知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

明細書の記載事項の認定(訂正の可否)

2006-06-24 10:15:16 | Weblog
事件番号 平成17(行ケ)10608
事件名 特許取消決定取消請求事件
裁判年月日 平成18年06月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 篠原勝美

(明細書の記載事項の認定)
『本件特許明細書において,鉄系材料にアルミニウムをどのように含むかについての記載はない。もっとも,鉄鋼材料分野の技術常識によれば,アルミニウムが,本件発明1の鉄系材料において,不可避的不純物として存在し得る成分の一つであることは明らかである。しかし,そうであっても,同鉄系材料において,アルミニウムは,不可避的不純物として存在し得る一群の不純物として把握されるにすぎないのであって,それ以上のものではない。要するに,本件特許明細書において,これに接した当業者が,「アルミニウム」として,いいかえると「不可避的不純物として含まれる量のアルミニウムを含まない」ものとして,個別具体的に明示されているに等しいと認識し得るようなものではなく,存在する一群の不可避的不純物の中に含まれているかもしれないし,含まれていないかもしれないというにとどまるものである。
したがって,本件特許明細書には,鉄系材料におけるアルミニウムの含有量が「不可避的不純物として含まれる量を超える量」であるかについての記載は,一切存在しないというほかない。
以上によれば,鉄系材料におけるアルミニウムの含有について,本件訂正事項のように限定することは,本件特許明細書に記載していない事項であるし,本件特許明細書の記載に接した当業者であれば,本件出願時の技術常識に照らして,そのような限定が記載されているのと同然であると理解する自明な事項であるともいえない。』

(除くクレームの考え方)
『上記記載によれば,「除くクレーム」とは,審査,審判の段階において,対象となる発明の新規性に関して,当該発明の特許請求の範囲と公知技術との構成の一部が重なる場合に,本来であれば,構成が同一であるため新規性を欠くとの査定となるところ,当該発明が公知技術と技術的思想としては顕著に異なり,しかも進歩性を有する発明であるのに,たまたま公知技術と一部が重複しているにすぎない場合には,例外的に,特許請求の範囲から当該重複する構成を除く補正をすることを許すという取扱いをいうものと認められる。』
『いわゆる「除くクレーム」についての上記取扱いは,上記( )の審4 2査基準の(注1)のとおり,先行技術と技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有する発明であるが,たまたま先行技術と重複するような場合に許されるとされており,補正の有無にかかわらず当該先行技術と技術的思想が顕著に異なる発明について許されるとされているものと解される。本件において,鉄系材料におけるアルミニウムの含有について,本件訂正事項のように限定することは,本件特許明細書に記載していない事項であるし,そのような限定が,本件特許明細書から自明な事項であるともいえないことは前示のとおりであるから,上記取扱いによる本件訂正の適法性をいうためには,原告は,鉄系材料におけるアルミニウムの含有についての限定がないと解される本件発明1について,先行技術である引用発明と技術的思想としては顕著に異なり本来進歩性を有する旨の主張・立証をすることを要すると解されるところ,原告は,鉄系材料について「不可避的不純物として含まれる量を超える量のアルミニウムを含まない」発明と引用発明との技術的思想の違いを主張するのみであって,この点でも原告の主張は,理由がない。』

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