知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

明細書に下位概念が記載されたときの上位概念のクレーム(新規事項の追加)

2006-02-28 20:38:19 | 要旨変更・新規事項の追加
事件番号 平成17(行ケ)10367
裁判年月日 平成18年02月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

◆H18. 2.27 知財高裁 平成17(行ケ)10367 特許権 行政訴訟事件
条文:平成15年法第47号による改正前の特許法120条の4第
3項が準用する特許法126条2項(訂正)


【概要】
 原告は,特許明細書の「タイミングベルト」のみが示されているときに、特許請求の範囲においてこれを「ベルト」として記載することができるかどうかが争われた事例。
 特許査定時の明細書には、「タイミングベルト」がベルト一般であること意味することを示唆する記載や、「タイミングベルト」との記載がベルトの例示にすぎないことを示す記載は存在しないことから、本件訂正は特許明細書に開示されていない新規事項を含むものとなった。
 
【争点1】
 特許明細書のタイミングベルトは、本件発明の最良の形態として記載されているにすぎないものであるか、
 そして、最良の形態として明細書に下位概念のものが記載されているとすれば、その明細書にはその下位概念を包含する上位概念の発明が全く開示されていないことにはならないから、新規事項の追加にならないか、
 
【争点2】
 射出装置の技術分野において可動プレートを進退させるための駆動装置の動力伝達装置として、タイミングベルト以外のものが使用できないとの技術常識は存在せず、当業者であれば、本件発明が動力伝達装置の構成としてベルトを備えた構成の射出装置であると認識し得るから、新規事項の追加にならないか、

 
【判示1】
 特許明細書の他の記載又は図面を参照しても、駆動プーリーと従動プーリーとの間に張設されるのがタイミングベルトの上位概念としてのベルトであることを示す記載や、タイミングベルトがベルトの最良の形態又は一例にすぎないことを示す記載は存在しない。
 したがって,本件発明に係る特許明細書において、駆動装置の動力伝達装置として開示されているのはタイミングベルトであると認められ、本件訂正は特許明細書に開示されていない新規の事項を含むものである。


【判示2】
 「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」かどうかは、明細書又は図面の記載に基づいて定められるべきであり、仮に可動プレートを進退させるための駆動装置の動力伝達装置としてタイミングベルト以外のベルトが使用可能であるとしても、その事実をもって本件発明に係る特許明細書に動力伝達装置としてベルトが開示されていると認められるものではない。

 
【結論】
 本件発明に係る特許明細書においてタイミングベルトの上位概念であるベルトが開示されているということはできない。

(感想)
 裁判所の判断は、このような判断で統一されているようだ。
  

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