知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

カラオケ用のビデオ記録媒体(城ヶ島事件?)

2006-03-11 09:13:18 | 特許法29条柱書
◆H11. 5.26 東京高裁 平成09(行ケ)206 特許権 行政訴訟事件

<概略>
 特許出願(特願昭57-40901号)を原出願とする分割出願として、平成2年11月30日、名称を「ビデオ記録媒体」とする発明につき、特許出願をした(特願平2-330750号)が、平成8年5月21日に拒絶査定を受けた。
 審判請求をしたが、平成8年審判第15456号事件として審理され、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされた。

(請求項の記載)
 歌うべき曲の伴奏となる音声情報と、該曲の歌詞となる文字情報および映像情報とが記録されたビデオ記録媒体において、前記文字情報のうちの前記音声情報の進行に伴なった歌うべき文字の色を上記文字情報に着色を行う色調変化器によって異ならしめて記録したことを特徴とするビデオ記録媒体。


<争点>
 本願発明のビデオ記録媒体による情報の提示が、情報の単なる提示に当たるかどうかが争われた。

 特許庁における「特許・実用新案」に関する審査基準である本件基準(平成5年7月20日発行、審判甲第2号証、本訴甲第7号証)において、「産業上利用することができる発明」に該当しないものの類型として、「情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するもの)」は、「技術的思想」でないことから当該「発明」に該当しないが、「情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法など〉に技術的特徴があるもの」は、当該「発明に該当する旨が開示されており、本願発明が産業上利用することができる発明に該当するか否かを検討する際にも、この基準に開示された考え方が基本的に適用されるべきことに、当事者間に争いがなかった。
 審査基準によると、情報の単なる提示(単なる情報の提示ではない!)は、発明ではないとされる。


<「当裁判所の判断」より>
(審査基準の妥当性)<
 特許法2条に定義される発明とは、その定義からも明らかなように、「技術的思想であること」をその要件の1つとするものであるが、この要件に示された「技術」については、「技術は一定の目的を達成するための具体的手段であって実際に利用できるもので、技能とは異なって他人に伝達できる客観性を持つものである」(最高裁判所昭和52年10月13日第1小法廷判決・判例タイムス335号265頁)ことが必要とされるものと認められるところ、この観点からみて、本件基準が、「情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するもの)」を、「技術的思想」でないことから「産業上利用することができる発明」に該当しないものとし、「情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法など)に技術的特徴があるもの」を、当該「発明」に該当する旨を開示したことは、いずれも相当と認められる。

(基準適用時の留意点)
○ 特許請求の範囲に記載された構成から把握できるものから判断
 この発明における技術的特徴は、特許法36条5項「特許請求の範囲には、発明の詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない。」(昭和60年法律第41号による改正前のもの)の規定の趣旨から見て、特許請求の範囲に記載された構成から把握できるものでなければならない。また、この本件基準に開示された考え方は、従前からの発明の成立性に関する客観的理解を具体的に明記したものと解されるから、当事者間に争いがないとおり、上記基準の発行前に出願された本願発明が産業上利用することができる発明に該当するか否かを検討する際にも、当然適用されるべきものと認められる。
○ 「提示」とは
 一般的に「提示」とは、文理上、「提出して示すこと」、あるいは「差し出して見せること」と解釈されるから、情報記録媒体における情報の「提示」とは、記録媒体に、当該情報を特定の手段や方法を用いて記録し、記録された態様の性質に応じて、人の五感に対して情報に起因する結果を提供することと解される。そうすると、記録媒体における「情報の提示(提示それ自体、提示手段、提示方法など)に技術的特徴があるもの」とは、情報の記録の仕方それ自体や、記録手段及び記録方法等に技術的特徴があることから、その結果として、提供された情報にその特徴が反映されたものといわなければならない。

(本件の提示について)
要旨の後段では、「前記文字情報のうちの前記音声情報の進行に伴なった歌うべき文字の色を上記文字情報に着色を行う色調変化器によって異ならしめて記録したことを特徴とする」ものとされており、これによれば、歌うべき曲の歌詞である文字情報に基づく文字について、一定の色を付すことを前提として、伴奏となる音声情報の進行、すなわち時間の経過に伴い、色調変化器によって、この文字の色を、順次、異なる色に着色せしめて記録したことを特徴とするものと認められ、この記録媒体を表示装置において再生した場合には、歌唱者に対して、伴奏となる音声情報の進行に伴って、歌うべき文字の色が、順次、異なって表示されていくという結果を提供するものである。このように歌うべき歌詞を文字として記録するようにし、しかも、その文字のうち現に歌うべき文字を他の文字と区別できるように色を変化させて記録するという構成を採用し、これに相当する結果を提供する以上、本願発明は、文字に関する「情報の提示」に技術的特徴を有するものといわなければならない。

(「記録」や「ビデオ記録媒体」へ技術的な影響を与えていないとの被告主張に対し)
 被告は、本願明細書における、・・・この最終的な混合情報が記録再生装置7のビデオ記録媒体に記録されているとの記載を参照すれば、・・・情報を提示する「記録」や「ビデオ記録媒体」へ技術的な影響を与えるものではなく、記録する情報の内容を、音声情報と文字情報の色との関係で更に特定したものであって、「情報」についての内容を具体的に記載したものとみるべきであると主張する。
 本願発明は、従来のカラオケ装置において、歌い始めのタイミングがずれたり、伴奏に対する歌詞の箇所が判らないという状況が生じたことから、歌詞を見ずとも歌うことができ、伴奏とのタイミングがずれたとしても歌うべき個所がすぐに判るビデオ記録媒体を提供することを技術課題としており、その解決のための実施例として、映像情報と文字情報及び歌の進行に伴い着色された文字情報とが混合され、これに対し音声情報が更に混合されて記録される旨が記載されているものと認められる。
 しかし、これらの混合されて記録されたものが、情報の1態様である旨は記載されておらず、しかも、上記の記載はいずれも本願発明の要旨に基づく1実施例の説明にすぎないところ、本願発明の要旨においては、前示のとおり、「文字情報のうち前記音声情報の進行に伴った歌うべき文字の色を上記文字情報に着色を行う色調変化器によって異ならしめて記録した」とされており、特許請求の範囲において文字情報に関する記録の仕方、すなわち、情報の提示の仕方を明確に規定し、これを発明の特徴と明記しているのであって、単なる情報の内容を記載したものではないから、「情報の単なる提示(提示される情報の内容にのみ特徴を有するもの)」を行うものではないことは明らかであり、被告の上記主張を採用する余地はない。

(記録自体に何ら特徴はないという被告主張に対し)
 被告は、・・・ビデオ記録媒体に記録するときには、既に順次置き換えられた文字情報を単に記録しているだけであるから、この記録状態は、通常の文字入りビデオ映像を通常どおり記録することと変わりないものであり、これらによって、情報を提示する「記録」や「ビデオ記録媒体」を技術的・具体的に記載しているとはいえないから、本願発明の情報の提示に技術的特徴があるといえないと主張する。
 たしかに、・・・、順次異なる色に置き換えられた文字情報を記録する状態は、通常の文字入りビデオ映像を記録する場合と異なるものではないと推測されるが、本願発明の技術的特徴は、前示のとおり、音声情報の進行に伴い歌うべき文字の色を異なる色に着色して記録する点にあり、その記録の状態に特徴を有するものではなく、また、異なる色に着色して記録することが具体的でないともいえないから、被告の上記主張は失当というほかない。


<感想>
 請求項には、ビデオ記録媒体の再生時の動作については何ら記載されておらず、記載のある限度で技術常識を働かせても、再生時の動作については不明瞭であるというしかない。審決は、まず、特許法36条の記載要件を問題とすべきところ、それを問題とせず、請求項の記載を超えた、発明の詳細な説明を参照することを許した点で問題である。
 請求項の記載を超えた発明の詳細な説明の参照を指摘して許さなければ、成立性はむしろ否定された可能性が高いと思う。


 




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