知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

審判官への忌避事由について

2006-12-03 11:59:36 | Weblog
事件番号 平成17(行ケ)10622
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成18年11月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 塚原朋一

『原告は,本件特許出願に対し,Lが,引用例1,引用例3等の提出をすることにより情報提供を行い,また,審決の構成審判官の1人であるM審判官が,審決後にLの特許出願等の代理人として極めて多くの案件を手がけている弁理士が所属する弁理士事務所に入所したところ,その入所時期からみて,M審判官は,審決前に,同事務所が上記情報提供者であるLと,上記のような密接な関係を有することを知った上で,同事務所への入所を決定したはずであるとし,このような事実は,M審判官についての忌避事由に当たり,審決は,忌避事由を有する審判官が関与した違法があると主張する。
しかしながら,「審判官について審判の構成を妨げるべき事情があるとき」(特許法141条1項)とは,審判官と審判事件との関係から見て,不公正な審判がなされるであろうとの予測が,通常人を判断基準として,客観的に存する場合をいうものである。そして,仮に,Lが主張の情報提供を行い,かつ,M審判官が,審決当時,上記弁理士事務所にLの特許出願等の代理人として極めて多くの案件を手がけている弁理士が所属することを知った上で,入所することを決めていたとしても,情報提供は,特許法施行規則13条の2に根拠を有し,何人においてもすることのできる手続であること,M審判官が上記弁理士事務所に入所することを決めたからといって,同審判官とLとの間に,直接,何らかの関係が生ずるものではないことを併せ考えると,同審判官と本件審判事件との関係から見て,不公正な審判がなされるであろうとの予測が,通常人を判断基準として,客観的に存する場合に当たるということはできない。
 のみならず,審判官が忌避事由を有していたとしても,除斥事由を有する場合と異なり,当事者等の申立てに基づく忌避の決定(特許法143条)を経なければ,当該審判官が当該審判事件から排斥されるわけではない。そして,忌避の申立てがないまま,審決がなされた場合には,たとえ,それが,忌避事由が存することを当事者等において知らなかったためであったとしても,もはや当事者等は忌避申立てをすることができなくなったと解すべきであり,したがって,忌避の決定がなされる可能性はなくなったのであるから,当該審判官が審決に関与したことについて,忌避の制度との関係で違法の問題が生ずる余地はない。なお,忌避事由を有する審判官が審決に関与したことは,再審事由に当たるものともされていない(特許法171条2項,民事訴訟法338条1項)。
 そうすると,原告の上記主張は,いずれにしても失当である。』

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