知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許法104条の3の抗弁の成否を判断する前提となる発明の要旨の認定

2012-08-21 23:12:53 | 特許法70条
事件番号 平成23(ネ)10057
事件名 特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日 平成24年08月09日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明,裁判官 八木貴美子,小田真治
特許法104条の3,特許法70条1項

(1) 発明の要旨の認定について
ア ・・・

イ 特許法104条の3は,「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において,当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは,特許権者又は専用実施権者は,相手方に対しその権利を行使することができない。」と規定するが,同条に係る抗弁の成否を判断する前提になる発明の要旨は,特許無効審判請求手続において,特許庁(審判体)が,無効の有無を判断する前提とする発明の要旨と同様に認定されるべきである。
 そして,本件のように,「物の発明」であり,かつ,その特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合における「発明の要旨」についても,前述した特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の認定と同様に認定されるべきである。すなわち,
① 発明の対象となる物の構成を,製造方法によることなく,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときは,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと認定されるべきであるが,
② 上記①のような事情が存在するといえないときは,その発明の要旨は,記載された製造方法により製造された物に限定して認定されるべきである。

 この場合において,上記①のような事情が存在することを認めるに足りないときは,これを上記②の「特許請求の範囲に記載された方法により製造された物」に限定したものとして,当該発明の要旨を認定するのが相当である。

発明の要旨の認定(特許法70条1項)

2012-08-21 23:07:14 | 特許法その他
事件番号 平成23(ネ)10057
事件名 特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日 平成24年08月09日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明,裁判官 八木貴美子,小田真治
特許法70条1項,2項

(1) 発明の要旨の認定について
ア 特許権侵害訴訟における特許発明の技術的範囲の確定について,特許法70条1項は「特許発明の技術的範囲は,願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない」と,同条2項は「前項の場合においては,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする」と,規定する。
 特許権侵害を理由とする差止請求又は損害賠償請求が提起された場合にその基礎となる特許発明の技術的範囲を確定するに当たっては,「特許請求の範囲」記載の文言を基準とすべきである。特許請求の範囲に記載される文言は,特許発明の技術的範囲を具体的に画していると解すべきであり,仮に,これを否定し,特許請求の範囲として記載されている特定の「文言」が発明の技術的範囲を限定する意味を有しないと解釈することになると,特許公報に記載された「特許請求の範囲」の記載に従って行動した第三者の信頼を損ねかねないこととなり,法的安定性を害する結果となる。
 本件のように「物の発明」に係る特許請求の範囲にその物の「製造方法」が記載されている場合,当該発明の技術的範囲は,当該製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべきであって,特許請求の範囲に記載された当該製造方法に限定されることなく,他の製造方法をも含むものとして解釈・確定されることは許されない。

 もっとも,本件のような「物の発明」の場合,特許請求の範囲は,物の構造又は特性により記載され特定されることが望ましいが,物の構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難であるとの事情が存在するときには,発明を奨励し産業の発達に寄与することを目的とした特許法1条等の趣旨に照らして,その物の製造方法によって物を特定することも許され,同法36条6項2号にも反しないと解される場合もある。そして,上記のような事情が存在することが立証された場合にあっては,発明の技術的範囲は,特許請求の範囲に特定の製造方法が記載されていたとしても,特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されることなく,「物」一般に及ぶと解釈され,確定されると解すべきである。

 そして,これを,特許権侵害訴訟における立証責任の分配の観点から整理すると,物の発明に係る特許請求の範囲に,製造方法が記載されている場合,特許請求の範囲は,その記載文言どおりに解釈するのが原則であるから,「発明の技術的範囲が特許請求の範囲に記載された製造方法に限定されない」旨を主張する者において,「物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時において不可能又は困難である」ことについての立証を負担すべきであり,その旨の立証を尽くすことができないときは,発明の技術的範囲を特許請求の範囲の文言に記載されたとおりに解釈・確定すべきことになる。