知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許請求の範囲の用語の解釈(目的・効果・請求項の特定事項から意義を認定した事例)

2009-06-02 22:17:50 | 特許法70条
事件番号 平成20(行ケ)10342
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年05月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


(2) 本件発明1の「チャネル状の区画」の意義
ア 前記(1)アのとおり,特許請求の範囲(請求項1)の記載における「チャネル状の区画」について,「少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し」と規定されるのみであり,その他何らの限定もない
 したがって,「チャネル状の区画」は,ある放熱素子に設けられた第2の板状素子と,その放熱素子に隣接連結する放熱素子に設けられた第1の板状素子とによって形成される空間を含むのみならず,ある放熱素子に設けられたそれぞれの板状素子によって形成されるそれぞれの空間をも含むものと解するのが相当であり,同一の放熱素子に設けられた「第1の板状素子」及び「第2の板状素子」によって形成される1つの空間のみに限定して解する根拠はない

 念のため,本件特許明細書の記載をも参酌して検討してみても,上記の解釈を左右する点はない。

すなわち,本件特許明細書の記載によれば,・・・という問題のあったものである(甲6,段落【0002】~【0008】)。本件発明1は,このような問題点を解決するものであって,・・・を目的とするものである。
 そのために本件発明1は,請求項1に係る構成を有するが,特に,放熱素子を構成する第1の板状素子と第2の板状素子において,第1及び第2の板状素子のそれぞれの外側面が,放熱素子の外側面の表面温度を低下させるための,及び,同時に放熱素子の熱交換効率を増大させるための第1及び第2の折り曲げ部を有しており,また,第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し,さらに,放熱素子が,他の放熱素子と連結したとき,放熱素子の外側面が,本体に2つの一層大きな実質的に平坦な対向する側壁を形成する。・・・。

以上のとおりであり,本件発明1における「チャネル状の区画」は,第1及び第2の板状素子における第1及び第2の折り曲げ部によって形成され,空気の流通性を高め,オイルラジエータの外面温度を抑える空気流通路であることが求められるが,それ以外に,同一の放熱素子に設けられた「第1の板状素子」及び「第2の板状素子」によって形成される1つの空間のみに限定して解される余地はない

イ これに対して,原告は,
請求項1の記載によると,同一の放熱素子に第1及び第2の板状素子があることを前提にした上で,チャネル状の区画の形成を特定して記載していること,
段落【0018】においては,同一の放熱素子の板状素子間に形成された区画を「チャネル状の区画」としていること,
③【図3】等においては「チャネル状の区画」として符号15の空間が特定されていること,
④段落【0024】及び【0025】の「選択的な空気流のチャネル」に係る説明も同様に理解されること,
⑤段落【0027】の記載において,隣接する放熱素子間に形成された区画が「内側」と表現され,「チャネル状の区画」とは区別されて記載されていること
を理由として,同一の放熱素子を形成する第1及び第2の板状素子によって形成される空間(【図3】等で符号15が付された空間)のみが「チャネル状の区画」に相当し,隣接する放熱素子の板状素子とによって形成される空間は「チャネル状の区画」に該当しないと限定して解釈すべきであると主張
する。

しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。すなわち,前記のとおり,
特許請求の範囲の記載において,「チャネル状の区画」は,「少なくとも前記第1の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部,及び,少なくとも第2の板状素子の第1及び第2の折り曲げ部が,チャネル状の区画を形成し」と規定されるのみであり,その他何らの限定もないこと,
②本件特許明細書の記載のいずれを参酌しても,「チャネル状の区画」が,同一の放熱素子に設けられた「第1の板状素子」及び「第2の板状素子」によって形成される1つの空間のみに限定されることによって生じる格別の機能,作用効果も示されていないことに照らすならば,原告の主張は,到底,採用する根拠とはなり得ない。

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