知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許法49条の解釈

2007-04-28 21:27:27 | Weblog
事件番号 平成12(行ケ)385
裁判年月日 平成14年01月31日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 山下和明

『3 取消事由3(本願発明2及び3に関する判断遺脱)について
  原告は,審決は,本願発明2及び3について判断しておらず,また判断しない理由を何ら示していないので,判断遺脱のそしりを免れ得ない,と主張する。

 特許法49条は,次のとおり規定している。
「審査官は,特許出願が次の各号の一に該当するときは,その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
 ・・・。」

 この規定によれば,特許出願に係る発明が,特許法29条等の規定に基づき特許をすることができないものであるときは,審査官は,その特許出願について拒絶査定をしなければならない。このことは,昭和62年の特許法改正前の一発明一出願の制度においては,当然のことであった。同改正により同制度が廃止され,関連する複数の請求項に係る発明を一つの願書で特許出願をすることが認められた後においても,同条は,次に述べる理由により,一つの特許出願における複数の請求項に係る発明のいずれか一つが,特許法29条等の規定に基づき,特許をすることができないものであるときは,その特許出願全体を拒絶すべきことを規定しているものと解すべきである。

 特許法49条は,前記のとおり,「その特許出願に係る発明が・・・第29条・・・の規定により特許をすることができないものであるとき」は,「その特許出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。」と規定しているのであり,51条の「特許出願について拒絶の理由を発見しないときは,特許をすべき旨の査定をしなければならない。」との規定とともに,一つの特許出願について,拒絶査定か特許査定かのいずれかの行政処分をなすべきことを規定しているものであり,昭和62年改正により,一つの特許出願において複数の発明を複数の請求項に記載することができるとの改正がなされたときにも,この点は,何ら変更されていない。また,このことは,特許法が,特許査定後の特許異議の申立てについては,「2以上の請求項に係る特許については,請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。」(113条本文)と明文で規定し,特許無効の審判についても,「2以上の請求項に係るものについては,請求項ごとに請求することができる。」(123条1項本文)と明文で規定し,特許査定という行政処分をなした後には,各請求項ごとに,異議申立てあるいは無効審判の申立てをすることができることを明記しているのに対し,前記49条及び51条においては,これと対照的に「特許出願について」拒絶査定ないし特許査定をすることを明記していることからも明らかというべきである。

 特許法が上記のようなものとして49条の規定を設けた制度的な理由は,大量の特許出願について迅速な処理をすべき要請があることにあるであろう。もっとも,他方では,このような制度によると,一つの特許出願における複数の請求項に係る発明の一つについて,特許法29条の規定により特許をすることができない事由がある場合には,その他の請求項に係る発明について,特許付与を受ける機会が奪われることになり,出願人にとって不利益な結果となることが懸念されるところである。しかし,特許法は,審査官に拒絶査定の前に拒絶の理由を通知すべき義務を負わせ(50条),出願人は,拒絶理由通知を受ける前はいつでも,同通知を受けた後は所定の期間内に,明細書又は図面について補正をする機会を与えられているのであり(17条の2第1項,4項),審判においても,同様に拒絶理由の通知の制度(159条2項)と明細書又は図面の補正の機会が与えられている(17条の2第1項,4項)のであるから,出願人は,これにより拒絶理由通知により拒絶されることが予想される請求項に係る発明を補正したり,削除したりすることができ,柔軟な対応が可能となるのである。また,特許法は,出願人に分割出願の制度も認めており,出願人は,願書に添付した明細書又は図面について補正をすることができる期間内に限っては,二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができるのである(44条1項)。したがって,出願人は,拒絶理由通知の制度,並びに,同通知の前及び同通知の後の所定の期間内における補正又は分割出願の制度により,適切な対応をすることが可能なのであるから,49条についての上記解釈により出願人が不利益を被る結果となることについては,十分な手続的な担保がなされているとみることができる

 本件の場合,審決は,本願発明1につき,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断しているのであるから,これによって本願出願が全体として特許法49条2号に該当し,拒絶をすべきものとなることは明らかである。仮に,審決が本願発明2及び3について判断をしたとしても,本願発明1が49条2号に該当する以上,本件出願を拒絶すべきものであるという結論には影響しない。

 原告は,審査官は,審査の段階ですら全請求項について審査しているのに,審判の段階において,本願発明2及び3について,審理・判断をしないのは,違法であり,また,その判断を省略する場合にはその理由を付すべきである,旨主張する。しかしながら,審査官が審査の段階で全請求項について審査したとしても,これは,拒絶査定がされた後,出願人が審判を請求するときに補正が可能であることを考慮しての単なる運用というべきものであり,このような運用が特許法の解釈に影響するものではない。そして,49条についての上記のような解釈は,長年にわたる特許庁における実務とも合致するものであり,出願人にとって明らかなものというべきであるから,審決がこのような事項についてまで詳細な理由を付さなければならないということもできない。

 また,原告は,審判請求時の特許庁への納付手数料が,請求項の数に応じたものとなっている,旨主張するが,このことは,特許がされる場合にすべての請求項について審理・判断がされることに対応するものである。』

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