知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

経過規定中の「この法律の施行の際現に」の解釈

2008-01-04 07:30:01 | 最高裁判決
事件番号 平成19(受)1105
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成19年12月18日
裁判所名 最高裁判所第三小法廷
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
(裁判長裁判官 藤田宙靖,裁判官 堀籠幸男,裁判官 那須弘平,裁判官 田原睦夫,裁判官 近藤崇晴)

『3 原審は,本件改正後の著作権法54条1項が適用されるのは,本件改正法の施行日である平成16年1月1日において本件改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物であるところ,本件映画は平成15年12月31日の終了をもって著作権の存続期間が満了しているから,本件改正後の著作権法54条1項の適用を受けないとして,上告人らの請求をいずれも棄却した。これに対し,上告人らは,本件経過規定中の「この法律の施行の際現に」という文言は,当該法律の施行の直前の状態を指すものと解すべきであるのに,これを「この法律の施行の日において」と同義に理解し,本件改正後の著作権法54条1項の適用を否定した原審の判断には,本件経過規定の解釈適用を誤った法令違反があると主張する。

4(1) そこで検討すると,本件経過規定中の「・・・の際」という文言は,一定の時間的な広がりを含意させるために用いられることもあり,「・・・の際」という文言だけに着目すれば,「この法律の施行の際」という法文の文言が本件改正法の施行日である平成16年1月1日を指すものと断定することはできない。しかし,一般に,法令の経過規定において,「この法律の施行の際現に」という本件経過規定と同様の文言(以下「本件文言」という。)が用いられているのは,新法令の施行日においても継続することとなる旧法令下の事実状態又は法状態が想定される場合に,新法令の施行日において現に継続中の旧法令下の事実状態又は法状態を新法令がどのように取り扱うかを明らかにするため であるから,そのような本件文言の一般的な用いられ方(以下「本件文言の一般用法」という。)を前提とする限り,本件文言が新法令の施行の直前の状態を指すものと解することはできない。所論引用の立法例も,本件文言の一般用法によっているものと理解できるのであり,上告人らの主張を基礎付けるものとはいえない。
 したがって,本件文言の一般用法においては,「この法律の施行の際」とは,当該法律の施行日を指すものと解するほかなく,「・・・の際」という文言が一定の時間的な広がりを含意させるために用いられることがあるからといって,当該法律の施行の直前の時点を含むものと解することはできない。

 本件経過規定における本件文言についても,本件文言の一般用法と異なる用いられ方をしたものと解すべき理由はなく,「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物」とあるのは,本件改正前の著作権法に基づく映画の著作物の保護期間が,本件改正法の施行日においても現に継続中である場合を指し,その場合は当該映画の著作物の保護期間については本件改正後の著作権法54条1項が適用されて原則として公表後70年を経過するまでとなることを明らかにしたのが本件経過規定であると解すべきである。
 そして,本件経過規定は,「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については,なお従前の例による」と定めているが,これは,本件改正法の施行日において既に保護期間の満了している映画の著作物については,本件改正前の著作権法の保護期間が適用され,本件改正後の著作権法の保護期間は適用されないことを念のため明記したものと解すべきであり,本件改正法の施行の直前に著作権の消滅する著作物について本件改正後の著作権法の保護期間が適用されないことは,この定めによっても明らかというべきである。
 したがって,本件映画を含め,昭和28年に団体の著作名義をもって公表された独創性を有する映画の著作物は,本件改正による保護期間の延長措置の対象となるものではなく,その著作権は平成15年12月31日の終了をもって存続期間が満了し消滅したというべきである

 (2) 上告人らは,本件改正法の施行後においては「改正前の著作権法」はもはや存在しないのであるから,本件文言は当該法律の施行の直前の状態を指すものと理解しないと,「この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物」という規定自体が論理破たんを来すこととなる旨主張する
 しかし,本件文言は,上記のとおり,新法令の施行日においても継続することとなる旧法令下の事実状態又は法状態が想定される場合に,新法令の施行日において現に継続中の旧法令下の事実状態又は法状態を新法令がどのように取り扱うかを明らかにするために用いられるものであるから,何ら論理矛盾は存しない

 また,上告人らは,本件改正法の成立に当たり,昭和28年に公表された映画の著作物の保護期間の延長を意図する立法者意思が存したことは明らかであるとして,この立法者意思に沿った解釈をすべきであると主張する。
 しかし,本件経過規定における本件文言について,本件文言の一般用法とは異なる用い方をするというのが立法者意思であり,それに従った解釈をするというのであれば,その立法者意思が明白であることを要するというべきであるが,本件改正法の制定に当たり,そのような立法者意思が,国会審議や附帯決議等によって明らかにされたということはできず,法案の提出準備作業を担った文化庁の担当者において,映画の著作物の保護期間が延長される対象に昭和28年に公表された作品が含まれるものと想定していたというにすぎない のであるから,これをもって上告人らの主張するような立法者意思が明白であるとすることはできない。』

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