知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

登録商標と社会通念上同一と認められる商標の使用が認められた事例

2012-08-10 22:58:56 | 商標法
事件番号 平成24(行ケ)10080
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年07月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 部眞規子、裁判官 井上泰人,齋藤巌
商標法50条

2 商標の使用の有無について
(1) 商標の同一性
 商標権者が指定商品について登録商標と社会通念上同一と認められる商標の使用をしていることを証明した場合には,商標法50条による登録商標の取消しを免れることができるところ,本件商標と本件使用商標を対比すると,やや横長の四角形で上方の橙色から下方の黄土色にグラデーションが施された地色や,上方の「First Tap」の欧文字から下方の「Sirop d’erable Pur」の欧文字に至る文字や図形の構成は,以下の点を除いて,おおむね一致している。すなわち,本件使用商標にあっては,「Fine Maple Products」の語末の右下方に「TM」の欧文字が記載されていない点において異なるが,商標全体からみて微細な部分にすぎない
 また,本件使用商標には,「Sirop d’erable Pur」の欧文字の下方にシリアルナンバーや「Extra Light」等の欧文字等が記載されているが,これらは本件使用商標の下部において商品の番号や品質を付加して表示するものにすぎず,これらの表示自体が格別の出所識別機能を有するものではない

 そうすると,本件商標と本件使用商標とは,少なくとも外観においてほぼ同一のものであり,称呼及び観念においても社会通念上同一のものと認めるのが相当である。

前判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)

2012-08-10 22:46:10 | Weblog
事件番号 平成23(行ケ)10333
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年07月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣
前判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)

特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理,審決をするが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理,審決には,同法33条1項の規定により,取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって,再度の審判手続において,審判官は,当事者が取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返しあるいはその主張を裏付けるための新たな立証を許すべきではなく,取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることはできない(最高裁昭和63年(行ツ)第10号平成4年4月28日第三小法廷判決民集46巻4号245頁)。

イ これを本件についてみると,前判決は,前審決が認定した引用例1に記載された発明(本件審決が認定した引用発明と同じものである。)を前提として,前審決が認定した相違点5(本件審決が認定した相違点5と同じものである。)に係る本件発明1の構成のうち,
① ・・・とする構成についても,
② ・・・1.1≦X≦4.3を満足する大きさになるという構成についても,
引用発明との間に相違はないと判断して,引用発明に基づいて容易に発明することはできないとした前審決を取り消したものであるから,少なくとも,引用発明の認定及び相違点5に係る判断について,再度の審決に対する拘束力が生ずるものというべきである。

 また,前判決は,引用発明から算出した関数Xは,本件発明2のXの数値範囲(1.2≦X≦3.9)及び本件発明3のXの数値範囲(1.3≦X≦3.5)についても充足することを示した上で,本件発明2及び3についても,これを容易に発明することができないとした前審決を取り消したものであるから,前判決は,本件審決が認定した相違点6に係る本件発明2の構成についても,相違点7に係る本件発明3の構成についても,本件発明1と同様に,引用発明との間に相違はないと判断したものということができる。したがって,前判決のこれらの判断についても再度の審決に対する拘束力が生ずるものというべきである。

 以上によれば,本件審決による引用発明の認定並びに相違点5ないし7に係る判断は,いずれも前判決の拘束力に従ってしたものであり,本件審決は,その限りにおいて適法であり,本件訴訟においてこれを違法とすることはできない。

先使用による通常実施権が認められた事例

2012-08-10 22:16:41 | 特許法その他
事件番号 平成24(ネ)10016
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成24年07月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣、裁判官 部眞規子,齋藤巌
先使用による通常実施権(特許法79条)

(1) 先使用に係る発明の成否について
 先使用による通常実施権が成立するには,まず,これを主張する者が特許出願に係る発明の内容を知らないで,当該特許出願に係る発明と同一の発明をしていること,あるいは,発明をした者から知得することが必要である(特許法79条)。
 そして,発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作であり(同法2条1項),一定の技術的課題(目的)の設定,その課題を解決するための技術的手段の採用及びその技術的手段により所期の目的を達成し得るという効果の確認という段階を経て完成されるものであるが,発明が完成したというためには,その技術的手段が,当該技術分野における通常の知識を有する者が反復継続して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていることを要し,またこれをもって足りるものと解するのが相当である(最高裁昭和49年(行ツ)第107号同52年10月13日第一小法廷判決民集31巻6号805頁参照)。
(2) そこで,以上の観点から,被控訴人製品に係る発明が完成していたか否かを検討すると,前記前提となる事実及び後掲各証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
 ・・・
(5) 通常実施権の成否について
 前記(2)イ(ア)のとおり,大阪ガスは,遅くとも,本件特許の優先権主張日の約8年前である平成11年3月頃から,本件特許発明2の技術的範囲に属するBPEFを製造していることからすれば,大阪ガスは本件特許発明2の内容を知らないで自らその発明をしたものであることは明らかであるということができる。また,前記(2)ア(ウ)のとおり,被控訴人は,大阪ガスから被控訴人製品に係る発明の内容を知得したものであることについても優に認めることができる。
 したがって,被告は,本件特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得し,優先権主張に係る先の出願の際現に日本国内において本件特許発明2の実施である事業をしていたことが認められるから,本件特許発明2に係る本特許権について,先使用による通常実施権を有するものというべきである。