知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

釣りゲームに著作物性を認めなかった事例

2012-08-14 23:16:38 | 著作権法
事件番号 平成24(ネ)10027
事件名 著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年08月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 部眞規子、裁判官 井上泰人,荒井章光

 また,三重の同心円を採用することは,従前の釣りゲームにはみられなかったものであるが,弓道,射撃及びダーツ等における同心円を釣りゲームに応用したものというべきものであって,釣りゲームに同心円を採用すること自体は,アイデアの範疇に属するものである。
 そして,同心円の態様は,・・・具体的表現において,相違する。しかも,原告作品における同心円の配色が,・・・,同心円が強調されているものではないのに対し,被告作品においては,・・・,同心円の存在が強調されている点,・・・,同一画面内でも変化する点,また,同心円の中心の円の部分は,コインが回転するような動きをし,・・・変化する点等において,相違する。そのため,原告作品及び被告作品ともに,「三重の同心円」が表示されるといっても,具体的表現が異なることから,これに接する者の印象は必ずしも同一のものとはいえない。

ウ 以上のとおり,抽象的にいえば,原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面とは,水面より上の様子が画面から捨象され,水中のみが真横から水平方向に描かれている点,水中の画像には,画面のほぼ中央に,中心からほぼ等間隔である三重の同心円と,黒色の魚影及び釣り糸が描かれ,水中の画像の背景は,水の色を含め全体的に青色で,下方に岩陰が描かれている点,釣り針にかかった魚影は,水中全体を動き回るが,背景の画像は静止している点において共通するとはいうものの,上記共通する部分は,表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分にすぎず,また,その具体的表現においても異なるものである。

 そして,原告作品の魚の引き寄せ画面と被告作品の魚の引き寄せ画面の全体について,・・・,同心円が占める大きさや位置関係が異なる。また,被告作品においては,同心円が両端に接することはない上,魚影が動き回っている間の同心円の大きさ,パネルの配色及び中心の円の部分の図柄が変化するため,同心円が画面の上下端に接して大きさ等が変わることもない原告作品のものとは異なる。さらに,被告作品において,引き寄せメーターの位置及び態様,魚影の描き方及び魚影と同心円との前後関係や,中央の円の部分に魚影がある際に決定キーを押すと,円の中心部分の表示に応じてアニメーションが表示され,その後の表示も異なってくるなどの点において,原告作品と相違するものである。その他,後記エ(カ)のとおり,同心円と魚影の位置関係に応じて決定キーを押した際の具体的表現においても相違する。なお,被告作品においては,同心円が表示される前に,水中の画面を魚影が移動する場面が存在する。

 以上のような原告作品の魚の引き寄せ画面との共通部分と相違部分の内容や創作性の有無又は程度に鑑みると,被告作品の魚の引き寄せ画面に接する者が,その全体から受ける印象を異にし,原告作品の表現上の本質的な特徴を直接感得できるということはできない

商品を買い付けた代表取締役に、登録商標の調査確認をしなかったことについて重大な過失がないとされた事例

2012-08-14 22:18:43 | Weblog
事件番号 平成24(ワ)6732
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成24年07月31日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 商標権
裁判長裁判官 大鷹一郎、裁判官 上田真史,石神有吾
会社法429条1項

 原告は,被告会社の代表取締役の被告Aは,被告会社の業務執行として,自ら中国に赴くなどして,製造事業者から被告商品を買い付け,輸入を行っていたものであるところ,電化製品の輸入販売事業に関わる者であれば,被告商品に付された被告標章2を見れば,これが他者の商標ではないかとの疑いを持ち,調査確認すべきことは当然であり,被告会社が被告商品を販売する行為が,原告の本件専用使用権を侵害する行為であることを容易に知り得たものであるから,その職務を行うについて悪意又は重大な過失(会社法429条1項)があった旨(請求原因(4))主張する。

 そこで検討するに,会社法429条1項は,取締役等の会社の役員等が,会社に対する善管注意義務及び忠実義務を負うことを前提として悪意又は重大な過失によってこれらの義務に違反する任務懈怠行為を行い,これによって第三者に損害を被らしめた場合において,その損害賠償義務を負うことを定めた規定であると解されるところ,本件全証拠によっても,被告Aにおいて本件登録商標の存在を知りながら,あえて被告会社に被告標章2が付された被告商品を輸入及び販売させたことを認めるに足りない。また,本件登録商標が周知であったことをうかがわせる事情も本件の証拠上認められないことに照らすならば,被告Aにおいて,被告商品に付された被告標章2を見て他者の登録商標ではないかとの疑いを持ち,調査確認をしなかったことについて,過失はともかく,重大な過失があったとまで認めるに足りない

 したがって,被告Aが故意又は重大な過失によって被告会社に対する任務懈怠行為を行ったものと認めることはできないから,原告の上記主張は,採用することができない。

請求期間を徒過した出願取下げに基づく出願審査請求料の返還請求

2012-08-14 21:49:45 | 特許法その他
事件番号 平成23(行ウ)728
事件名 出願取下げを削除する手続補正書却下の処分に対する処分取消請求事件
裁判年月日 平成24年07月20日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 その他
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 東海林保、裁判官 田中孝一,足立拓人
特許法195条9項,10項,11項

第2 事案の概要
1 本件は,原告らが,自ら行った特許出願について出願取下書を提出した後,特許庁長官に対し,同特許出願の審査請求手数料に係る既納手数料返還請求書を提出し,また,同出願取下書の全文を削除する旨の手続補正書を提出したところ,いずれも特許庁長官から却下処分を受けたことから,これらの処分が違法であると主張して,被告に対し,同手続補正書に係る却下処分の取消し(第1事件)及び同既納手数料返還請求書に係る却下処分の取消し(第2事件)をそれぞれ求める事案である。
・・・

第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件補正書却下処分の適法性)について
(1) 前記第2,2(1)ウのとおり,本件特許出願は,原告らが平成21年9月24日付け本件取下書を提出したことにより取り下げられているから,それに伴って,特許庁における本件特許出願に係る手続は終了したものと解される。
 そうすると,その後に,原告らが本件取下書の全文を削除するとして提出した本件補正書は,特許庁に係属していない手続について補正をしようとするものであるから,特許法17条1項本文に反する不適法なものであり,かつ,その補正をすることができないものであった
と認められる。
 したがって,特許庁長官が特許法18条の2第1項に基づき本件補正書に係る手続を却下した処分(本件補正書却下処分)は,適法というべきであって,同処分の取消しを求める原告らの主張は理由がない。
・・・
2 争点(2)(本件返還請求書却下処分の適法性)について
・・・
(2) この点に関して,原告らは,被告が本件審査請求料を返還しないことが不当利得に該当する旨主張するが,前記(1)のとおり,原告らが納付した本件審査請求料の額は,法定どおりの適正額であったのであるから,その納付が法律上の原因を欠くものとはいえず,被告がこれを収受し,原告らに返還しないことが不当利得に当たるとは認められない。

 また,原告らは,原告らが出願取下げに基づく出願審査請求料の返還請求権を過失で行使しなかったことが過誤であるから,過誤納に関する特許法195条11項の規定に基づいて返還請求ができるとも主張するが,同条項の「過誤納」とは,過大な額の手数料が納付された場合や,手数料を納付すべき理由がないのに手数料が納付された場合など,その手数料の納付が当初から法律上の原因を欠き,納付した手数料を被告が収受することが不当利得となるような場合をいうものと解されるところ,前記(1)のとおり,原告らが納付した本件審査請求料は適正額であり,それが不当利得に該当することはないのであるから,これを同条項の「過誤納」に当たると解する余地はない

 このことは,特許法が,過誤納に係る規定(特許法195条11項)とは別に,出願取下げに基づく出願審査請求料の返還請求について,同条9項の規定を設けていることからも明らかである。