知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

法103条の過失推定規定の非適用の主張

2010-02-21 22:09:42 | Weblog
事件番号 平成19(ワ)2076
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年01月28日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次


4 争点4(本件特許権侵害についての被告の過失の有無)について
(1) 被告は,第1次訂正及び本件訂正は本件特許権の存続期間満了後になされたものであり,本件特許権の存続期間中は本件訂正後の特許請求の範囲の記載に基づく本件特許権は全く公示されていない上,登録時の特許請求の範囲の記載に基づく本件特許には無効理由の存在がうかがわれるとして,本件特許権の存続期間中の被告の行為について,特許法103条の過失推定規定は適用されないと主張する

(2) 特許法103条が,他人の特許権又は専用実施権を侵害した者はその侵害の行為について過失があったものと推定する旨規定している趣旨は,特許発明の内容が特許公報,特許登録原簿等により公示されており,業として製品の製造販売を行っている業者においてその内容を確認し得ることが保障されているから,業者が製品を製造販売し又は製造方法を使用するなどの際に,公示された特許発明の内容等を確認し,上記行為が他人の特許発明を実施するものであるか否か,すなわち,他人の特許権又は専用実施権を侵害するものでないか否かを慎重に調査すべきことを期待し得るのであり,業者に対してかかる注意義務を課し得ることを基礎として,その調査を怠って漫然と他人の特許発明を実施し,その特許権を侵害することになったときは,通常の不法行為における過失の立証責任を転換し,その業者の過失の存在を推定したものであると解される。

・・・

(3) しかし,被告の上記主張は,以下のとおり理由がない。
 訂正審判請求あるいは無効審判における訂正請求は,特許権の消滅後においてもすることができ(特許法126条6項,134条の2第5項),訂正を認める審決が確定したときは,その訂正後における明細書,特許請求の範囲又は図面により特許出願,出願公開,特許をすべき旨の査定又は審決及び特許権の設定の登録がされたものとみなされる(同法128条,134条の2第5項)。
そして,特許請求の範囲の訂正は,特許請求の範囲の減縮,誤記又は誤訳の訂正,明りょうでない記載の釈明を目的とするものでなければならず(同法126条1項,134条の2第1項),かかる訂正要件を満たす適法な訂正が行われる限り,訂正前の特許発明を実施しない製品等が訂正後の特許発明を実施すると解される余地はない

そうすると,業者としては,公示されている訂正前の特許発明の内容等について調査し,自己の製造販売する製品等が同特許発明を実施するものではないことを確認していれば,当然に,訂正後の特許発明を実施するものではないことを確認したことになるから,訂正後の特許発明の内容が公示されていなかったとしても,公示されている訂正前の特許発明の内容を調査することにより訂正後の特許発明を実施することを回避し得ることになる。
 したがって,訂正後の特許発明を実施する行為が,その公示される前にされたものであったとしても,その注意義務を軽減する理由はない

以上からすれば,訂正後の特許権を侵害した者は,訂正がなされる前の侵害行為についても特許法103条により過失が推定されると解すべきである。

この点,被告は,訂正前の特許に無効理由の存在がうかがわれる場合には特許法103条の過失推定規定は適用されないとも主張する。しかし,訂正前の特許請求の範囲の記載に基づく特許に無効理由があったとしても,訂正審判請求あるいは無効審判における訂正請求が行われて無効理由が回避される可能性があり,このことは,容易に予見し得るというべきである。
したがって,特許法103条により過失を推定するためには,自らの行為が特許発明の技術的範囲に属する実施行為であることの予見可能性があれば足りると解すべきであって,訂正前の特許に無効理由があったとしても,それだけで特許法103条による過失の推定が覆ると解することはできない(・・・。)。

著作権法32条1項の引用に該当するとした事例

2010-02-21 21:43:52 | 著作権法
事件番号 平成20(ワ)32148
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年01月27日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

(4) まとめ
以上のとおり,被告各図表は,いずれも,被告書籍の表現形式上,利用する側の著作物であるAの執筆部分と明確に区別して認識することができると認められ,また,偶数頁に掲載されたAの執筆部分の記載内容を,読者に視覚的に分かりやすく伝えるための補足資料として利用されたものにすぎず,Aの執筆部分が主,被告各図表が従という関係にあると認めることができる(・・・。)。

 そして,被告書籍における原告各図表の利用行為が上記のようなものでありまた原告各図表の利用に当たり,「出典:月刊ネット販売」と明記されていることからすれば,被告書籍に被告各図表を掲載した被告の行為は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認めることができる。

 したがって,仮に,原告各図表が編集著作物であるとしても,被告が被告書籍において原告各図表を利用した行為は,著作権法32条1項の引用に該当し,適法なものと認めることができる。