知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

映画の著作者に関する議論

2007-09-28 06:59:14 | Weblog
事件番号 平成19(ワ)11535
事件名 著作権侵害差止請求事件
裁判年月日 平成19年09月14日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 市川正巳

『(イ) 映画の著作者に関する議論
a 旧著作権法下における学説
旧著作権法下において,映画利用の円滑化を図るため,映画製作者に財産権である著作権を帰属させることについては,あまり異論はなかった。
しかし,映画の著作物の著作者がだれであるかについては,著作権と著作者人格権の分属を認めるのか,現実に創作行為をなし得ない法人が著作者となり得るのかなどの議論と相まって,学説は,①映画製作者であるとする説,②映画監督であるとする説,③脚本,監督,音楽担当者等の共同著作物とする説などに分かれていた。

b 著作権制度審議会第4小委員会審議結果報告
昭和37年に文部大臣の諮問機関として設置された著作権制度審議会第4小委員会が昭和40年5月21日に提出した審議結果報告には,映画の著作物の著作者がだれかという問題について,①シナリオの著作者,音楽の著作者,監督等の映画製作に創作的に関与した者の共同著作物であるという考え方と,②映画製作者の単独の著作物であるという考え方の2つの考え方が併記されていた。
しかし,その後,検討を重ねた結果,昭和41年3月9日の第4小委員会再審議結果報告では,2つの考え方を併記するという従来の結論を改め,①の考え方を採用し,②の考え方は少数意見として付記するにとどめられた。ただし,シナリオと音楽の著作者については,映画の著作者から除外して原作者として扱うことにし,映画の著作者の範囲を具体的に特定することをやめて,「映画の全体的形成に創作的に関与した者」とし,だれが著作者になるかは個々の映画ごとの判断に委ねることとした。

c 著作権制度審議会答申
著作権制度審議会は,上記小委員会の審議結果報告やこれに対して関係団体から提出された意見,専門委員会審議結果報告などを総合的に検討して,昭和41年4月20日文部大臣に答申し「映画, の著作者は,『映画の全体的形成に創作的に関与した者』とする。著作者には,監督,プロデューサー,カメラマン,美術監督などが該当し,俳優も映画の全体的形成に創作的に関与したと認められるものである限り,映画の著作者たり得ると考えるが,著作者を法文上例示することはしないものとする。」と述べている。
同答申を受けて著作権法案が作成され,第63回国会に提出されて,昭和45年4月28日,新著作権法が成立した。

d 立法担当者の説明
文部省著作権課長補佐として旧著作権法の全面改正や,同課長として著作権法施行令,同施行規則の制定作業に従事した加戸守行は,「著作権法逐条講義(初版)」(甲21)523頁において,新著作権法16条について,「新法では,第2条第1項第2号の著作者の定義規定を敷衍したものとして,第15条及び第16条を規定しているものでありまして,実態的には,新法施行前と施行後との間に著作者が変わるということはありえないとの前提に立った理解をしている」「第15条及び第16条の考え方が旧法時代の著作物についても妥当し,新法は旧法上の解釈を明確にしたもので,旧法と新法との間に実質的相違はないとの前提に立っていた」と説明している。

(ウ) 新著作権法附則7条
新著作権法附則7条の立法担当者であった加戸守行は,「著作権法逐条講義(初版)」(甲21)527~528頁において,同附則7条が適用される具体例として,次のとおり,旧著作権法22条ノ3所定の独創性を有する映画の著作物の保護期間を挙げ,映画の著作物についてだれが著作者であるかは旧著作権法の解釈に委ねるとしても,映画監督らが著作者であるとする説に立てば,旧著作権法3条が適用される旨説明している。
「本条は,新法において原則的保護期間を著作者の死後50年に延長するなど一般的に保護期間を延長いたしておりますが,例外的に旧法による保護期間のほうが長い場合もありますので,新法施行前に公表された著作物の著作権で現に稼働しているものについては,旧法による保護期間が新法による保護期間よりも長い場合には,その長いほうの保護期間を既得権として保障するものとし,なお従前の例によることとしたものであります「本。」条が適用される…第2のケースは,旧法第22条ノ3にいう独創性を有する映画著作物の保護期間でございます。…新法第54条では一律に映画著作物の保護期間を公表後50年…としております。旧法上の解釈として映画の製作者が著作者であったとする説に立てば,その映画著作物は団体名義の著作物として公表後33年の保護しかなかったということになりますが,映画監督等が著作者であったとする説に立てば,その映画著作物は,ニュース映画等の非独創的なものを除いて,著作者の死後38年の保護を受けていたことになりますので,この場合には,その映画著作物の公表後12年以内に映画監督等が死亡していない限り,旧法の保護期間のほうが新法の保護期間より長いことになります。
…このような場合には,旧法の死後38年…の保護期間が認められるということです。」

(エ) 平成15年改正附則3条
文化庁長官官房著作権課は,「著作権法の一部を改正する法律について」コピライト2003年8月号(甲8)37頁において,平成15年改正附則3条の立法趣旨について,「本条は,旧著作権法の下(1970年以前)で創作された映画の著作物について,旧著作権法による著作権の保護期間(著作者の死後38年)が,改正後の著作権法による保護期間(公表後70年)よりも長くなる場合には,その長いほうの保護期間を適用する旨を定めたものである。」「旧著作権法において,映画の著作物の保護期間は,『著作者の生存間及びその死後38年間』とされている場合があるため,例えば,1950年に公表された映画の著作物の保護期間は,映画監督が1990年に死亡したことを想定すると,旧著作権法の規定により,2028年まで保護されることとなるが,改正後の著作権法によれば,2020年で保護期間が消滅することとなる。このように改正後の著作権法による保護期間が,旧著作権法の規定の適用(に)より短くなる場合には,権利者の既得権を保護する必要があることから,本条の規定により,長い方の保護期間を適用する旨を定めたものである。」と説明し,映画の著作物について,監督が著作者である場合,旧著作権法3条が適用になる旨説明している。』

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