも文芸,学術,美術の範囲に属するもの」(東京地裁昭和40年8月31日判決・下民集16巻8号1377頁参照)等と解されている。
 したがって,旧著作権法における著作物とは,新著作権法と同様,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいい,また,旧著作権法における著作者とは,このような意味での著作物を創作する者をいうと解される。そして,思想又は感情を創作的に表現できるのは自然人のみであることからすると,旧著作権法においても,著作者となり得るのは,原則として自然人であると解すべきである

イ このように,著作者となり得るのは,原則として自然人であることを前提として,制作,監督,演出,撮影,美術の担当者等多数の自然人の作業により製作されるという映画の著作物の製作実態を踏まえると,旧著作権法においても,新著作権法16条と同様,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当して映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者は,当該映画の著作物の著作者であると解するのが相当である。

 なお,新著作権法附則4条は,同法16条の規定は,同条の施行前に創作された著作物については,適用しない旨定めている
 しかしながら,旧著作権法において,映画の著作物の著作者につき,新著作権法16条と同様の解釈をすることを妨げるような事情があるとは認められないことからすれば,同法附則4条が同法16条を適用しないこととしたのは,同条が新設規定であることに照らして,旧著作権法の下で公表された映画の著作者については旧著作権法における解釈に委ねる趣旨の規定であって,旧著作権法において新著作権法16条と同様の解釈をすることを積極的に排除する趣旨まで含むものではないと解される。・・・

 これらのことからすれば,新著作権法附則4条は,旧著作権法の下で公表された映画の著作物の著作者について,新著作権法16条と同様の解釈をすることを妨げるものではないと解される。

ウ これを本件各映画についてみると,証拠(甲1,2,11)並びに前記第2の1(2)ア及びイによれば,Aは本件各映画の監督を務め,脚本の作成にも参加するなどしていることが認められるから,本件各映画の全体的形成に創作的に寄与している者と推認され,これに反する証拠もない。したがって,Aは,他に著作者が存在するか否かはさておき,少なくとも本件各映画の著作者の一人であると認められる。

(3)本件各映画の著作名義について
ア 前記第2の1(3)のとおり,旧著作権法は,3条から9条まで著作権の保護期間に関する規定を置いているところ,3条1項は,発行又は興行した著作物の著作権の存続期間を著作者の生存する間及びその死後30年間と定め,4条は,著作者の死後に発行又は興行した著作物の著作権の存続期間を発行又は興行の時から30年間と定め,5条本文は,無名又は変名の著作物の著作権の存続期間を発行又は興行の時から30年間と定め,ただし書で,その期間内に著作者の実名登録を受けたときは3条の規定に従うこととし,6条は,団体の名義をもって発行又は興行した著作物の著作権の存続期間を発行又は興行の時から30年間と定めていた。

 このような旧著作権法における著作権の保護期間に関する規定全体の構成に加え,前記(2)アのとおり,旧著作権法においては,著作者となり得る者は原則として自然人であると解されることにかんがみると,旧著作権法は,著作物の存続期間につき,原則として自然人である著作者の死亡の時を基準とすることを定めた上で,著作者又はその死亡時期が特定できないためこの基準によることができない無名又は変名の著作物及び創作行為を行った自然人を判別することができず,また,著作物の名義人の死亡時期を観念することができない団体名義の著作物については,5条又は6条で発行又は興行の時を基準とすることとしたものと解される
 そうすると,旧著作権法6条が定める団体名義の著作物とは,当該著作物の発行又は興行が団体名義でされたため,当該名義のみからは創作行為を行った者を判別できず,また,著作物の名義人の死亡時期を観念することができない著作物をいうと解するのが相当である。

イ これを本件についてみると,証拠(甲9,10),前記第2の1(2)の各事実及び弁論の全趣旨によれば,本件各映画は,旧大映が製作したものであるところ,その冒頭部分において,本件映画1では「大映株式曾社製作」,本件映画2では「大映株式會社製作」との表示がされるとともに,「監督A」との表示がされていることが認められる。
 そして,前記(2)のとおり,Aが本件各映画の著作者であると認められることからすれば,この「監督A」との表示は,著作者であるAの実名が表示されたものと認められる。

 そうすると,本件各映画は,著作者の実名が表示された著作物であって,創作行為を行った者を判別できず,また,著作物の名義人の死亡時期を観念することができない著作物であるとはいえないから,本件映画1に「大映株式曾社製作」との表示が,本件映画2に「大映株式會社製作」との表示があるからといって,旧著作権法6条が定める団体名義の著作物には当たらないというべきである

 そして,前記第2の1(2)の各事実からすれば,本件各映画は,Aの生存中に公開されたものと認められるから,その著作権の存続期間について適用される旧著作権法の規定は,同法3条,52条1項であると解される。