事件番号 平成18(行ケ)10421
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年09月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
『4 付言
本判決により審決が取り消された事件について,今後行われる審判の審理に資するため,確定効の範囲等に関し,以下のとおり補足して述べる。
(1) はじめに
ア 特許が2以上の請求項に係るものであるときには,その無効審判は請求項ごとに請求することができるものとされていること(特許法123条1項柱書)に照らすならば,2以上の請求項に係る特許無効審判の請求に対してされた審決は,各請求項に係る審決部分ごとに取消訴訟の対象となり,各請求項に係る審決部分ごとに形式的に確定する。審決の形式的な確定は,当該審決に対する審決取消訴訟の原告適格を有するすべての者について,出訴期間が経過し,当該審決を争うことができなくなることによって生ずる(特許法178条3項)。そうすると,2以上の請求項に係る特許についての無効審判において,一部の請求項に係る特許について無効とし,残余の請求項に係る特許について審判請求を不成立とする審決がされた場合には,それぞれ原告適格を有する者(審決によって不利益を受けた者)が異なるため,各請求項に係る審決部分ごとに,形式的確定の有無及び確定の日等が異なる場合が生じ得る。無効審判請求を不成立とした審決部分は,請求人側のみが取消訴訟を提起する原告適格を有するのであるから,請求人側に係る出訴期間の経過によって,審決部分もまた形式的に確定することになる。
イ 審決の取消しの判決又は決定の確定により,審判手続が再開され,特許法134条の3第1項又は2項の規定により指定された期間内に訂正請求がされ又は同条5項の規定により同期間の末日に訂正請求がされたものとみなされる場合があるが,その場合には,特許法134条の2第4項の規定による先にした訂正の請求のみなし取下げの効果もまた,請求項ごとに生じる(知財高裁平成19年6月20日決定・平成19年(行ケ)第10081号審決取消請求事件,知財高裁平成19年7月23日決定・平成19年(行ケ)第10099号審決取消請求事件参照)。
そして,特許無効審判請求の審決について,審判請求を不成立とした請求項に係る審決部分については取消訴訟が提起されず,特許を無効とした請求項に係る審決部分についてのみ取消訴訟が提起され,かつ,所定の期間内に訂正審判請求がされ,特許法181条2項の規定に基づき,特許を無効とした請求項に係る審決部分が取り消された後,再開された審判手続において,特許法134条の2第4項の規定により特許を無効とした請求項に係る先にした訂正の請求は取り下げられたものとみなされる場合がある。
これに対して審判請求を不成立とした請求項に係る審決部分は形式的に確定しているので,当該請求項に係る先にした訂正の請求は特許法134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされることはなく,再開された審判手続において,当該請求項に係る新たな訂正の請求がされているときは,当該請求項に係る特許無効審判請求を不成立とした確定審決が存在することを前提として,いわゆる独立特許要件の有無についても判断すべきことになる(特許法134条の2第5項の規定により読み替えて準用される126条5項)。
(2) 本件手続の経緯
ア本件手続の経緯は,前記第2の1のとおりであり,特許庁は,平成17年6月28日,「特許第2580489号の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする。特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(第1次審決)をし,これに対して,原告が,第1次審決中の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする部分の取消しを求めて審決取消訴訟を提起し,併せて,本件特許の特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判請求をした。なお,第1次審決中の審判請求不成立部分について,被告(審判請求人)からの審決取消訴訟の提起はなかった。知的財産高等裁判所(第2部)は,特許法181条2項に基づき,事件を審判官に差し戻すため,第1次審決中の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする部分を取り消す旨の決定をした。差戻し後の事件について,所定の期間内に訂正の請求がされなかったため,上記訂正審判請求の請求書に添付された訂正した明細書,特許請求の範囲又は図面を援用した本件訂正の請求がされたものとみなされた。そして,特許庁は,平成18年8月15日,「訂正を認める。特許第2580489号の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする。特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(本件審決はその一部)をした。
イ 本件手続について見ると,第1次審決中「特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決部分については,被告(審判請求人)において取消訴訟を提起することなく出訴期間が経過したのであるから,同審決部分は形式的に確定した。しかるに,特許庁は,本件特許の請求項5に係る無効審判請求が形式的に確定していないとの前提に立った上で,当該請求項についても審判手続で審理し,「特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」旨の判断をした。上記審判手続のあり方は,著しく妥当を欠くというべきである。 けだし,本件特許の請求項5については,無効審判請求に係る無効理由が存在しないものとする審決部分が確定したことにより,原告は,形式的確定の利益を享受できる地位を得ているのであるから,それにもかかわらず,他の請求項に係る特許を無効とした審決部分について取消訴訟を提起して,当該請求項について有利な結果を得ようとしたことにより,かえって無効審判請求を不成立とする請求項5についてまで,不安定な地位にさらされることになることは著しく不合理だからである。
(3) まとめ
本判決により審決が取り消された事件について,今後行われる審判においては,上記の点を踏まえた審理,判断がされるべきである。』
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年09月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
『4 付言
本判決により審決が取り消された事件について,今後行われる審判の審理に資するため,確定効の範囲等に関し,以下のとおり補足して述べる。
(1) はじめに
ア 特許が2以上の請求項に係るものであるときには,その無効審判は請求項ごとに請求することができるものとされていること(特許法123条1項柱書)に照らすならば,2以上の請求項に係る特許無効審判の請求に対してされた審決は,各請求項に係る審決部分ごとに取消訴訟の対象となり,各請求項に係る審決部分ごとに形式的に確定する。審決の形式的な確定は,当該審決に対する審決取消訴訟の原告適格を有するすべての者について,出訴期間が経過し,当該審決を争うことができなくなることによって生ずる(特許法178条3項)。そうすると,2以上の請求項に係る特許についての無効審判において,一部の請求項に係る特許について無効とし,残余の請求項に係る特許について審判請求を不成立とする審決がされた場合には,それぞれ原告適格を有する者(審決によって不利益を受けた者)が異なるため,各請求項に係る審決部分ごとに,形式的確定の有無及び確定の日等が異なる場合が生じ得る。無効審判請求を不成立とした審決部分は,請求人側のみが取消訴訟を提起する原告適格を有するのであるから,請求人側に係る出訴期間の経過によって,審決部分もまた形式的に確定することになる。
イ 審決の取消しの判決又は決定の確定により,審判手続が再開され,特許法134条の3第1項又は2項の規定により指定された期間内に訂正請求がされ又は同条5項の規定により同期間の末日に訂正請求がされたものとみなされる場合があるが,その場合には,特許法134条の2第4項の規定による先にした訂正の請求のみなし取下げの効果もまた,請求項ごとに生じる(知財高裁平成19年6月20日決定・平成19年(行ケ)第10081号審決取消請求事件,知財高裁平成19年7月23日決定・平成19年(行ケ)第10099号審決取消請求事件参照)。
そして,特許無効審判請求の審決について,審判請求を不成立とした請求項に係る審決部分については取消訴訟が提起されず,特許を無効とした請求項に係る審決部分についてのみ取消訴訟が提起され,かつ,所定の期間内に訂正審判請求がされ,特許法181条2項の規定に基づき,特許を無効とした請求項に係る審決部分が取り消された後,再開された審判手続において,特許法134条の2第4項の規定により特許を無効とした請求項に係る先にした訂正の請求は取り下げられたものとみなされる場合がある。
これに対して審判請求を不成立とした請求項に係る審決部分は形式的に確定しているので,当該請求項に係る先にした訂正の請求は特許法134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされることはなく,再開された審判手続において,当該請求項に係る新たな訂正の請求がされているときは,当該請求項に係る特許無効審判請求を不成立とした確定審決が存在することを前提として,いわゆる独立特許要件の有無についても判断すべきことになる(特許法134条の2第5項の規定により読み替えて準用される126条5項)。
(2) 本件手続の経緯
ア本件手続の経緯は,前記第2の1のとおりであり,特許庁は,平成17年6月28日,「特許第2580489号の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする。特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(第1次審決)をし,これに対して,原告が,第1次審決中の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする部分の取消しを求めて審決取消訴訟を提起し,併せて,本件特許の特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判請求をした。なお,第1次審決中の審判請求不成立部分について,被告(審判請求人)からの審決取消訴訟の提起はなかった。知的財産高等裁判所(第2部)は,特許法181条2項に基づき,事件を審判官に差し戻すため,第1次審決中の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする部分を取り消す旨の決定をした。差戻し後の事件について,所定の期間内に訂正の請求がされなかったため,上記訂正審判請求の請求書に添付された訂正した明細書,特許請求の範囲又は図面を援用した本件訂正の請求がされたものとみなされた。そして,特許庁は,平成18年8月15日,「訂正を認める。特許第2580489号の請求項1ないし4,6ないし10に係る発明についての特許を無効とする。特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(本件審決はその一部)をした。
イ 本件手続について見ると,第1次審決中「特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決部分については,被告(審判請求人)において取消訴訟を提起することなく出訴期間が経過したのであるから,同審決部分は形式的に確定した。しかるに,特許庁は,本件特許の請求項5に係る無効審判請求が形式的に確定していないとの前提に立った上で,当該請求項についても審判手続で審理し,「特許第2580489号の請求項5に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」旨の判断をした。上記審判手続のあり方は,著しく妥当を欠くというべきである。 けだし,本件特許の請求項5については,無効審判請求に係る無効理由が存在しないものとする審決部分が確定したことにより,原告は,形式的確定の利益を享受できる地位を得ているのであるから,それにもかかわらず,他の請求項に係る特許を無効とした審決部分について取消訴訟を提起して,当該請求項について有利な結果を得ようとしたことにより,かえって無効審判請求を不成立とする請求項5についてまで,不安定な地位にさらされることになることは著しく不合理だからである。
(3) まとめ
本判決により審決が取り消された事件について,今後行われる審判においては,上記の点を踏まえた審理,判断がされるべきである。』