知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

数値限定を特定する技術的意義の十分な記載

2009-09-06 17:32:02 | 特許法36条4項
事件番号 平成21(行ケ)10004
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年09月03日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

3 取消事由2(特許法36条4項1号違反との判断の誤り)について
 なお,本件審決は,本件発明1における「ベールの頂面における内接矩形内に位置する部分の少なくとも90%が,平坦な板から約40mm以下離間する程度に,前記ベールの頂面および底面が平坦であり」「,少なくともベールが梱包された後に,外圧に対して少なくとも0.01barの負圧がベールにかかっている」との発明特定事項につき,特定の数値限定を伴うものであり,このような限定を付した構成を採用することにより,本件発明1の課題を解決するものと解されるが,発明の課題解決との関係が明らかであるというためには,数値限定を付した場合の効果(実施例)と,このような数値限定を満足しない場合の効果(比較例)とを十分に記載しておき,技術上の意義を明確にしておくこと等が必要と考えられるところ,本件明細書の発明の詳細な説明をみても,このような記載は見当たらず,してみると,このような数値限定を伴う本件発明1において,かかる数値限定を特定する技術的意義が十分に記載されているとはいえないことから,特許法36条4項1号の規定に適合するものとはいえず,また,本件発明1を引用する本件発明2ないし26についても同様であるとする

 しかしながら,本件明細書の発明の詳細な説明には・・・との記載があり,これらによると,本件明細書には,・・・してしまうという課題があったことについての記載があることが認められる。

そして,本件明細書の発明の詳細な説明には・・との記載がある。
 これに対し,本件明細書には,上記課題を解決するための手段として,・・・,ベールの頂面及び底面が平面であるようにすること,・・・負圧がベールにかかっている状態にすること,負圧の制御方法の記載があることが認められるのであって,本件発明1につき,当業者において,本件明細書の記載により,その課題との関係での数値限定を付した技術的意義を理解できるものと解され,そうすると,数値限定を付した場合の効果(実施例)と,このような数値限定を満足しない場合の効果(比較例)との十分な記載がないから,本件発明1の技術的意義が十分に記載されているとはいえないとの理由のみで,本件発明1及びこれを引用する本件発明2ないし26が特許法36条4項1号の規定に適合しないとした本件審決の判断も首肯し得ないものといわなければならない。

個別の請求項ごとの訂正許否の判断の要否

2009-09-06 17:13:40 | 特許法126条
事件番号 平成21(行ケ)10004
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年09月03日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 取消事由1(個別の請求項ごとに訂正の許否を判断しなかった誤り)につい

(1) 無効審判における複数の請求項に係る訂正の請求
 昭和62年法律第27号による特許法の改正によりいわゆる改善多項制が,そして,平成5年法律第26号による特許法の改正により無効審判における訂正請求の制度がそれぞれ導入され,特許無効審判の請求については,2以上の請求項に係るものについては請求項ごとにその請求をすることができ(特許法123条1項柱書き後段),請求項ごとに可分的な取扱いが認められているところ,特許無効審判の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,この請求項ごとに請求をすることができる特許無効審判請求に対する防御手段としての実質を有するものであるから,このような訂正請求をする特許権者は,請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになることに照らすと,特許無効審判請求がされている請求項についての特許無効の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,請求項ごとに個別に行うことが許容され,その許否も請求項ごとに個別に判断されることになる(前掲最高裁平成20年7月10日判決参照)。

 そして,特許無効審判の請求がされている請求項についての訂正請求は,請求書に請求人が記載する訂正の目的が,特許請求の範囲の減縮ではなく,明りょうでない記載の釈明であったとしても,その実質が,特許無効審判請求に対する防御手段としてのものであるならば,このような訂正請求をする特許権者は,請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになることからして,請求項ごとに個別に訂正請求をすることが許容され,その許否も請求項ごとに個別に判断されるべきものである。

(2) これを本件についてみるに,特許無効審判請求に係る本件審判において,請求人である被告は,本件発明に係る特許請求の範囲の記載が不明確であるなどとの無効理由を主張したこと(甲20),これに対し,被請求人である原告は,被告主張の無効理由を回避するために,特許無効審判における訂正の請求として,本件特許の請求項1ないし3,5,9ないし13,18,19,21ないし25につき本件訂正請求を行ったこと(甲18,22)が認められ,本件訂正請求は,特許無効審判請求に対する防御手段としてされたものであることが明らかである。

(3) そうすると,本件訂正請求は,請求項ごとに個別に行われたものであった以上,その許否も請求項ごとに個別に判断されるべきものといわなければならない。
 そして,本件訂正請求は,直接的には本件特許に係る請求項のうち1ないし3,5,9ないし13,18,19,21ないし25の訂正を求めるものであるが,前記第2の2のとおり,本件特許は,請求項1ないし26から成り,請求項2ないし26はいずれも請求項1を直接的又は間接的に引用する従属項であるから,請求項1について訂正を求める本件訂正は,請求項1を介してその余の請求項2ないし26についても訂正を求めるものと解さなければならない

「その物」の全体について実施できる程度の記載を要するとした事例

2009-09-06 16:13:15 | 特許法36条4項
事件番号 平成20(行ケ)10272
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年09月02日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 取消事由2(実施可能要件違反の判断の誤り)について
(1) 本願明細書に実施形態を網羅的に実施することの記載を要するとの判断の誤り
ア 原告は,旧特許法36条3項所定の実施可能要件の判断に当たり,本願発明が実施可能か否かは,本来任意に選択された一個の部分(本件では抗体)が生産及び使用をすることができるように本願明細書に記載されていることで足りると解すべきであるにもかかわらず,審決が「網羅的」に得ることが必要であるとした点には,誤りがあると主張する。

 旧特許法36条3項は,「・・・発明の詳細な説明には,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果を記載しなければならない。」と規定する。特許権は,公開することの代償として,物の発明であれば,特許請求の範囲に記載された「その物」について,実施する権利を専有することができる制度であることに照らすならば,公開の裏付けとなる明細書の記載の程度は,「その物」の全体について実施できる程度に記載されていなければならないのは当然であって,「その物」の一部についてのみ実施できる程度に記載されれば足りると解すべきではない。したがって,原告の上記主張はその前提において失当である。

イ 原告は,バイオテクノロジー関連の分野では,実施可能要件は,すべての実施形態を網羅的に得ることを要求していないのが現状であり,それを要求することは,出願人に酷な結果をもたらし,ひいては発明を奨励するという特許法の趣旨に反し,著しく不合理であると主張する

 確かに,バイオテクノロジー関連の分野では,発明の詳細な説明において,「欠失,挿入または置換」されたすべての実施態様が具体的に記載されていなくても,特許請求の範囲において,特定のアミノ酸配列を示し,さらに同配列中の「1又は数個が欠失,挿入または置換」等がされた場合をも包含する形式での記載が許容される場合がある。

 新規かつ有用な活性のある遺伝子に関連した技術分野において,当該分野のすぐれた発明等を奨励する観点,及び,仮にそのような記載が許容されなかった場合に第三者の模倣を阻止できず,独占権としての実効性を確保できない不都合を回避する観点から,特許請求の範囲に,特定のアミノ酸配列等を示した上で,同配列中の「1又は数個が欠失,挿入または置換」等がされた場合をも包含する記載が許容される場合があってしかるべきであるといえよう。
 しかし,そのような形式で特許請求の範囲の記載が許される場合であっても,そのことが,当然に発明の詳細な説明の記載については,一部の実施のみの開示によって,実施可能要件を充足するものと解すべきことを意味するものではない

 すなわち,特許請求の範囲に,新規かつ有用な活性のあるポリペプチドを構成するアミノ酸の配列が包括的に記載(配列の一部の改変を許容する形式で記載)されている場合において,元のポリペプチドと同様の活性を有する改変されたポリペプチドを容易に得ることができるといえる事情が認められるときは,いわゆる実施可能要件を充足するものと解して差し支えないというべきであるが,これに対し,上記のような形式で記載された特許請求の範囲に属する技術の全体を実施することに,当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤や創意工夫を強いる事情のある場合には,いわゆる実施可能要件を充足しないというべきである。

次の判決も同趣旨。
平成20(行ケ)10273
平成20(行ケ)10274
平成20(行ケ)10275

請求項の用語を制限的に解すべきでないとした審決を否定した事例

2009-09-06 15:47:49 | 特許法17条の2
事件番号 平成20(行ケ)10329
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年09月01日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣


『〔被告の主張〕
(1) 目的要件の充足性
ア 原告は,・・・,上記記載に係る補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると主張する。

イ しかしながら,特許請求の範囲の記載に用いられる用語は,権利範囲を確定するために用いられるものであるから,制限的に解されるべきものではないところ,当初明細書に記載のない「印刷データの言語の種類と関係がない」との表現が用いられれば,対角的な「印刷データの言語の種類と関係がある」との意味内容も問題となり得る。
 そうすると,これらの意味内容の別を明記していない当初明細書の記載から,「印刷データの言語の種類と関係がない」との表現の追加により特定される内容がいかなるものかを把握することはできない
というべきである』

『第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)について
(1) 目的要件の充足性
 本件審決は,本件補正における「前記拡張装置は,印刷データの言語の種類に依存しない,自動原稿給送装置,ソータ装置,両面印刷ユニット,ペーパーカセット,フィニッシャ及びスキャナのうちの少なくともいずれかである」との記載を追加する補正事項のうち,「印刷データの言語の種類に依存しない」との記載は,「本件の出願当初の明細書又は図面になく,如何なることを意味するのか,その内容が明確ではない…から,本件補正後の特許請求の範囲(請求項1,16)の記載は明りようでなく,特許請求の範囲の減縮に当たるか否かを判断することすらできない。」(12頁15~29行)とし,本件補正は目的要件を充足しないと判断した。

 しかしながら,上記補正事項のうち,「拡張装置」については,「自動原稿給送装置,ソータ装置,両面印刷ユニット,ペーパーカセット,フィニッシャ及びスキャナのうちの少なくともいずれか」と特定され,証拠(甲7,33~39)によると,本件特許出願時の当業者の技術常識として,これらの特定された拡張装置がいかなるものであるかは明らかであり,かつ,それらの機構や機能に照らし,上記拡張装置はいずれも印刷データを記述する言語の種類に影響を受けないことも明らかであると認められる。
 そして,本件補正の内容が上記第2の2(2)のとおりであることを併せ考えると,本件補正は,補正前の請求項に記載された認識手段による拡張装置の接続状態の認識について,記録装置の電源が投入された場合に,拡張装置と繰り返し通信することにより,繰り返して行われるものに限定し,「第一のデバイスID」及び「第二のデバイスID」については,情報処理装置においてプリンタドライバを使用可能とするために用いられるものであることを明示して,そのようなものに限定するとともに,「拡張装置」については,自動原稿給送装置,ソータ装置,両面印刷ユニット,ペーパーカセット,フイニッシャ及びスキャナのうちの少なくともいずれかのものに限定した上,これらが印刷データを記述する言語の種類に影響を受けないものに明示的に限定したものであるということができる。

 また,上記「認識手段」,「第一のデバイスID」,「第二のデバイスID」及び「拡張装置」はいずれも本件補正前の特許請求の範囲の請求項1記載の発明を特定するために必要な事項であって,本件補正発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が本件補正前の発明と同一であることは明らかである。

 そうすると,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものというべきであるから,本件補正が目的要件を充足しないとの本件審決の判断は誤りである。』

課題解決に向けてあえてしようとする場合の動機付け

2009-09-06 13:43:06 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10405
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年09月01日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣


(2) 課題を解決する手段としての「近傍に配置すること」
 位置決めの際に,位置決めが必要となる部材同士の組(相違点にいう「接続電極部」)と位置決め部材の組(同「位置決め部」)を互いに近傍に配置することにより,位置ずれが小さくなることは当業者にとって自明の事項であると認められる。
 しかしながら,本件相違点は,上記第2の3のとおりであり,引用発明に基づいて本件補正発明の相違点に係る構成とするためには,位置決め部について,本件補正発明における「前記第1の壁に対して垂直方向から見たときに,前記位置決め部の中心軸は,前記接続電極部の幅内にあり,且つ,前記位置決め部および前記接続電極部が,前記前壁の短辺と平行な方向に配列されている」との構成を採用する必要があるから,本件審決による相違点についての判断の適否を検討するに当たっては,「近傍に配置すること」によって,このような構成を実現することができるかどうかについて検討しなければならない。

(3) 「近傍に配置すること」と本件相違点に係る構成
 引用例の記載によると,引用発明におけるインクカートリッジは,インクカートリッジホルダに接合する面が長方形であるものを想定していると認められるところ,その長方形の内部において,インク導入口のような他の必要な部材と共に回路基板及び開口穴を配置しようとする場合,これらの部材をスペースに余裕のある長手方向に配列しようとするのが自然な発想であり,あえて短手方向に複数の部材を配置しようとするには,何らかの示唆に基づくそれなりの動機付けを必要とするというべきである。
 したがって,引用発明において,回路基板と開口穴とを近傍に配置しようとしたからといって,必ずしも本件補正発明の相違点に係る構成を採用することとなるわけではない。

 これに対し,本願明細書の記載によると,本件補正発明において,本件相違点に係る構成が採用されたのは,接続電極部における位置ずれを極めて小さくし,製造のばらつきによる位置決め部を中心とする上下の回動による影響も最小限に抑えようとの動機に基づくものであると認められるところ,上記(1)のとおり,そもそも引用発明が課題として製造のばらつきを意識したものであるとは認められないし,引用例における位置決め機構に関する上記3の記載や他の記載において,本件相違点に係る構成を示唆する記載が存在するとは認められない。
 そうすると,引用発明に基づいて,本件補正発明との本件相違点に係る構成を採用することは,当業者にとって単なる設計事項であるということはできないというべきである。

課題が新たに発生する組み合わせ、本願発明との対比による副引用例の認定

2009-09-06 12:38:24 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10345
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年08月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


2 取消事由1(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)について
 当裁判所は,以下の理由により,審決が,引用発明1に引用発明2を適用して相違点1に係る本件発明1の構成とすることが当業者にとって容易であると結論づけたことには誤りがあると判断する。

 すなわち,容易想到性があると判断するためには,引用発明1と引用発明2の組み合わせによって,本件発明の引用発明1との相違点に係る構成に到達することが容易であったことを論証することが必要となる。審決は,引用発明1に引用発明2を適用することの容易性を判断する前提として,引用発明2の内容を認定したが,本件発明の用語を使用したこともあり,引用発明2の内容の認定に誤りが認められる
 その点の審決の誤りは,引用発明1に引用発明2を適用することの容易性の判断に影響を及ぼすものと解されるので,取消事由に該当すると判断した。以下,詳細に述べる。

(1) 審決の認定,判断
まず,審決の理由(引用発明の認定,容易想到性の判断)を転記する。
ア 引用発明2についての審決の認定
引用発明2についての審決の認定は,以下のとおりである。
なお,引用例2は,いわゆる副引用例であるが,審決は,その技術内容について,記載に基づいて客観的に事実認定するのではなく,本件発明1と対比して,判断(主観的な評価)を加えた上で認定している。
 ・・・

 前記のとおり,審決は,
① 本件発明1の肘掛部は,引用発明2の抱持枠27とは異なり,それ自体が膨縮や振動を伴ったり,施療位置の変更や移動を伴うことはないものであるにもかかわらず,「引用発明2における『抱持枠27,27』は,その構成又は機能からみて本件発明1における『肘掛部』に相当」すると認定した点,及び
② 本件発明1の肘掛部上面に配設した膨縮袋群は,単に,膨縮袋を対設して配置し,両側から挟持して圧迫感のある施療を実施できる機能のみを有するものではなく,内側他端の立ち上がりによって肘掛部上面の肘幅方向内側の先端部を隆起させて肘掛部上に人体手部を安定的に保持させる機能を有するものであるにもかかわらず,「引用発明2の『指圧頭30と指圧頭31との間で大腿部イを握持して指圧すること』は,本件発明1と『立上り壁内側部に配設された押圧部材と肘掛部の上面に配設された押圧部材との対設させた押圧部材間で人体手部に空圧施療を付与させるようにした』点で共通しているとのみ認定した点
で,認定を誤った。

 そして,審決は,その事実認定を前提として,引用発明1の外側壁を『湾曲状に形成された立上り壁』とするとともに,「外側壁に対向する対向面を『肘掛部の上面』とし,各肘掛部を『肘掛部の上面をこの湾曲状の立上り壁で覆って人体手部の外面形状に沿う形状に形成』することについて,容易に想到できたとの結論を導いたものであるから,その判断にも誤りがあるというべきである。

 すなわち,審決は,相違点1に係る構成に関し,その機能について格別の検討をすることなく,専ら,立上り壁と肘掛部上面の形状に着目して,容易想到であると判断した
 この点,例えば,引用発明1において,肘方向外側に弧状形成された対向壁に設けられた空気袋は,弧状の形状に沿って斜め上方から手部に押圧力が加えられるのであるから,仮に,内側対向壁を肘掛部上面に置換したたとするならば,外側弧状に形成された対向壁に設けられた空気袋によって,手部が押圧方向と反対方向へ逃げることになり,さらに肘掛部から脱落することが考えられる。したがって,そのような新たに発生する課題を解決することは,必ずしも容易であるとはいえない。すなわち,対向壁を肘掛部上面とした場合に,押圧によって発生し得る手部の「逃げ」や「脱落」という課題を解決するための構成を想到することは,容易とはいえない