知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許法44条1項の要件の判断事例

2010-02-27 11:09:26 | 特許法44条(分割)
事件番号 平成21(行ケ)10352
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年02月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟

 すなわち,特許法44条1項の要件を充足するためには,本件特許発明が,原出願に係る当初明細書,特許請求の範囲及び図面に記載されているか否かを判断すれば足りる
 これに対して,審決は,本件特許発明が,原出願に係る当初明細書,特許請求の範囲及び図面に記載されているか否かを判断するのではなく,審決が限定して認定した「原出願発明構造」と,本件特許発明を対比し,本件特許発明は,「原出願発明構造」における構成中の「底板に側板を連設して形成されていること」が特定されていないことを理由として,本件特許発明が,原出願当初明細書等に記載されていないとの結論を導いた。

 しかし,審決の判断は,
① 原出願当初明細書等の全体に記載された発明ではなく,「原出願発明構造」に限定したものと対比をしなければならないのか,その合理的な説明がされていないこと,
② 審決が限定的に認定した「原出願発明構造」の「底板に側板を連設して形成されていること」との構成に関して,本件特許発明が特定していないことが,何故,本件特許発明が原出願当初明細書等に記載されていないことを意味するのか,その合理的な説明はない


審決の判断手法及び結論は,妥当性を欠く。

商標法64条1項の解釈

2010-02-27 10:59:51 | Weblog
事件番号 平成21(行ケ)10198
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年02月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 商標法64条1項について
 防護標章登録制度に係る商標法64条1項は,
「商標権者は,商品に係る登録商標が自己の業務に係る指定商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている場合において,その登録商標に係る指定商品及びこれに類似する商品以外の商品又は指定商品に類似する役務以外の役務について他人が登録商標の使用をすることによりその商品又は役務と自己の業務に係る指定商品とが混同を生ずるおそれがあるときは,そのおそれがある商品又は役務について,その登録商標と同一の標章についての防護標章登録を受けることができる。」
旨規定する。

 同項の規定は,原登録商標が需要者の間に広く認識されるに至った場合には,第三者によって,原登録商標が,その本来の商標権の効力(商標法36条,37条)の及ばない非類似商品又は役務に使用されたときであっても,出所の混同をきたすおそれが生じ,出所識別力や信用が害されることから,そのような広義の混同を防止するために,「需要者の間に広く認識されている」商標について,その効力を非類似の商品又は役務について拡張する趣旨で設けられた規定である。
 そして,防護標章登録においては,
① 通常の商標登録とは異なり,商標法3条,4条等が拒絶理由とされていないこと,
② 不使用を理由として取り消されることがないこと,
③ その効力は,通常の商標権の効力よりも拡張されているため,第三者の商標の選択,使用を制約するおそれがあること
等の諸事情を総合考慮するならば,
商標法64条1項所定の「登録商標が・・・需要者の間に広く認識されていること」との要件は,当該登録商標が広く認識されているだけでは十分ではなく,商品や役務が類似していない場合であっても,なお商品役務の出所の混同を来す程の強い識別力を備えていること,すなわち,そのような程度に至るまでの著名性を有していることを指すもの
と解すべきである。


平成22年02月25日 平成21(行ケ)10196 飯村敏明裁判長も同趣旨を判示。

取締役と会社間の利益相反取引

2010-02-27 10:45:11 | Weblog
事件番号 平成21(行ケ)10290
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年02月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

また,取締役と会社間の利益相反取引に取締役会の承認を必要とする趣旨は,会社の利益保護を図ることにあるから,会社が同取引の無効を主張しない場合は,取締役会の承認を経ていないことを理由として第三者がその無効を主張することはできないというべきである。そうすると,仮に被告と浜田治雄との間の通常使用権許諾契約が,取締役と会社間の利益相反取引に該当するとしても,被告が浜田治雄に対して通常使用権を許諾したことを主張している本件において,原告は,取締役会の承認を経ていないことを理由として通常使用権許諾契約の無効を主張することができないというべきである。

先に出願した背信的悪意者に特許を受ける権利を対抗できるとした事例

2010-02-27 10:27:16 | Weblog
事件番号 平成21(ネ)10017
事件名 特許を受ける権利の確認等請求控訴事件
裁判年月日 平成22年02月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

5 争点(5)〔被控訴人は背信的悪意者であるので本件特許を受ける権利の取得を控訴人に対抗できないか〕について
・・・
(2) 被控訴人は,控訴人において,本件特許を受ける権利につき特許出願を経ていないから,本件特許を受ける権利の承継を被控訴人に対抗することができない(特許法34条1項)旨を抗弁するのに対し,控訴人は,被控訴人において,Aからの本件特許を受ける権利の譲受けにつき背信的悪意者である旨主張するので,この点を検討する。

・・・
イ上記の事実関係を踏まえて検討すると,控訴人のもとで平成15年8月23日に完成した本件発明は,被控訴人においてそのままの形で平成16年6月14日に特許出願がされたということができる。
・・・
 そうすると,Aは,控訴人との秘密保持契約に違反して,本件発明に関する秘密を被控訴人に開示したということができる。
 そして,上記アの事実からすると,被控訴人の代表者であるFは,平成16年6月14日までの間に(ただし,Aから被控訴人への譲渡証書[乙21]は平成16年7月2日付け)被控訴人がAから本件発明の特許を受ける権利の譲渡を受けた際,同発明について特許出願がされていないこと及び本件発明はAが控訴人の従業員としてなしたものであることを知ったというべきである。
 そして,Fは,Aから本件発明について開示を受けてそのまま特許出願しかつ製品化することは,控訴人の秘密を取得して被控訴人がそれを営業に用いることになると認識していたというべきであり,さらに,本件発明はAが控訴人の従業員としてなしたものであることからすると,通常は,控訴人に承継されているであろうことも認識していたというべきである。

 このように,被控訴人の特許出願は,控訴人において職務発明としてされた控訴人の秘密である本件発明を取得して,そのことを知りながらそのまま出願したものと評価することができるから,被控訴人は「背信的悪意者」に当たるというべきであり,被控訴人が先に特許出願したからといって,それをもって控訴人に対抗することができるとするのは,信義誠実の原則に反して許されず,控訴人は,本件特許を受ける権利の承継を被控訴人に対抗することができるというべきである。
・・・
エ 以上のとおり,被控訴人が先に特許出願したからといって,それをもって控訴人に対抗することができるとするのは,信義誠実の原則に反し許されないというべきであり,控訴人は,自ら特許出願をしなくとも,本件特許を受ける権利の承継を被控訴人に対抗することができるというべきである。

発明特定事項の効果を含めた用語の解釈をした事例

2010-02-27 10:04:04 | 特許法70条
事件番号 平成21(行ケ)10139
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年02月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(2) 上記(1)の記載によれば,
本件補正後の請求項1における
「ウェハに第1の圧力を与えながら,平坦化を行なうために表面を化学機械研磨するステップと,前記研磨スラリーの窮乏領域を減じるように化学機械研磨の間第1の圧力を第2の圧力へ断続的に複数回減じてパルス状の圧力を作り出すステップ」
の技術的意義は,
「ウェハの表面を高速の材料除去速度で均一に平坦化するために,化学機械加工処理の間,ウェハに与えた第1の圧力を第2の圧力へ断続的に複数回減じてパルス状の圧力を作り出して,該パルス状の圧力によって,『研磨スラリーを研磨パッドに塗布するステップ』により塗布された研磨スラリーを研磨パッド上のスラリー窮乏領域に行き渡らせるように移動させ,ウェハの表面を平坦化する」
ものであると認められる。

 そして,本願発明において,研磨スラリーを研磨パッド上のスラリー窮乏領域に行き渡らせるように移動させる作用効果は,第1の圧力から第2の圧力へ減じることを断続的に繰り返すことによってもたらされるものと解される

 なお,研磨スラリーの供給については,上記請求項1には「研磨スラリーを研磨パッドに塗布するステップ」という記載しかなく,図3に記載されている装置も,典型的なCMP装置の例として記載されているにすぎないから,本願発明において研磨スラリーの供給方法は特定されていないというべ
きである。
・・・

4 取消事由1(本願発明の要旨認定の誤り)について
(1) 前記2認定のとおり,本願発明は,
「ウェハの表面を高速の材料除去速度で均一に平坦化するために,化学機械加工処理の間,ウェハに与えた第1の圧力を第2の圧力へ断続的に複数回減じてパルス状の圧力を作り出して,該パルス状の圧力によって,『研磨スラリーを研磨パッドに塗布するステップ』により塗布された研磨スラリーを研磨パッド上のスラリー窮乏領域に行き渡らせるように移動させ,ウェハの表面を平坦化する」
ものである。
 したがって,本件補正後の請求項1の「パルス状の圧力を作り出す」という用語は,第1の圧力を第2の圧力へ断続的に減じることでパルス状の圧力を積極的に作り出して研磨スラリーに作用させ,研磨パッド上に研磨スラリーを行き渡らせるようにするものであると解することができるから,その旨の原告の主張を認めることができる。

(2) 被告は,上記請求項1の「パルス状の圧力を作り出す」という用語は,単に「第1の圧力を第2の圧力へ断続的に複数回減じ」てパルス状に変化する圧力を作り出すことを意味していることは明確であると主張するが,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するに当たっては,特許出願に関する一件書類に含まれる発明の詳細な説明の記載や図面をも参酌して,その技術的意義を明らかにした上で,技術的に意味のある解釈をすべきである
 そうすると,上記請求項1の「パルス状の圧力を作り出す」という用語は,上記のとおり解釈することができるのであって,「研磨パッド上に研磨スラリーを行き渡らせるようにする」ことは,「パルス状の圧力を作り出す」ことの結果として起きる現象であるとしても,それを用語の解釈に含めることができないという理由はない