知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

記載不備と進歩性

2007-09-26 07:27:51 | 特許法29条2項
事件番号 平成18(行ケ)10534
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年09月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『したがって,本願発明の「非円弧湾曲」と引用例1発明の「反射曲線」とは,ともに端部に向かうほど曲半径が大きくなる点で共通するとはいえ,その形状が異なるものであることは明らかである。
 この点につき,審決は,「非円弧湾曲の曲率半径を定義するにあたり,本願発明のように,先ず,円弧上の単位長さ毎の非円弧上の位置において定めるか,引用例1発明のように,先ず,所定の見開き角毎の反射曲線上の位置において定めるかは,当業者が適宜採用しうる設計上の微差というべきである。」と判断するところ,本訴における被告の「本願発明の非円弧湾曲と引用例1発明の反射曲線とは,いずれも端部に向かうほど曲半径が大きくなる点で一致しており,単に曲線の定義の仕方が異なるのみで,実質的な相違はないのであるから,審決がした『設計上の微差』との認定に誤りはない」との主張にかんがみれば,審決の上記判断は,本願発明と引用例1発明とで,定義のしかたは異なっていても,「非円弧湾曲の曲率半径」,すなわち,「非円弧湾曲(反射曲線)」の形状に実質的な相違はないとの趣旨であると考えられるところ,上記のとおり,本願発明の「非円弧湾曲」と引用例1発明の「反射曲線」とは,その形状が異なるものであるから,審決の上記判断及び被告の主張は誤りであるといわざるを得ない
 そして,本願発明の「非円弧湾曲」と引用例1発明の「反射曲線」の形状が異なることは,審決が認定した相違点1から直接導かれるところであるから,審決は,相違点1についての判断において,上記形状が異なることを前提として,引用例1発明の「反射曲線」の形状を本願発明の「非円弧湾曲」の形状とすることの容易想到性を判断すべきであったのに,これをしていない誤りがあり,この誤りが,結論に影響を及ぼすことは明らかである。
 よって,その余の点(取消事由2)について判断するまでもなく,審決は,取消しを免れない。

(4) なお,付言するに,平成16年9月15日付け意見書(甲第2号証)によれば,審査官は,拒絶査定をするに当たり,本件特許出願が,特許法36条4項,同条6項2号に規定する要件を満たしていないとの事由を含む拒絶理由通知をしたことが窺われるところ,本件審判請求に対しては,かかる事由を含め,再度審理がなされるべきものである。』

商標法4条1項10号にいう「他人」について

2007-09-26 06:54:24 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10080
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年09月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

『1 取消事由1について
原告は,引用商標は,原告が独自に創作したものであり,被告は単なる通常使用権者にすぎないから,同商標は,商標法4条1項10号の「他人の業務に係る商品・・・を表示するものとして需用者の間に広く認識されている商標」に該当しないと主張するので,以下において検討する。

 商標法4条1項10号は,「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需用者の間に広く認識されている商標又はこれに類似する商標であって,その商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの」については商標登録を受けることができないと定めている。

 上記規定の趣旨は,特定人の業務等に係る商品等を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標(以下「周知商標」という。)について,同一又は類似の商品等につき,同一又は類似の商標の登録を上記特定人以外の者に認めたのでは商品等の出所を識別することが困難となり,商品流通秩序が損なわれるため,後者の商標登録を許さないとする点にある。そうすると,上記規定の「他人」とは出願者以外の者を広く指称するものと解するのが相当であるところ,引用商標が被告の商品に使用されていることは原告も認めるところであるから,これが上記規定にいう「他人の商標」に当たることは明らかである

 以上の説示から明らかなように,上記規定の適用においては,周知商標の創作者が誰であるかは何ら関係を有するものではないから,仮に,引用商標が原告の創作に係るものであり,原告の許諾を得て被告が使用するものであるとしても,上記の他人性を肯定することに何ら影響するものでないことは明らかであって,引用商標が「被告の商品である焼き鯖寿司」を表すものとして需要者の間に広く認識されているとするならば(この点は次項において認定判断する。),引用商標は被告の商品の出所を示すものとして,商標法4条1項10号にいう「他人の業務に係る商品・・・を表示するものとして需用者の間に広く認識されている商標」というべきである。』

次の事件も同趣旨を含む。
事件番号 平成19(行ケ)10093
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年09月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

事件番号 平成19(行ケ)10092
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年09月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

局面に応じた特許請求の範囲の解釈手法の違い

2007-09-26 06:44:23 | Weblog
事件番号 平成18(行ケ)10561
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年09月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長 裁判官中野哲弘


『(2) 次に原告は,特許法70条2項によれば,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意味を解釈すべきであるとして,本願補正発明の明細書(甲4,7,8)及び図面に記載された実施例によれば,請求項1の「データの各記憶された項目がデータのカテゴリにしたがって指示を有し」との文言は,送信装置がデータを送信する際にカテゴリ別の指示情報をデータに付していることを指すものと解釈できる旨主張する
しかし,本件審決取消訴訟のように,<ins>特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定においては,特段の事情のない限り,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべき</ins>であり,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎないと解するのが相当である(最高裁平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)。

 特許法70条2項(本願に適用される平成14年法律第24号による改正前のもの。以下同じ。)は「前項の場合においては,願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定しているが,同項は,特許権侵害訴訟等の場合のように,私権である特許権の保護範囲を決定するに当たって適用されるものであって,本件のような審決取消訴訟においては,上記特段の事情がない場合でも明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されると解することはできない。

そして,上記(1)に述べたとおり,「データの各記憶された項目がデータのカテゴリにしたがって指示を有し」との文言は,データにカテゴリを付すのが送信部であるか受信部であるかにつき,何ら特定するものでないことは明らかであって,その用語の意義が一義的に明確でないとはいえないのであるから,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すべき場合であるということはできない。したがって,この点に関する原告の主張は理由がない。』