知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

形式ではなく技術思想を検討する事例

2008-05-26 07:01:08 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10241
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年05月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『オ(ア) これに対し本件審決は,「ロック機構の操作部材が蓋体から両端部が突出しているものは,甲第2号証には記載されていなく,参考資料1~4にも記載されていない。」,「参考資料1~4は,ポットの栓体に設けられた弁体を操作部材で開閉操作するものであり,そもそも弁体のロック機構ではなく,参考資料4の操作手段は蓋体から操作部材の両端部が突出しているものの,収納袋の排気弁とは技術分野,技術的課題が全く異なるものであり,甲第1号証に記載された発明にこれら参考資料1~4に記載された技術を適用することを動機付ける技術的関連性を何ら見出せない。」と判断した(審決書6-3-3 (b))。

 本件審決のこの説示は,要するに,
①参考資料1~4に記載されたものは,いずれもポットの栓体に設けられた弁体を操作部材で開閉操作するものであって,弁体のロック機構ではなく,したがって,参考資料4には蓋体から操作部材の両端部が突出している操作手段が記載されているものの,ロック機構の操作部材が蓋体から両端部が突出している場合には当たらず,甲第2号証及びその他の参考資料にも蓋体から両端部が突出しているロック機構の操作部材は記載されていない,
参考資料1~4に記載された技術は,収納袋の排気弁とは技術分野,技術的課題が全く異なるものであり,甲第1号証に記載された発明に参考資料1~4に記載された技術を適用することを動機付ける技術的関連性を何ら見出せないというものであると解され,被告の上記第4の2の2の(2)のウの主張も上記②の説示と同旨である。

 しかしながら,参考資料1~4に記載されているのは,ポット又は魔法瓶ないし液体容器の栓の開閉機構に関する技術ではあるものの,いずれも操作部材を操作することにより,栓体に設けられた弁体を押圧し,弁体を最下点で固定して液体流路の開放又は閉止の状態を保持するものであり,少なくとも閉止状態を保持するものについては,本件審決のいう「弁体のロック機構」にそのまま当たるものというべきであるし,
 また,閉止状態を保持するものも,開放状態を保持するものも,ともに周知であることにかんがみれば,開放状態を保持するものの機構を閉止状態を保持するもの(すなわち,本件審決のいう「弁体のロック機構」)に転用することは当業者にとって容易なことであるから,結局,本件審決の上記①の説示は失当である


さらに,流体の動きを制御する弁の開閉機構に関する技術は,流体を取り扱う種々の技術分野に共通して用いられるいわば汎用的な技術であることは明らかであるから,甲1発明の弁体を操作する構造を設計するに当たって,弁体を操作する各種の技術を参照することには,当業者にとって十分な動機付けがあるというべきである。
 のみならず,参考資料1~4に開示された技術に係るポット又は魔法瓶は,日常的に身の回りにおいて用いられるものであり,かつ,これらの製品において,栓の開閉に弁体を用いた機構が使用されていることは,当業者ならずとも容易に了知し得るものであるから,上記のとおり,弁体を操作する各種の技術を参照することについて十分な動機付けを有する当業者が,参考資料1~4に開示された事項から抽出される周知技術を甲1発明に適用することに格別の困難があるとはいうことはできない。したがって,本件審決の上記②の説示及びこれと同旨の被告の主張も失当である。』

最新の画像もっと見る