知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許権を破産裁判所及び破産管財人に申告しなかった破産者の損害賠償請求訴訟の原告適格

2012-06-17 20:53:09 | Weblog
事件番号  平成23(ワ)38220
事件名  特許権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成24年05月16日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋

1 原告適格の有無(本案前の争点)について
(1) 破産手続開始決定があった場合には,破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利は,破産管財人に専属するから(破産法78条1項),破産財団に関する訴訟は破産管財人が当事者適格を有する(同法44条1項・2項)。
 これを本件についてみるに,原告は,本件破産手続を廃止する旨の決定が確定した日(平成23年12月21日)よりも前である平成23年11月26日に本件訴訟を提起している(前提事実(2)オ,(3)イ)のであり,破産手続廃止の決定は確定しなければ効力が生じないから(破産法217条8項),本件訴訟の提起日においては,本件破産管財人が本件訴訟の当事者適格を有していたと解される。
 そうすると,本件訴訟は,その提起時において,原告適格を有しない者の訴えであったから,不適法な訴えであったといわざるを得ない。

(2) 原告は,その後,本件破産手続が終了し,原告が本件特許権及びこれに基づく損害賠償請求権の管理処分権を回復したから,原告適格の欠缺は治癒された旨主張する。

 そこで検討するに,確かに,破産手続が終了した場合には,・・・,破産者は当該訴訟手続を受継しなければならない(破産法44条4項・5項)。しかしながら,破産管財人の任務が終了した場合であっても,破産管財人は,急迫の事情があるときの必要な処分や財団債権の弁済をしなければならないし(同法90条),新たに配当に充てることができる相当の財産があることが確認されたときは,追加配当を行うことができる(同法215条1項後段)など,破産管財人の管理処分権限が認められる場合がある。
 このような破産法の規定に照らすと,破産手続が終結した後における破産者の財産に関する訴訟については,当該財産が破産財団を構成し得るもので,破産管財人において,破産手続の過程で破産終結後に当該財産をもって同法215条1項後段の規定する追加配当の対象とすることを予定し,又は予定すべき特段の事情があれば,破産管財人に当事者適格を認めるのが相当である。・・・(最高裁平成3年(オ)第1334号同5年6月25日第二小法廷判決民集47巻6号4557頁参照)。
 加えて,破産手続が廃止によって終了した場合であっても,破産管財人は財団債権を弁済しなければならない(破産法90条2項)のであるから,破手続が廃止によって終了した後における破産者の財産に関する訴訟については,当該財産が破産財団を構成し得るもので,破産管財人において,破産手続の過程で破産手続廃止後に当該財産をもって財団債権に対する弁済や破産債権に対する配当の対象とすることを予定し,又は予定すべき特段の事情があれば,破産管財人に当事者適格を認めるのが相当である。
 これを本件についてみるに,原告は,その陳述書(甲12)において,本件特許権を本件破産裁判所及び本件破産管財人に申告しなかったことを認めている上,本件破産手続の廃止決定以前に本件訴訟の委任状を作成し,その決定の5日後に本件特許権侵害の特許法102条1項の推定による損害額を1億0962万円と主張して本件訴訟を提起した(・・・)のであるから,本件特許権が価値を有する可能性があることを知りながら,本件破産裁判所に対して本件特許権及びこれに基づく損害賠償請求権を申告しなかったと認められる。

 そうすると,原告の重要財産開示義務(破産法41条)の違反によって,本件破産管財人は,本件破産手続の過程において,本件特許権の換価やこれに基づく損害賠償請求権の行使の機会を失い,ひいては本来行うべき財団債権に対する弁済や破産債権に対する配当の機会を失ったというべきであるから,財団債権に対する弁済や破産債権に対する配当の対象とすることを予定すべき特段の事情があったと認めるのが相当である。
 したがって,本件訴訟においては,口頭弁論終結時点においても,本件破産管財人が原告適格を有するというべきである。

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