知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

審判の対象・範囲,無効審決の効力の及ぶ指定商品の範囲が曖昧であるにもかかわらずした無効審決

2007-12-02 23:24:06 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10172
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年11月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


『4 審理手続等の誤りについて
 審決は,被告の無効審判請求が,本件商標の指定商品中「これらの類似商品」についての登録を無効とすることを含むものであり,審判の対象・範囲,無効審決の効力の及ぶ指定商品の範囲が曖昧であるにもかかわらず,審判手続の過程で適切な措置を採らず,「これらの類似商品」を含めて無効審決をした点において,手続等に違法がある。この点は,念のために述べるものである。

(1) 法46条1項本文は,「商標登録が次の各号のいずれかに該当するときは,その商標登録を無効にすることについて審判を請求することができる。この場合において,商標登録に係る指定商品又は指定役務が二以上のものについては,指定商品又は指定役務ごとに請求することができる。」と規定する。これは,特定の指定商品又は指定役務(以下「指定商品等」という。)に係る部分についてのみ無効理由がある場合に,商標登録全体を無効とするのは相当でないとの趣旨から,商標登録の一部についての無効を認めることとしたものと解される。

 商標登録に係る指定商品等が二以上の商標登録について,二以上の指定商品等について無効審判を請求したときは,その請求は指定商品等ごとに取り下げることができること(法56条2項により準用される特許法155条3項),指定商品等が二以上の商標登録又は商標権については,商標権の消滅後の無効審判請求(法46条2項)や商標登録を無効にすべき審決の確定及びその効果(法46条の2)などにつき,指定商品等ごとに商標登録がされ,又は商標権があるものとみなされること(法69条)を併せ考えれば,商標登録に係る指定商品等が二以上のものに係る無効審判請求においては,無効理由の存否は指定商品等ごとに独立して判断されるべきことになる。

 そして,無効審判請求における「請求の趣旨」は,審判における審理の対象・範囲を画し,被請求人における防御の要否の判断・防御の準備の機会を保障し,無効審決が確定した場合における登録商標の効力の及ぶ指定商品等の範囲を決定するものであるから,その記載は,客観的かつ明確なものであることを要するというべきである。したがって,「請求の趣旨」に,登録を無効とすることを求める指定商品等として,「・・・類似商品」,「・・・類似役務」など,その範囲が不明確な記載をすることは,請求として特定を欠くものであって,許されないというべきである。

(2) 本件についてみるに,被告は,前記第2,1のとおり,本件商標の指定商品中「セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽及びこれらの類似商品」についての登録を無効とすることを求めて,審判請求をした。被告が無効とすることを求めた指定商品の範囲は,商標法施行規則別表において「被服」に含まれる商品群として掲げられた「セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽」にとどまらず「これらの類似商品」を含むという点において,これを明確に把握することが困難である。
 仮に,被告の請求をすべて認める無効審決が確定した場合,本件商標に係る登録商標の効力の及ぶ指定商品の範囲は,第25類「被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,仮装用衣服,運動用特殊衣服,運動用特殊靴」から「セーター類,ワイシャツ類,寝巻き類,下着,水泳着,水泳帽及びこれらの類似商品」を除外した指定商品となるが,その範囲は,「これらの類似商品」が除かれる結果として,客観的明確性を欠き,法的安定性を害する。

 したがって,被告による本件商標に対する無効審判の請求のうち,指定商品中「これらの類似商品」に係る部分は,審判の対象・範囲が不明確であるとともに,無効審決が確定した場合において登録商標の効力の及ぶ指定商品の範囲を曖昧にするものであるから,適法な審判請求とは認められない。よって,審決中,本件商標の指定商品のうち「これらの類似商品」についての登録を無効とするとした部分は,審決の内容のみならず,審判手続の面からも違法といえる。

 本件商標の無効審判を審理する審判体としては,実質的な審理を開始するに先だって,まず,釈明権を行使するか,補正の可否を検討する等の適宜の措置を採るべきであり,そのような措置を採ることなく,漫然と手続を進行させた審判手続のあり方は妥当を欠く点があったというべきである。

(3) 商標権が設定登録された場合には,商標とともに指定商品等が商標権の範囲となるものであって(法27条),商標権者は,指定商品等について登録商標の使用をする権利を専有し(法25条),指定商品等及びこれに類似する商品・役務について他人の登録を阻止し(法4条1項11号),使用を禁止することができる(法36条,37条)のであるから,指定商品等の内容及び範囲は,少なくとも指定商品等に係る取引者,需要者にとって明確であり,指定商品等が具体的にどのような商品・役務であり,これにどのような商品・役務が含まれるのかが明らかである必要があることは,いうまでもない。したがって,指定商品等について,「・・・類似商品」,「・・・類似役務」,あるいは,「ただし・・・類似商品を除く」,「ただし・・・類似役務を除く」など,その範囲が不明確な記載をすることは許されるべきではない

 また,設定登録時には,指定商品等の範囲が客観的に明確であるにもかかわらず,法50条に基づく商標登録の取消審判請求に対する審判手続における適切を欠いた審理の結果,後発的に指定商品等の範囲の明確性が失われる場合も散見されるところであり(知的財産高等裁判所平成19年6月27日判決・平成19年(行ケ)第10084号審決取消請求事件,同平成19年10月31日判決・平成19年(行ケ)第10158号審決取消請求事件参照),このような運用はすみやかに改善されるべきものと考える。』


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