知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標法4条1項8号判断事例

2008-01-03 21:20:47 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10113
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年12月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『1 取消事由4(商標法4条1項8号該当性判断の誤り)について
(1) 外観
 本件商標は,別紙1の構成から成るものであり,両端をぼかして描いた朱色の水平線を介して,その上部に「INTELLASSET」の文字(以下「本件商標の文字部分」という。)が等間隔に,その下部の中央部に本件商標の文字部分より小さく「GROUP」の文字が等間隔にそれぞれ配されている。また,本件商標の文字部分において,「I」と「A」の文字は他の文字よりも約1.25倍大きく(高く)書かれている
 甲第15及び第16号証によれば,原告の名称は,「Intel Corporation」であることが認められる。
 ・・・
 これらを対比して考察すると,本件商標の文字部分はローマ字11文字から成り,英字引用商標はローマ字5文字から成るが,本件商標の文字部分「INTELLASSET」のうち冒頭の5文字が英字引用商標「INTEL」及び原告の名称の冒頭部分と同一である。すなわち,本件商標の文字部分の冒頭には,英字引用商標及び原告の名称の一部の文字が包含されている

(2) 称呼
 本件商標の「INTELLASSET」の文字部分において,「I」と「A」の文字は他の文字よりも大きく(高く)書かれ,「ASSET」は英語の既存の単語として存在することからすれば,「ASSET」の部分から,その単語の発音に従い,「アセット」の称呼が生ずることまでは直ちに認識される。次に,「INTELL」は既存の語ではないため,各表音文字の音に従い,「インテル」の称呼が生じる。

 そして,「INTELL」と「ASSET」との間に空白(スペース)はないから,「INTELLASSET」を連続して発音すれば,「インテラセット」の称呼が生じ得るが,「I」と「A」の文字が他の文字よりも約1.25倍大きく(高く)書かれている点に着目すれば,2語から構成されるものとして, 「INTELL」の後で一旦切って,次の「ASSET」を発音する称呼も生ずると考えられ,この場合は「インテルアセット」の称呼を生ずるものと認められる。

 甲第15及び第16号証によれば,原告の名称は「Intel Corporation」であり,「インテルコーポレーション」の称呼を生ずる。
 ・・・
 本件商標から「インテルアセット」との称呼も生じ得ることからすれば,本件商標の冒頭部分の称呼の4音が引用商標の称呼及び原告の名称の冒頭部分と同一である場合があり,この場合には,本件商標の冒頭には,引用商標及び原告の名称の一部の称呼が包含される

(3) 観念
ア 本件商標の文字部分「INTELLASSET」の「I」と「A」の文字は他の文字よりも約1.25倍大きく(高く)書かれているから,本件商標は,「INTELL」と「ASSET」の2語から成るものとして,「ASSET」の部分を既存の英単語として認識することができ,「ASSET」の意味として一般に親しまれている「資産,財産」の観念が生じ得る。しかし,「INTELL」は,既存の英単語にないから,この部分から特定の観念が生ずるものとはいえない

イ ・・・

ウ 本件商標の文字部分「INTELLASSET」の「I」と「A」の文字は他の文字よりも大きく(高く)書かれ,かつ,「INTELL」と「ASSET」との間に空白(スペース)がないことに着目すると,「INTELLASSET」は,「INTELL」と「ASSET」とを合わせて1語とした造語であると認識され,「ASSET」が「資産,財産」の意味の名詞であるから,需要者には,「INTELL」は「ASSET」の修飾語であると認識され,「INTELL」の意味が不明でも,「『INTELL』な資産,財産」という観念までは生ずると認められる

・・・
「INTELL」が既製語にはないのに対して,「ASSET」は一般に「資産,財産」の意味であると認識されるから,「INTELLASSET」から生ずる観念としては,「ASSET」を軽視することはできず,何らかの「資産,財産」,少なくとも「資産,財産」に関する何らかの観念が生じるものというべきである

(4) 原告の略称としての「INTEL」の著名性
ア ・・・
イ 以上の事実関係からすると, 「INTEL」は,本件商標が出願された平成14(2002)年当時において,パソコンを日常生活や業務で使用するなどパソコンに何らかの関係を有する極めて広範囲の国民の間に,「INTEL」といえば原告(インテルコーポレーション)を表わす略称として広く知れ渡っていたものと推認することができる
・・・

(5) 「INTELL」が既製語にはなく,それ自体から特定の観念は生じないものの,上記(4)のとおり,「INTEL」は,原告の略称として広く認識されており,本件商標の文字部分「INTELLASSET」の冒頭には,原告の著名な略称である「INTEL」が包含されることは一見して明らかであるし,また,「I」と「A」の文字は他の文字よりも約1.25倍大きく(高く)書かれ,「INTELL」と「ASSET」とを分けて認識させることから,「インテルアセット」の称呼も生じ得ることは,前記(2)に説示したとおりである。

 確かに,「INTELL」と「ASSET」との間に空白(スペース)はなく,「INTELLASSET」全体を1語として認識することができ,「INTELL」は上記著名な略称と完全には一致せず,本件商標には,文字部分のほかに,朱色の水平線及び「GROUP」の文字も配置されている。
 しかし, 「INTELL」と「INTEL」の相違は,最後の「L」1文字にすぎず,微差であり,いずれも「インテル」の称呼を生ずる綴りである。また,「GROUP」の部分は,企業又は人の集まりとの観念を生じるにすぎない し,朱色の水平線も本件商標の文字部分に比して目立つものではないから,出所識別に何ら寄与しない。
 ・・・
 これらを総合して判断すれば,本件商標に接した需要者は,その文字部分「INTELLASSET」から「資産,財産」の観念を感得するとともに,原告の著名な略称である「INTEL」をも認識し,ひいては原告を想起すると認められる

 被告が「INTEL」の使用につき,原告の承諾を得たと認めるに足りる証拠はないから,本件商標は,商標法4条1項8号の商標に該当する。したがって,この点に関する審決の判断は誤りである。』

最新の画像もっと見る