知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

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2008-06-01 09:42:09 | Weblog
事件番号 平成19(ワ)17279
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成20年05月28日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

『ウ 結論
 以上から,被告は,本件対象サービスを提供し,本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているというべきであり,原告NHK及び東京局各社の本件番組についての複製権(著作権法21条)及び原告らの本件放送に係る音又は影像についての著作隣接権としての複製権(著作権法98条)を侵害するものといえる。

 被告は,本件サービスが,あくまでも利用者個人がその私的使用目的で賃借したロクラクⅡを利用する行為であって,その利用に関与するものではなく,利用者が賃貸機器を利用してテレビ番組を複製する行為の主体は,利用者本人であり,被告ではあり得ない旨主張する。

 しかしながら,被告は,上記判示のとおり,本件対象サービスにおいて,自らが本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っているのであり,このことと,本件サービスの利用者によるテレビ番組の録画が,私的使用目的で行われるか否か,あるいは,利用者の指示に基づいて複製されるテレビ番組が選択されるか否かとは,直接関連するものではないから,被告の上記主張は,失当といわなければならない。』

『2 争点2(原告らの損害の有無及びその金額)について
⑴ 被告の責任
 被告は,上記1⑵ウのとおり,本件対象サービスを提供して,本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為を行っていると評価されるものであり,原告及び東京局各社NHK の複製権(著作権法21条)及び原告らの著作隣接権としての複製権(著作権法98条)を侵害するものである。そして,この侵害については,被告に,少なくとも過失があると認められる。
 したがって,被告は,これによって原告らに生じた損害を賠償すべき義務がある。

⑵ 逸失利益について
ア 著作権法114条2項の適用について(主位的な主張)
原告らは,複製権(著作権法21条)又は著作隣接権としての複製権(著作権法98条)の侵害による損害について,主位的に,著作権法114条2項が適用されるべきであるとして,被告が,平成17年3月10日から平成19年4月18日まで(著作隣接権としての複製権の侵害について)又は平成19年5月及び同年6月の2か月間(著作隣接権としての複製権の侵害について),利用者500人から,初期登録料3000円のほかに,1か月当たり1万0500円の支払を受け,これに対する利益率90パーセントの割合による利益を受けていることを前提として,それを基に計算した被告の利益の額が原告らの損害の額となる旨主張する。

 しかしながら,本件対象サービスの利用者が何人存在するのか,その中に,子機ロクラクを購入し,親機ロクラクのみをレンタルする本件B サービスの利用者がどの程度含まれるのか(・・・。),親機ロクラクの管理についての対価はいくらか,本件対象サービスにおける被告の利益率がどの程度かの諸点については,原告の上記主張を裏付ける証拠はなく(・・・。),被告が本件サービスによって受けている利益の金額を算定することができない

 そうすると,他の点について検討するまでもなく,著作権法114条2項を適用して損害を算定することはできないことになる。

イ 著作権法114条3項の適用について(予備的な主張)
 そこで,著作権法114条3項により,原告らの損害額を計算することができるかが問題となるが,本件対象サービスの利用者数,本件番組又は本件番組の放送に係る音又は影像の複製回数等の事実関係については,上記ア同様,何ら立証されておらず,原告らが受けるべき利益の額を算定することはできないから,同項により損害の額を算定することもできないといわざるを得ない。

ウ 著作権法114条の5による損害の算定
 被告による本件番組及び本件放送に係る音又は影像の複製行為により,原告らに損害が生じていることは認められるところ,上記ア及びイのとおり,本件対象サービスの利用者数,複製回数等の事実関係が立証されておらず,損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であると認められるから,著作権法114条の5により,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づいて,損害額を認定することが相当である。』