知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

阻害要因を認めなかった事例

2012-08-13 23:22:59 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10390
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年07月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 部眞規子、裁判官 井上泰人,齋藤巌
実用新案法3条2項

ア 引用例には,本件考案1の「造花」に相当する揮散体は,「その材質として,上記の溶液を保持でき,かつ,溶液中の有効成分(揮散成分)を揮散させることができるものであればいずれのものでも使用でき」と記載され,その具体例として,「樹脂,パルプ等の有機材料やガラス等の無機材料の多孔性材料」を用いることができることが記載されている(【0010】)。
 引用例には,ソラの木の皮等の天然素材については明記されていないが,ソラの木の皮等の天然素材も,造花に吸収された液体芳香剤をゆっくり揮散させることができ,芳香の揮散を長時間安定的に持続できるという作用効果を有することは明らかであり,上記のとおり,ソラフラワーは,従来周知の造花である。そうすると,ソラの木の皮等の天然素材が記載されていないとしても,引用考案における花弁部の集合体である揮散体に代えて,ソラフラワーを適用することができる

イ このように,引用考案の「揮散体」を,これと同様の作用・機能を有する周知のソラフラワーに置き換える動機は十分に存在し,それを阻害する要因も存在しないから,相違点1に係る構成は,きわめて容易に想到できるものである。
 そして,本件考案1が奏する作用効果,すなわち,ソラの木の皮で作製されたものを用いることにより,造花に吸収された液体芳香剤をゆっくり揮散させることができ,芳香の揮散を長時間安定的に持続できるという作用効果も,引用考案等から予測できる範囲内のものにすぎず,格別のものとは認められない。
・・・

ア 原告は,引用例は,造花の材質として,数多くの例を挙げながら,従来周知の天然素材については一つも挙げていないことを理由に,ソラを含む天然素材を引用考案の造花に適用できないとする阻害要因が存在する旨主張する。
 確かに,引用例(【0010】)には,揮散体の材質として,ソラを含む天然素材について明示されていないが,「揮散体は,その材質として,上記の溶液を保持でき,かつ,溶液中の有効成分(揮散成分)を揮散させることができるものであればいずれのものでも使用でき」るとした上で,紙や布を例示しているにすぎないから,それ以外の材質を何ら排除するものではない。そして,従来周知のソラを含む天然素材も,造花に吸収された液体芳香剤をゆっくり揮散させることができ,芳香の揮散を長時間安定的に持続できるという作用効果を有するもので,「溶液を保持でき,かつ,溶液中の有効成分(揮散成分)を揮散させることができる」ものであるから,天然素材が例示されていないことをもって阻害事由があるとはいえない

同じ実用新案登録の無効審決に係る別訴(引用例異なる。)において阻害要因を認めた事例はここ(下)

阻害要因を認めた事例-否定した事項を要素とする副引用例の組み合わせ

2012-08-13 23:02:51 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10389
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年07月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 部眞規子、裁判官 井上泰人,齋藤巌
実用新案法3条2項

(1) 相違点1について
 本件考案1と引用考案との相違点1は,造花に関して,本件考案1では,「ソラの木の皮で作製した」ものであるのに対して,引用考案は,花芯付属品(おしべ等),花弁,額とからなる花形の形態からなる点である。

(2) 容易想到性
ア 前記2によれば,引用考案の気散管は,・・・という機能を有する。
 気散管は,中空のノズル内に収容され,キャップに取り付けられた花弁等と接することはない。芳香の発散は,専ら気散管の上端部のみによって行われ,・・・,花弁からは芳香が発散されない。このように,引用考案は,芳香剤は気散管から気散するものであって,花形の形態から気散するものではない

 これに対し,ソラの木の皮で形成されたソラフラワーは,花全体に芳香剤が浸透して,花全体から芳香が発散されるものと解され,ソラの木の皮から成る花弁部の細かい組織により,液体芳香剤が緩やかな速度で根本から先端の方へ浸透していくのであるから,芳香を発散しない引用考案の花弁とは機能的に相違する

イ また,・・・。このように,引用考案は,・・・,気散管の上端部をほぐすことによって形成された花芯のみから芳香を発散させることを技術的思想の中核とするものである。
 したがって,引用考案においては,芳香の発散も,花の一部から行われるにとどまり,花弁や花全体から芳香を発散させるという技術的思想は存在しない

ウ しかも,引用考案における気散管が,花弁等と接しないように構成されているのは,気散管を挿抜する際,気散管中の芳香剤が花弁等に付着しないようにするという積極的な理由に基づくものであり,そのために,気散管を敢えて中空のノズル内に収容しているものと認められる。花弁への芳香剤の付着を防止することは,花弁を含む花全体からの芳香の発散を否定することを意味するのであるから,この点において,花弁を含む花全体から芳香を発散させるソラフラワーを適用することの阻害要因が存在する

エ 以上のように,機能及び技術的思想が異なることに照らせば,仮にソラフラワーが周知であったとしても,これを引用考案に適用することの動機付けがないばかりか,むしろ阻害要因があるというべきである。

同じ実用新案登録の無効審決に係る別訴(引用例異なる。)において阻害要因を認めなかった事例はここ(上)