知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈

2007-09-29 15:53:58 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10494
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年09月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義


『1 物の発明と方法の発明の区別
 特許法は,発明の実施について「物の発明」と「方法の発明」とを区別して規定し(同法2条3項),そのいずれであるかによって,法律効果が異なるものとしている(例えば,同法101条,104条,175条2項)。

 また,出願人は,「物の発明」としての特許を請求するか,「方法の発明」としての特許を請求するかを選択することができるだけでなく,2以上の請求項に分けて記載することによって,両者の特許を請求することもできる。本件出願時において,平成15年法律第47号による改正前の特許法37条は,「・・・」と定めていたから,「物の発明」と「方法の発明」の両者を一出願により請求することが可能であった。

 さらに,特許法70条1項は,「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定していることからすると,方法の発明と物を生産する方法の発明との区別は,まず,「願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載」に基づいて判定すべきものである(最高裁判所平成10年(オ)第604号事件平成11年7月16日判決・民集53巻6号957頁)。

 以上によれば,特許請求の範囲の記載は,出願人が「物の発明」と「方法の発明」とで法律効果が異なることを考慮して,いかなる権利を請求するかを選択し,その選択の結果を反映させるべく自ら適切な表現を選んで記載したものであるから,特許出願に係る発明が「物の発明」と「方法の発明」のいずれであるかの区別は,特許請求の範囲の記載に基づいて判断すべきであると解される。』

『2 プロダクト・バイ・プロセス・クレームの実質
補正前請求項1が広義のプロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式で書かれていることは,当事者間に争いがない。原告は,東京高裁平成14年判決の判示事項を反対解釈して,プロダクト・バイ・プロセス・クレームにおいて,請求項に記載された物が当該請求項に記載された製法によって製造されたものに限られることが明示されていれば,当該請求項の実質的なカテゴリーが「方法」であると解釈されるべきであると主張する

 プロダクト・バイ・プロセス・クレームとは,東京高裁平成14年判決にあるとおり,「物(プロダクト)に係るものでありながら,その中に当該物に関する製法(プロセス)を包含する」形式で記載された特許請求の範囲であり,「発明の対象となる物の構成を,製造方法と無関係に,直接的に特定することが,不可能,困難,あるいは何らかの意味で不適切(例えば,不可能でも困難でもないものの,理解しにくくなる度合が大きい場合などが考えられる。)であるとき」などに認められる特許請求の範囲の記載方法でであるということができる

 上記の意義からも明らかなように,プロダクト・バイ・プロセス・クレームにあっては,特許請求の範囲に物の製造方法(プロセス)が記載されていても,その記載は発明の対象となる物(プロダクト)を特定するためであり,物の製造方法についての特許を請求するものではない。したがって,プロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式で書かれた発明のカテゴリーは,あくまで「物の発明」であって,「方法の発明」ではないし,「物の発明」かつ「方法の発明」ということもできない原告の主張は,東京高裁平成平成14年判決を正解するものとはいえず,採用することはできない。』(*ブログ作成者注:東京高裁平成平成14年判決の抜粋を末尾に示す。)

『3 本件補正の適否
(1) 前記1のとおり,出願人は「物の発明」と「方法の発明」のいずれとするかを選択し,表現することができる立場にあり,出願人の選択の結果は特許請求の範囲に表現されており,「物の発明」と「方法の発明」の区別は,特許請求の範囲の記載に基づいて判断すべきであるところ,補正前請求項1の記載は,「…光学ガラス基板上に所望の溝深さの回折格子溝を直接刻線してなるホログラフィック・グレーティング。」となっているから,補正前発明1の対象は,「ホログラフィック・グレーティング」という「物」であることは明らかである。原告は,請求項の末尾の文言のみに着目したとして,審決の認定を非難するが,補正前発明1は,特許請求の範囲の記載から上記のとおり一義的に明確であり,この記載に基づき補正前発明1を「物」の発明と認定した審決に誤りはない。

(2) プロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式で書かれていることは,発明のカテゴリーが「物の発明」であることを意味し,たとえ製造方法の記載が含まれていても「方法の発明」ではないし,また,「物の発明」かつ「方法の発明」ということもできないから,補正前請求項1がプロダクト・バイ・プロセス・クレームの形式で書かれていることは,上記の結論を左右するものではない。

(3) 補正後請求項1は「…ホログラフィック・グレーティング製作方法」と記載され,その発明のカテゴリーが「方法の発明」であることは明らかであるから,本件補正は,「物の発明」であった補正前請求項1を「方法の発明」である補正後請求項に補正することを目的としている。発明のカテゴリーによって,法律効果が異なることは前記1のとおりであるから,発明のカテゴリーを「物の発明」から「方法の発明」に変更することは,「物の発明」として請求していた権利とは異なる効果を有する別の権利を請求することにほかならない。したがって,本件補正は,特許請求の範囲を変更するものであり,特許法17条の2第4項各号のいずれにも該当しない。』



<東京高裁平成平成14年判決>
事件番号 平成13(行ケ)84
裁判年月日 平成14年06月11日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 山下和明
『しかしながら,本件訂正発明の「滴下或いは噴霧」との要件(取消事由1),は,本件製法要件中の要件であり,また,固形化過程において「湿式粉砕機」によって粉砕する行程を必須の要件とするかどうかも(取消事由2),製造方法そのものに関する事柄であり,いずれも本件訂正発明の対象となる物の構成,すなわち「重合溶媒であるジクロロメタンが1ppm以下である光ディスク用ポリカーボネート成形材料」を特定する上では特段の意味を有しない要件であることは,本件訂正明細書の上記記載から明らかである。原告の上記主張は,本件製法要件中の前記の各要件が,製法として刊行物1に開示されていないとの主張,あるいは,両発明が製造方法として異なるものであるとの主張であるにすぎない。前に述べたところから明らかなように,物の発明である本件訂正発明の特許要件を論ずるに当たり,このような物の構成を特定する上で特段の意味のない製法要件に関し,製造方法としての新規性あるいは進歩性等があるかどうかについての議論をする必要は全くないのであるから,原告の主張する上記取消事由は,いずれも主張自体において既に失当である。』


(所感)
 単なるカテゴリーの相違は39条の審査においては実質同一とされるから、この判決がこの扱いと矛盾しないかが一見問題と見える。
 しかし、プロダクト・バイ・プロセスクレームの特殊性を考えたとき、矛盾は生じないと思われる。なぜなら、プロダクト・バイ・プロセスクレームにおいては、製造方法そのものに関する事項が特定事項として記載されているときその部分は物の構成に特段の意味を有さず、方法のステップとしては意味を有する要件となる。そうすると、他の記載をそのままにして末尾を操作してカテゴリを入れ替えた場合、有効な記載部分が異なってくることになり発明としては異るものになるからである。

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