知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

競争関係のない者を共同不法行為者として不競法2条1項14号違反の共同不法行為が成立するか

2011-03-21 15:53:43 | 不正競争防止法
事件番号 平成21(ネ)10043
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成23年03月08日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 その他
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

3 控訴人と被控訴人SNKとの競争関係が生じた時期について
 不競法2条1項14号の「競争関係」とは,現実に競争関係にある場合に限られず,将来現実化する関係で足りると解されるところ,前記前提となる事実経過記載の事実によれば,被控訴人SNKは平成13年8月1日以降,パチスロに関する事業を行っていたと認めることができるし,また,被控訴人SNK自身,本件書籍1の出版当時,パチンコ・パチスロ業界での事業展開を準備していたと主張している。
 そうすると,本件書籍1及び2が出版された平成15年4月10日及び同年9月10日当時において,被控訴人SNKがパチスロ遊技機の販売を行っていなかったとしても,競争関係が将来現実化する関係があったと認められるから,パチスロ遊技機の製造販売を業とする控訴人と競争関係にあったと認めるのが相当である。
・・・

5 被控訴人らと鹿砦社による外形的共同不法行為の成否について(被控訴人ら及び控訴人との間に競争関係のない鹿砦社を共同不法行為者として,不競法2条1項14号違反の共同不法行為が成立するか
 前記のとおり,被控訴人らは本件書籍1に記載された事実を流布し,被控訴人SNKは本件書籍2~4に記載された事実を流布したものである。
 そして,鹿砦社は出版社であり控訴人とは競争関係にはないが,被控訴人SNKと控訴人が競争関係にあることは前記のとおりであり,被控訴人サミーと控訴人が競争関係にあることは当事者間に争いがない以上,鹿砦社に不競法違反が成立しなくとも,虚偽か否かは後記で判断するところではあるが,外形行為の観点からみれば,被控訴人ら各自の行為において不競法2条1項14号該当要件を満たす以上,この点においては所定の「不正競争」に該当し,他の要件を充足する場合には同法4条による損害賠償義務の成立は免れないものというべきである。被控訴人ら指摘の最高昭和43年4月23日第三小法廷判決・民集第22巻4号964頁は,共同行為者の加害行為について不法行為者が賠償の責めに任ずべき損害の範囲について判断しているものであって,本件に適切でない。

(原審)
平成21年04月27日 東京地方裁判所 平成19(ワ)19202
裁判長裁判官 清水節


イ 幇助者は,法律上,共同行為者とみなされる(民法719条2項)ものの,被告らが共同行為者とみなされるのは,あくまで出版行為を行った鹿砦社の行為についてであって,同社の当該行為は,不競法違反とは評価され得ないものであることは,前記のとおりである。
 そして,共同不法行為が成立するためには,各行為者の行為が当該不法行為の成立要件を満たしていることが必要であると解されるところ(最高裁昭和39年(オ)第902号同43年4月23日第三小法廷判決・民集22巻4号964頁参照),出版行為の主体である鹿砦社に不競法違反が成立しない以上,被告らは,不競法違反とはならない鹿砦社の出版行為の共同行為者とみなされるにすぎないから,不競法違反の共同不法行為は成立しないと解すべきこととなる。

不競法2条1項1号の他人の商品等表示

2010-09-30 22:01:52 | 不正競争防止法
事件番号 平成20(ワ)25956
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成22年09月17日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

 ところで,不競法2条1項1号は,不正競争行為として,「他人の商品等表示(人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し,又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し,輸出し,輸入し,若しくは電気通信回線を通じて提供して,他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」を規定している。

 同号は,他人の商品表示(商品を表示するもの)又は他人の営業表示(営業を表示するもの)であって,「需要者の間に広く認識されている」もの,すなわち,他人の周知の商品表示及び営業表示(他人の周知の商品等表示)を保護するため,商品主体の混同を生じさせる行為及び営業主体の混同を生じさせる行為を不正競争行為として禁止する趣旨の規定であり,同号の商品表示は,商品の出所を他の商品の出所と識別させる出所識別機能を有するものであることを要すると解される。

 商品の形態は,本来的には商品の機能・効用の発揮や美観の向上等の見地から選択されるものであり,商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが,特定の商品の形態が,他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し,かつ,その形態が長期間継続的・独占的に使用され,又は短期間でも効果的な宣伝広告等がされた結果,出所識別機能を獲得するとともに,需要者の間に広く認識されるに至ることがあり得るというべきである。

 このような商品の形態は,不競法2条1項1号の他人の商品表示として需要者の間に広く認識されているものといえるから,同号によって保護される他人の周知の商品等表示に該当するものと解される。

不正競争防止法2条1項3号の「他人の商品」に該当しないとした事例

2009-04-20 20:00:03 | 不正競争防止法
事件番号 平成20(ワ)5826
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成21年03月27日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 大鷹一郎

(3) 以上によれば,原告が原告商品に特有の形態的特徴であると主張する,タイの民族人形(ハッピーラッキーボンバー)の頭部のボンボンを股間部分に取り付けた点については,原告代表者が単独で発案したとまで認めることはできず,原告代表者及び被告の従業員Aが共同で発案した可能性を否定できない

 また,が原告商品に特有の形態的特徴であると主張する,頭部のボンボンを5㎜のものから1㎝のラメ入りのものとした点については,ライスフィールド社が,原告が原告商品を販売する前の平成19年4月24日ころには,頭部のボンボンをラメ入りのものとしたタイの民族人形を販売していたこと(前記1(2)),その当時輸入販売されていたタイの民族人形の頭部のボンボンには5㎜のものも,1㎝のものもあったこと(弁論の全趣旨)に照らすならば,原告代表者が発案した原告商品に特有の形態的特徴であるということはできない

 したがって,原告商品は,原告が独自に開発した商品であり,被告にとって不正競争防止法2条1項3号所定の「他人の商品」に該当するとの原告の主張は,理由がない

不正競争防止法2条1項10号の「のみ」の解釈

2009-03-20 08:40:47 | 不正競争防止法
事件番号 平成20(ワ)20886等
事件名 不正競争行為差止請求事件
裁判年月日 平成21年02月27日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 市川正巳


第3 当裁判所の判断
・・・
2 争点2(「のみ」要件)について
・・・
イ 解釈
(ア) 前記1(1)~(3)及び上記(1)アの立法趣旨及び立法経緯に照らすと,不正競争防止法2条1項10号の「のみ」は,必要最小限の規制という観点から,規制の対象となる機器等を,管理技術の無効化を専らその機能とするものとして提供されたものに限定し,別の目的で製造され提供されている装置等が偶然「妨げる機能」を有している場合を除外していると解釈することができこれを具体的機器等で説明すると,MODチップは「のみ」要件を満たし,パソコンのような汎用機器等及び無反応機器は「のみ」要件を満たさないと解釈することができる

(イ) 被告らは,不正競争防止法2条7項の「技術的制限手段」は,検知→制限方式に限られ,平成11年改正法は,MODチップの販売等の規制を見合わせたものである旨主張するが,この主張に理由がないことは,前記1(6)で説示した点及び上記(ア)の立法経緯等から明らかであり,被告らの上記主張は採用することができない。

(2) 「のみ」要件該当性について
ア 前提事実(4)によれば,被告装置は,以上のように解された不正競争防止法2条1項10号の「のみ」要件を満たしている。

イ そして,この点は,被告装置の使用実態を併せ考慮しても同様である。すなわち,証拠(甲1~21,29,30,32,34~36,乙4~13,丙1,12~16,23~34,42)及び弁論の全趣旨によれば,数多くのインターネット上のサイトに極めて多数の本件吸い出しプログラムがアップロードされており,だれでも容易にダウンロードすることができること,被告装置の大部分が,そして大部分の場合に,本件吸い出しプログラムを使用するために用いられていることが認められ,被告装置が専ら自主制作ソフト等の実行を機能とするが,偶然「妨げる機能」を有しているにすぎないと認めることは到底できないものである

不正競争防止法2条7項の「技術的制限手段」の意義

2009-03-20 08:25:40 | 不正競争防止法
事件番号 平成20(ワ)20886等
事件名 不正競争行為差止請求事件
裁判年月日 平成21年02月27日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 市川正巳

(原告らの主張)
ア不正競争防止法2条7項の「技術的制限手段」の意義
(ア) まとめ
 不正競争防止法2条7項の「技術的制限手段」とは,電磁的方法によりプログラム等の実行を制限する手段であって,視聴等機器が特定の反応をする信号をプログラム等とともに記録媒体に記録する方式によるものをいい,その信号を検知した場合にプログラム等の実行を制限する方式(以下「検知→制限方式」という。)のものも,その信号を検知した場合にプログラム等の実行を可能とする方式(以下「検知→可能方式」)のものも含む。

(被告らの主張)
ア不正競争防止法2条7項の「技術的制限手段」の意義
(ア) まとめ
 原告らの主張ア(ア)は否認する。不正競争防止法2条7項の「技術的制限手段」は,検知→制限方式のものに限られ,自主制作ソフト等の実行も制限する結果となる検知→可能方式のものを含まない。


第3 当裁判所の判断
1 争点1(技術的制限手段)について
 ・・・
(4) まとめ
 上記(1)~(3)によれば,不正競争防止法2条1項10号は,我が国におけるコンテンツ提供事業の存立基盤を確保し,視聴等機器の製造者やソフトの製造者を含むコンテンツ提供事業者間の公正な競争秩序を確保するために,必要最小限の規制を導入するという観点に立って,立法当時実態が存在する,コンテンツ提供事業者がコンテンツの保護のためにコンテンツに施した無断複製や無断視聴等を防止するための技術的制限手段を無効化する装置を販売等する行為を不正競争行為として規制するものであると認められる。
 そして,上記(3)のとおり,不正競争防止法2条7項の「技術的制限手段」は,「(a)コンテンツに信号又は指令を付し,当該信号又は指令に機器を一定のルールで対応させる形態」と「(b)コンテンツ自体を暗号化する形態」の2つの形態を包含し,前者の例として「無許諾記録, 物が視聴のための機器にセットされても,機器が動かない(ゲーム)」が挙げられているが,この例は,本判決の分類では,検知→可能方式である。そして,同立法当時,規制の対象となる無効化機器の具体例としてMODチップが挙げられているが,このMODチップは,本判決の分類にいう検知→可能方式のものを無効化するものであり,当初から特殊な信号を有しない自主制作ソフト等の使用も可能とするものであった

 以上の不正競争防止法2条1項10号の立法趣旨と,無効化機器の1つであるMODチップを規制の対象としたという立法経緯に照らすと,不正競争防止法2条7項の「技術的制限手段」とは,コンテンツ提供事業者が,コンテンツの保護のために,コンテンツの無断複製や無断視聴等を防止するために視聴等機器が特定の反応を示す信号等をコンテンツとともに記録媒体に記録等することにより,コンテンツの無断複製や無断視聴等を制限する電磁的方法を意味するものと考えられ,検知→制限方式のものだけでなく,検知→可能方式のものも含むと解される

(5) 技術的制限手段該当性について
 前提事実(3)によれば,原告仕組みは,以上のように解された不正競争防止法2条7項の技術的制限手段に該当し,同法2条1項10号の営業上用いられている技術的制限手段によりプログラムの実行を制限するとの点も満たしている。

(6) 被告らの主張についての判断
 被告らは,不正競争防止法2条7項の「技術的制限手段」は,検知→制限方式に限られ,自主制作ソフト等の実行も制限する結果となる検知→可能方式を含まない,平成11年改正法は,MODチップの販売等の規制を見合わせたものである旨主張する

 しかしながら,前記(3)イ(ア)及び(イ)のとおり,合同会議報告書や国会における審議においては,MODチップが存在し,そのプログラムの実行を制限する動作が原告仕組みによる制限の動作と同じ検知→可能方式のものであることが記載されており,前記(3)ア(イ)及びイ(ウ)のとおり,改正解説にも,国会における審議等ほどには明確ではないが,事業者が用いている技術的制限手段又は方式の例として,「○無許諾記録物が視聴のための機器にセットされても,機器が動かない(ゲーム)」や「MODチップ」が記載されている
しかも,平成11年改正法の立法過程で,自主制作ソフト等の実行を可能とすることに意義を認めるなどして,検知→可能方式のものを規制の対象からはずし,検知→制限方式のもののみを規制の対象としたことをうかがわせる証拠は見いだせない。したがって,被告らの上記主張は,採用することができない。

客観的真実に反する比較広告

2009-01-18 15:08:03 | 不正競争防止法
事件番号 平成19(ワ)11899
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成20年12月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

不正競争防止法上2条1項14号にいう「他人の営業上の信用を害する虚偽の事実」とは,他人の社会的評価,すなわち,一般需要者の視点から見た評価を低下させ,又は低下させるおそれがあるような事実であり,かつ,それを告知又は流布する者の主観的認識とは関係なく,客観的真実に反する事実をいうものと解すべきである。

そして,本件各比較広告を一般需要者の視点から検討すると,・・・,被告ら商品Bに含まれるウーロン茶重合ポリフェノールの量や効能等について原告商品と比較しながら宣伝するものであり,
本件比較広告1では,被告ら商品Bのティーバッグ1包で350ミリリットル入りペットボトル5本半分の原告商品が含有する量よりも多くのウーロン茶重合ポリフェノールを含むウーロン茶を作れることを,
本件比較広告2では,被告ら商品Bの単位量当たりのウーロン茶重合ポリフェノール含有量が原告商品のそれの約70倍であり,原告商品のウーロン茶重合ポリフェノールの濃度が被告ら商品Bのそれに比して相当薄いことを,それぞれ示しているものと解釈することができる。

ところが,上記ア(カ),(キ)のとおり,一般需要者が,本件各比較広告が掲載されたウェブサイト又は被告ら商品Bの包装パッケージの各記載に基づき,通常認識するはずの方法によって作られた被告ら商品Bのウーロン茶重合ポリフェノールの含有量は,350ミリリットル当たり47.6ミリグラムであり,他方,原告商品のそれは,350ミリリットル当たり70ミリグラムであるから,両者の単位量当たりのウーロン茶重合ポリフェノール含有量を比較すると,原告商品の方が多く,よって,その濃度は原告商品の方が濃いといえる。

そうすると,上記のように解釈される本件比較広告1及び本件比較広告2は,いずれも,客観的真実に反する虚偽の事実であり,かつ,一般需要者に対して原告商品の品質が被告ら商品Bに劣るとの印象を与え,原告の社会的評価を低下させるおそれのある事実であると認められる。

・・・

6 争点(6) (被告オールライフサービスが,本件各登録商標を商標として使用しているか)について
(1) 商標としての使用の有無
 上記4で認定したところによれば,被告オールライフサービスは,本件各比較広告において,被告ら商品Bの含有成分の量と原告商品のそれとを比較し,前者の方が優れていることを示すことで,被告ら商品Bの宣伝を行うために,原告商品に付された本件各登録商標を使用したものと認められ,これに接した一般需要者も,そのように認識するのが通常であるといえる。

 したがって,被告オールライフサービスによる本件各登録商標の使用は,比較の対象である原告商品を示し,その宣伝内容を説明するための記述的表示であって,自他商品の識別機能を果たす態様で使用されたものではないというべきであり,商標として使用されたものとは認められない。

不正競争防止法2条1項2号における類似性

2009-01-18 14:43:10 | 不正競争防止法
事件番号 平成19(ワ)11899
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成20年12月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

(2) 不正競争防止法2条1項2号における類似性について
上記1のとおり,原告商品表示については,著名性を認めることができないが,本件事案の性質に鑑み,仮に,原告商品表示が著名であるとした場合,原告商品と被告ら商品Bとの間に不正競争防止法2条1項2号における類似性を認めることができるのか否かについて検討を加える。

ア 類似性の判断基準について
不正競争防止法2条1項2号における類似性の判断基準も,同項1号におけるそれと基本的には同様であるが,両規定の趣旨に鑑み,同項1号においては,混同が発生する可能性があるのか否かが重視されるべきであるのに対し,同項2号にあっては,著名な商品等表示とそれを有する著名な事業主との一対一の対応関係を崩し,稀釈化を引き起こすような程度に類似しているような表示か否か,すなわち,容易に著名な商品等表示を想起させるほど類似しているような表示か否かを検討すべきものと解するのが相当である。

この点,原告は,同項2号の類似性判断においては,同項1号の場合よりも,広く類似性が認められる旨主張するが,上記のとおり,両者の類否判断は,その趣旨に対応した基準で行われるにすぎず,同項2号の場合において,常に広く類似性が肯定されるわけではないから,原告の上記主張を採用することはできない

イ 原告商品表示と被告ら商品表示Bの類似性について
上記(1)ウで検討した諸事情,すなわち,原告商品表示と被告ら商品表示Bとの間に,外観及び称呼の点で,大きな相違があると認められることに照らせば,需要者又は取引者において,被告ら商品表示Bを認識したとしても,(仮定的に)著名な原告商品表示自体を容易に想起するとまではいえない。

したがって,原告商品表示と被告ら商品表示Bとの間においては,不正競争防止法2条1項1号の場合と同様に,同項2号の類似性を認めることはできないというべきである。

商品表示の周知性と著名性(2条1項1号,2号)

2009-01-13 07:15:53 | 不正競争防止法
事件番号 平成19(ワ)11899
事件名 不正競争行為差止等請求事件
裁判年月日 平成20年12月26日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

(2) 原告商品表示の周知性について
 上記(1)の認定事実によれば,原告は,平成18年5月から同年7月までの間において,原告商品表示を付した原告商品を,多くの一般の顧客が容易に購入することができ,かつ,容易に目にすることができると考えられる,コンビニエンスストア,ドラッグストア,スーパーマーケット等において,大量に販売していた。それと併せて,新聞,雑誌及びインターネットといった各種のマスメディア並びに利用者が多いと考えられる路線の電車内及び駅構内において,原告商品表示を付した広告を頻繁に行っており,また,テレビ広告においても,そのような他のマスメディアの状況からすれば,それらと同様に,原告商品表示の写真が放送されていたものと推認される。その他,原告商品は,テレビ,新聞及び雑誌において紹介され,その多くで原告商品表示の写真が付されており(テレビにおいても原告商品表示の写真が紹介されていたと推認されることは,上記広告の場合と同様である。),さらに,平成18年度の人気商品として各種の賞も受け,その報道においても,一部,原告商品表示が紹介されていたものである。
 このような状況に照らせば,原告商品表示は,現時点においてはもちろん,被告ら商品Aの販売が開始された平成18年7月下旬ころ(上記前提となる事実(4)ア)の時点においても,原告商品を表すものとして全国の消費者に広く認識され,相当程度強い識別力を獲得していたといえ,周知性を有していたものと認めることができる。

 この点,被告らは,原告商品の販売や宣伝広告が行われた期間の短さを根拠として,平成18年7月下旬ころの時点では,原告商品表示の周知性及び著名性が認められない旨主張するが,上記(1)の認定事実のとおり,原告が,原告商品発売時である同年5月から同年7月までの間に,相当集中的な販売及び宣伝活動を行っていることに照らせば,その期間が2か月間であっても,周知性を獲得したと認めるのが相当であり,被告らの主張するところは,抽象的な推測の域を出るものではないから,これを採用することができない。

(3) 原告商品表示の著名性について
 原告は,上記(1)で認定された原告商品の販売及び宣伝活動の状況を根拠として,原告商品表示が,平成18年7月下旬ころの時点において,周知性を超えて著名性まで獲得していた旨主張する。

 しかしながら,ある商品の表示が取引者又は需要者の間に浸透し,混同の要件(不正競争防止法2条1項1号)を充足することなくして法的保護を受け得る,著名の程度に到達するためには,特段の事情が存する場合を除き,一定程度の時間の経過を要すると解すべきである。そして,原告商品については,上記の平成18年7月下旬の時点において,いまだ発売後2か月半程度しか経過しておらず,かつ,原告商品表示がそのような短期間で著名性を獲得し得る特段の事情を認めるに足りる証拠もないのであるから,原告商品表示は,同時点において,著名性を有していたものと認めることはできない。
 したがって,原告の上記主張は理由がない。

「営業秘密」の解釈

2008-10-04 18:00:47 | 不正競争防止法
事件番号 平成19(ワ)27846
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成20年09月30日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

1 本件名簿の営業秘密該当性について
 不正競争防止法2条6項によれば,「『営業秘密』とは,秘密として管理されている生産方法,販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって,公然と知られていないもの」であり,このうちの「秘密として管理されている」といえるためには,当該情報が客観的に秘密として管理されていると認識することができる状態にあることが必要である

 そこで,本件名簿についてこの秘密管理性の有無を検討すると,本件名簿は,もともと訴外会社において作成,管理され,これが第1売買と第2売買を経て,原告が管理するに至ったものであるから,①訴外会社における秘密管理性,②第1売買の買主であるAにおける秘密管理性,③原告における秘密管理性がそれぞれ問題となり得る

 原告は,訴外会社における本件名簿の管理について,管理者と取扱者を特定の者に固定し,バックアップ用の情報媒体を鍵付きの引出し等に管理し,マル秘指定をして一般従業員のアクセスを制限していたなどと主張する。
 しかしながら,原告は,・・・,原告の上記主張を裏付ける証拠を準備することができなかったものである。

 そして,仮に,訴外会社における秘密管理性が認められたとしても,次に,第1売買の買主であるAにおける秘密管理性が問題となる。・・・
 しかしながら,本件名簿の第1売買の契約書には,このような営業秘密であることを前提とした条項は存在せず,同契約書は,単なる名簿とその機材の売買契約書というほかないものであって,この点は,第2売買の契約書も同様である。このほか,本件名簿がAのもとで営業秘密であることを前提として管理されていたと理解し得るような客観的な証拠はない。

 以上のとおりであるから,本件名簿については,原告のもとで,秘密管理性などの営業秘密の要件を充たしているか否かを検討するまでもなく,原告が本件名簿を取得する以前の時点において,営業秘密としての秘密管理性を充たしていたことの立証がないものというほかない。

アクセス制限されたプログラムと顧客データの営業秘密性

2008-06-15 17:03:47 | 不正競争防止法
事件番号 平成18(ワ)5172
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成20年06月12日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 不正競争
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次


『第4 争点に対する当裁判所の判断
1 争点(1)ア(ア)(営業秘密性)について
(1) 本件プログラムについて
・・・
イ上記事実に基づき,本件プログラムが法2条6項の「営業秘密」に当たるか否かについて検討するに,本件プログラムは,出会い系サイトの営業に使用することのできるプログラムで,有償の使用許諾もなされていたものであるから,「事業活動に有用な技術上の情報」であることが認められる。そして,本件プログラムが特に公知になっていたことも窺われないから,「公然と知られていないもの」に当たり,さらに,原告社内でもアクセスできる者が限られていたのであるから,「秘密として管理されている」ものと認められる。したがって,本件プログラムは,原告イープランニングの営業秘密であると認められる

ウ これに対し,被告らは,原告ら代表者やP2によるID及びパスワードの管理が杜撰であったと主張して,本件プログラムの秘密管理性を否定するが,被告らが主張するように,単にIDとパスワードを書いた紙片を机に入れていたとか,それらをパソコンに入れたまま離席することがあったとしても,アクセスできる従業員を制限している取扱いをしていることに変わりはないから,被告らの主張する上記事実をもって秘密管理性を否定することはできない

(2) 本件顧客データについて
・・・
イ上記事実に基づき,本件顧客データが法2条6項にいう「営業秘密」に当たるか否か検討するに,本件顧客データは,出会い系サイトに会員として登録する顧客のメールアドレスとその利用程度を知ることができる情報であるから「事業活, 動に有用な営業上の情報」に当たることが明らかである。そして,本件顧客データが特に公知になっていたことも窺われないから,「公然と知られていないもの」と認められ,さらに,本件顧客データにアクセスするためには,IDとパスワードが必要であったのであるから,「秘密として管理されている」ものと認められる。したがって,本件顧客データは,原告イープランニングの営業秘密であると認められる。

ウ 本件顧客データの秘密管理性に関して,被告らは以下のとおり種々の主張をするので,検討する。
(ア) まず被告らは,本件顧客データにアクセスできる従業員は何ら制限されていなかったから秘密管理性がないと主張する
 確かに被告らが指摘するように,本件顧客データにアクセスできる従業員の範囲と内容についての原告らの主張は変遷を重ねており,原告ら社内において原告らが主張するような系統立ったアクセス制限がとられていたのかについては疑問もある。
 しかし,一般にIDやパスワードを要求する趣旨は,それを知っている者のみを当該情報にアクセスできるようにし,それを知らない者には当該情報にアクセスできないようにする点にある。そうすると,たとえ原告ら社内において会員のデータベースにアクセスできる者が制限されておらず,全従業員が会員のデータベースにアクセスすることができたとしても,従業員にIDとパスワードが与えられ,それなしには会員のデータベースにアクセスすることができない措置がとられていた以上,従業員にとっては,原告らが,会員のデータベース中の情報をIDとパスワードを知らない者,すなわち原告らの従業員でない者に対しては秘密とする意思を有していると認識し得るだけの措置をとっていたと認めるに妨げないというべきである

(イ) また被告らは,原告ら社内では,ID及びパスワードの管理が杜撰で,原告ら代表者らもその管理について何ら注意を与えなかったから,秘密管理性がないと主張する
 しかし,IDやパスワードというものが上記(ア)で述べた趣旨のものである以上,殊更にその管理について注意を与えなかったからといって,原告らがそれによってアクセスし得る情報を秘密とする意思を有していることが,同情報にアクセスしようとする者に認識できないとはいえない

 また被告らは,原告ら社内でのID及びパスワード管理の杜撰さの例として,①複数のアルバイト従業員で1つのID及びパスワードを共有していたこと,②ID及びパスワードを記載した紙を入力用のパソコンのところに貼って使用していたこと,③入力担当のアルバイト従業員で退職者が出たにもかかわらず,その際にID及びパスワードが変更されることがなかったことを指摘する
 しかし,①については,そのことをもってパスワードの管理が杜撰であったとはいえない。また, ②及び③については,仮にそのようなことがあったとしても,原告ら社内でどの程度そのようなことが行われていたのか不明であり(少なくとも③については,同趣旨の被告Y4の供述によっても,一度そういうことがあったというにすぎない。),それらが常態化し,かつ原告ら代表者らがそれを知りながら放置し,結果として原告ら社内におけるIDやパスワードの趣旨が有名無実化していたというような事情があればともかく,そのような事情が認められない限り,なお秘密管理性を認めるに妨げはないというべきである。そして,本件ではそのような事情は認められない

(ウ) 以上のとおり,本件顧客データの営業秘密性(秘密管理性)を否定する被告らの上記各主張は採用できない。』