知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

請求項の補正忘れを誤記と認定し救済した事例

2011-11-08 23:24:11 | 特許法36条6項
事件番号 平成23(行ケ)10014
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月05日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

イ また,審決は,本件補正により,補正前の請求項1の「第1(のデフォルトモード)」は「通常モード」と変更されたにもかかわらず,請求項1を引用する請求項4には「前記第1」との記載がそのまま残っており,この結果,補正後の請求項4は意味不明となった旨判断している

 しかし,本件補正前の特許請求の範囲の記載において,請求項4の「前記第1及び第2のデフォルトモード」が請求項1の「第1のデフォルトモード」及び「第2のデフォルトモード」を指すことは明らかであり,本件補正が,請求項1の「第1のデフォルトモード」及び「第2のデフォルトモード」を,それぞれ「通常モード」及び「簡易操作モード」に補正する補正事項を含むことに鑑みれば,本件補正後の請求項4における「前記第1及び簡易操作モード」が「前記通常モード及び簡易操作モード」を意味し,「前記第1」との記載が誤記であることは,本件補正の全趣旨から明らかというべきである。また,上記のとおり,補正後の請求項4における「第1」との記載が「通常モード」を意味するものと正しく解釈することができるのであるから,本件補正によって,請求項4が意味不明になったということもできない。

特許請求の範囲の明確性要件の判断

2011-11-06 23:33:54 | 特許法36条6項
事件番号  平成22(行ケ)10297
事件名  審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年09月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

イ 取消事由2(特許法36条6項2号違反[本件発明1の「ストレート形状」についての判断は除く,無効理由2])の有無について

(ア) 本件発明1の「0.45≦R1/R2≦0.65」との記載では,R1,R2の各下限,上限が不明瞭であるとの点につきa 原告は,吸引ルーメンの最小内径R2,コアワイヤの最大外径R1の各上限値及び下限値が不明であり,いずれにしても,構成Fに係る数値範囲の全てで訂正明細書に記載された所望の効果が得られるとすることとの関係で,R1,R2の上限値及び下限値は不明であると主張する

しかし,本件発明1の吸引カテーテルは,血管に挿入されるものであるから,吸引ルーメンの外径は,血管の太さに基づいて適宜選択されるものであるところ,本件発明1の吸引カテーテルの「R1」及び「R2」は,血管の太さに関係なく「0.45≦R1/R2≦0.65」の条件を満たすものであるから,本件発明1は十分に明確であり,本件発明1において,R1及びR2の上限値及び下限値が不明であるからといって,本件発明1が不明確であるとはいえない。

b そもそも,特許請求の範囲の明確性要件の判断は,特許請求の範囲の記載がそれ自体で明確であるかどうかに尽き,解決課題や作用効果いかんに左右されるものではないというべきである。

(所感) b.の部分は、特許請求の範囲の記載が言語解釈で不明確な部分(この事例ではR1,R2の上限、下限は確かに不明。)があっても、技術常識や文言解釈(明細書の記載の参酌)によって(技術的に)明確である(技術的には血管の太さも考慮して決める設計事項。)と言える場合があるから、言語解釈で不明確であっても明確でないとは言えない場合があるという意味か。

法36条5項2号の判断事例

2011-08-07 18:25:34 | 特許法36条6項
事件番号 平成22(行ケ)10372
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年07月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(イ) 原告の主張に対する判断
 原告は,法36条5項2号に基づけば,本来,特許請求の範囲には特許を受けるべき発明の構成に欠くことができない事項のすべてを記載すべきであるところ,本件発明1においては「中空に一体成形されたプラスチック板体1に流動体Wを給入および排出可能な給排口2を内空部に連通して形成する」ことが特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項であることが明らかであるのに,本件特許の請求項1には,発明の詳細な説明に繰り返し記載されている「流動体Wを給入および排出可能な給排口2」という最も重要な構成要件が欠けているから,法36条5項2号の要件を満たしていない旨主張する。

 しかし,本件明細書の全体の記載を考慮すれば,本件特許における技術的課題である前記①ないし③の各課題は,それらの課題が発明の完成のために全て必須であるというものではなく,①ないし③の課題それぞれに対応した課題解決のための手段が記載され,それぞれの手段に対応した発明の効果が別個に記載されているから,そのうちの前記②の課題解決のための手段が記載されていないとしても,請求項の記載が他の課題を解決する手段とそれに対応する効果を奏するような構成になっている限り,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」が記載されているというべきであるから,原告の上記主張は採用することができない。

<判決注> 平成6年法律第116号による改正前の特許法36条・・・の規定は,次のとおりである。
法36条(特許出願)
 ・・・
5項: 第3項第4号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。
1 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
2 特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること。

法36条5項1号の判断事例

2011-08-07 17:19:37 | 特許法36条6項
事件番号 平成22(行ケ)10372
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年07月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

イ 本件発明1に係る特許出願の法36条5項1号該当性について
(ア) 本件明細書(乙1)の段落【0012】の第1実施例には・・・
 ・・・
 上記記載によれば,本件特許の請求項1の構成要件は全て上記第1施例に記載されていると認められるから,本件発明1は「発明の詳細な説明に記載されたもの」であるということができる。
したがって,本件発明1は法36条5項1号の要件を充足していると認められる。

(イ) 原告の主張に対する判断
 原告は,本件特許の請求項1には,発明の課題解決のために採用した手段である「中空に一体成形されたプラスチック板体1に流動体Wを給入および排出可能な給排口2を内空部に連通して形成する」という記載が存在せず,標示器の安定設置という発明の目的及び効果を達成することができないから,本件発明1は「発明の詳細な説明に記載したもの」とはいえない旨主張する。

 しかし,法36条5項1号の規定は,特許を受けようとする発明が明細書の発明の詳細な説明に記載した発明を超えた部分について記載するものであってはならないという趣旨であって,発明の詳細な説明に記載された全ての目的及び効果について記載しなければならないと規定したものではなく,発明の詳細な説明に記載した発明の一部のみを特許請求の範囲に記載した場合であっても,その請求項の記載が発明として完結している限り,同号違反になるものではないと解するのが相当である。

 そして,前記(1)イのとおり,本件特許の請求項1には,本件特許の技術的課題のうち①及び③の課題を解決する構成が記載されていて,それによって,「極めて軽量になり,運搬時および設置時における現場作業者の負担が大幅に軽減される」こと,及び「保管スペースなどを大幅に削減することができ,その結果経済的負担が低減される」という段落【0016】に記載された効果を奏することができるのであって,本件特許の請求項1の記載は発明として完結しているものと認められる。


<判決注> 平成6年法律第116号による改正前の特許法36条・・・の規定は,次のとおりである。
法36条(特許出願)
 ・・・
5項: 第3項第4号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。
1 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。
2 特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること。

請求項の構成を明確であるとした事例

2011-05-07 11:32:50 | 特許法36条6項
事件番号 平成22(行ケ)10246
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 上記のとおり,請求項1の「水分を加え粒子状に加工する」との構成について,本件明細書には,10~数100μの粉末状にある米糠を用い,米糠を蒸す前に,米糠を100とし,湿度状態などによって水分量を調整しながら40~50重量%の水を加え,略2~4mm(直径)の大きさの粒子状に加工することが記載され,また,その技術的意義について,栄養価の高い米糠を単体,基質として麹菌を培養するとき,米糠は,粉状であるため,空気の流通性が悪く,麹菌が増殖できず,腐敗菌が増殖してしまうという問題があったことから,米糠を,粒状にすることにより,保水性を高めるとともに,培養段階においては,空気の流通性を良くし,麹菌を働きやすくするということが記載され,当業者の通常の理解の範囲を超えるものとはいえない。

上記のとおり,請求項1の「水分を加え粒子状に加工する」との構成は,当業者において,用語の通常の理解によりその意味を解釈できるから,特許発明が明確性を欠き,第三者に不測の不利益を及ぼすものとはいえない

特許請求の範囲の明確性を否定した事例

2011-05-05 20:38:58 | 特許法36条6項
事件番号 平成22(行ケ)10331
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年04月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

1 記載要件違反の有無の判断の誤り(取消事由4)について
(1) 記載要件違反の有無の判断の誤りについてまず判断する。
 本件発明1の特許請求の範囲においては,「肘掛け部」の「カバー部」につき,
「前記カバー部が有する少なくとも第2部分は板状部材により構成され,且つ,前記第2部分における左右方向内側部分の前後方向寸法が,前記第3部分の前後方向寸法よりも小さくなるように構成されている
と特定されている・・・。
 もっとも,図1,2,4,5,7で示される実施例の「肘掛け部25」の形状から,本件発明1の椅子型のマッサージ機に関する当業者の技術常識に照らして考察すれば,上記構成を備えることによって奏される作用効果は,審決が説示するとおり(12,14,15頁),「肘掛け部25」への前腕の出し入れや前腕の前後方向の位置調整を容易に行うことができるという点にあるということができる。

 ここで,上記構成のうち「第2部分における左右方向内側部分」については,図4からは「第2部分」のうち使用者(被施療者)から見て内側の部分であることは明らかであるものの,本件明細書及び図面のすべての記載に照らしても,内側のどの部分を指すのか判然としない

 ところで,上記の「『肘掛け部』への前腕の出し入れや前腕の前後方向の位置調整を容易に行うことができる」という作用効果を奏することができるのは,・・・,「肘掛け部」(ないし「カバー部」)のうち被施療者の手の甲に連なる腕の部分(概ね上面)に対向する「第2部分」の長手方向(腕の長手方向)の長さ(寸法)が,左手であるならば被施療者の小指に連なる腕の部分(概ね側面)に対向する「第3部分」の長手方向の長さ(寸法)よりも有意に短くすることによるものであることが明らかであり,・・・。
 仮に,・・・,「肘掛け部」のうちの「第2部分」の手指側のみを先細りの形状とする場合には,「第2部分」の長手方向の長さが「第3部分」の長手方向の長さよりも短くなるものの,「『肘掛け部』への前腕の出し入れや前腕の前後方向の位置調整を容易に行うことができる」との作用効果を奏することは困難であるし,また,「第2部分」の長手方向の長さと「第3部分」の長手方向の長さとの間に僅かな差異しか設けない場合には,上記作用を奏することができないことは明らかである。

 上記構成は,「第2部分」の長手方向の長さと「第3部分」の長手方向の長さとの間に差異を設けることしか特定しておらず,この差異を設ける「肘掛け部」の形状には種々のものが想定され得るのであって,その外延は当業者においても明確でないといわざるを得ない
 ・・・
 したがって,本件発明1の特許請求の範囲中,「前記カバー部が有する少なくとも第2部分は板状部材により構成され,且つ,前記第2部分における左右方向内側部分の前後方向寸法が,前記第3部分の前後方向寸法よりも小さくなるように構成されている」との構成は,明細書及び図面によっても明確でなく,当業者の技術常識を勘案しても明確でないというべきである。

包袋禁反言を認めず、明細書の記載を総合考慮して記載事項を認定した事例

2011-03-10 23:02:00 | 特許法36条6項
事件番号 平成22(行ケ)10109
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年02月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

4 36条6項1号への適合性
以上を前提として,本願発明の36条6項1号への適合性について,検討する。
「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載とを対比し,「特許請求の範囲」に記載された本願発明が,「発明の詳細な説明」に記載・開示された技術的事項の範囲のものであるか否か,すなわち,・・・について,検討する。
・・・
(3) 「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載との対比
ア ・・・
 本願明細書中には,DV2 がアミノシリコーンを含んでいるとの明示の説明はされていない。仮に,DV2 がアミノシリコーンを含まないものであると認識されるならば,実施例1における比較例は,アミノシリコーンを含む還元用組成物を用いて還元処理したもの(従来技術)でないから,「本願発明の実施例」と「従来技術に該当するもの」とを対比したことにはならず,本願発明により前処理を施したことによる効果を示したことにならない
 審決は,この点を理由として,実施例1の実験は,比較実験として適切なものでないと判断する

 しかし,審決の同判断は,妥当を欠く。すなわち,前記のとおり,本願発明の特徴は,先行技術と比較して,「・・・」を適用するという前処理工程を付加した点にある。
そして,
① 特許請求の範囲において,前処理工程を付加したとの構成が明確に記載されていること,
② 本願明細書においても,発明の詳細な説明の【0011】で,前処理工程を付加したとの構成に特徴がある点が説明されていること,
③ 本願明細書に記載された実施例1における実験は,前処理工程を付加した本願発明と前処理工程を付加しない従来技術との作用効果を示す目的で実施されたものであることが明らかであること等
総合考慮するならば,本願明細書に接した当業者であれば,上記実施例の実験において,還元用組成物として用いられた DV2 が「アミノシリコーンを含有する還元用組成物」との明示的な記載がなくとも,当然に,「アミノシリコーンを含有する還元用組成物」の一例として DV2を用いたと認識するものというべきである。

 確かに,前記3(3)記載のとおり,原告は,本願発明の還元用組成物について,アミノシリコーンを含有しない還元用組成物である旨の意見を述べている。しかし,原告が,このような意見を述べたのは,本願発明が,先行技術との関係で進歩性の要件を充足することを強調するためと推測され,手続過程でこのような意見を述べたことは,信義に悖るものというべきであるが,そのような経緯があったからといって,DV2 が「アミノシリコーンを含有しない還元用組成物」であることにはならない。なお,甲14ないし16によれば,DV2 は,アミノシリコーンを含有しているものと推認される。

一部の要件の意義を検討してサポート要件を判断するのを誤りとした事例

2011-02-12 21:10:27 | 特許法36条6項
事件番号 平成22(ネ)10009
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成23年01月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 なお,本件発明では,平衡重りのセンサ全体に対する重量比は,レベル・センサの安定性に寄与しているものの,それはセンサ全体の重心がセンサの中心からずれているという構成,すなわち,センサが外力に対する安定性(復原モーメント)を有することを前提として,その復原力の大きさ,すなわち安定性の程度を調整するための1つの要素として機能しているのであり,30%という具体的な数値そのものが技術課題を直接達成する関係にある必要はない。したがって,課題解決のために組み合わせた構成から,センサ全体に対する平衡重りの重量比を少なくとも30%とするとの要件のみを切り離して,これが課題解決のために不可欠な構成であるか否かを判断するのは誤りである

 以上によれば,当業者からすれば,平衡重りとセンサ全体の重量比を一定比率以上とすることが,レベル・センサを液体中においておおむね主水平位置に安定的に維持するという効果に寄与することは,明細書の記載と技術常識に基づいて容易に理解することができ,サポート要件に違反しない

原審

明確性要件の判断事例

2010-10-03 10:11:32 | 特許法36条6項
事件番号 平成21(行ケ)10353
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年09月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

5 取消事由6(法36条6項2号についての判断の誤り)について
 審決は,請求項1及び請求項2における「結着部分から引っ張っても結着部分がはがれない状態に一体化」との記載について,「引っ張る力に上限がなければ,いかなるチーズでも,結着部分がはがれてしまう。そして,「結着部分から引っ張」る力の大きさがどの程度であるかについて,当業者であっても共通の認識を有しているとは認められない。」として,当業者であっても「結着部分から引っ張っても結着部分がはがれない状態に一体化」しているかどうかを判断することができないから,本件発明1及び本件発明2は明確でなく,法36条6項2号の要件を満たさないと判断する。

 しかし,審決の上記判断は,以下のとおり,失当である。

 すなわち,請求項1及び請求項2における「結着部分から引っ張っても結着部分がはがれない状態に一体化」記載部分は,チーズが,結着部分から引っ張っても結着部分がはがれない状態に至っていることを,ごく通常に理解されるものとして特定したというべきである。すなわち,本件発明1及び本件発明2のようなカマンベールチーズ製品及びその製造方法において,チーズの結着部分以外の部分であっても,仮に,一定以上の強い力を加えて引っ張れば,表皮は裂けるし,そのような強い力を加えなければ,表皮がはがれることはない。

 上記構成は,チーズの結着部分について,チーズの結着部分以外の部分における結着の強さと同じような状態にあることを示すために,「結着部分から引っ張っても結着部分がはがれない状態に一体化」との構成によって特定したと理解するのが合理的である。また,上記記載部分をそのように解したからといって,特許請求の範囲の記載に基づいて行動する第三者を害するおそれはないといえる。

したがって,上記記載が不明確であって法36条6項2号の要件を満たさないとした審決の判断は,誤りである。

特許を受けようとする発明が明確であるか否かを判断する観点

2010-09-05 22:41:57 | 特許法36条6項
事件番号 平成21(行ケ)10434
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年08月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(2) 法36条6項2号の趣旨について
 法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある

 そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきことはいうまでもない。

 上記のとおり,法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関して,「特許を受けようとする発明が明確であること。」を要件としているが,同号の趣旨は,それに尽きるのであって,その他,発明に係る機能,特性,解決課題又は作用効果等の記載等を要件としているわけではない
 この点,発明の詳細な説明の記載については,法36条4項において,「経済産業省令で定めるところにより,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。」と規定されていたものであり,同4項の趣旨を受けて定められた経済産業省令(平成14年8月1日経済産業省令第94号による改正前の特許法施行規則24条の2)においては,「特許法第三十六条第四項の経済産業省令で定めるところによる記載は,発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」と規定されていたことに照らせば,発明の解決課題やその解決手段,その他当業者において発明の技術上の意義を理解するために必要な事項は,法36条4項への適合性判断において考慮されるものとするのが特許法の趣旨であるものと解される
 また,発明の作用効果についても,発明の詳細な説明の記載要件に係る特許法36条4項について,平成6年法律第116号による改正により,発明の詳細な説明の記載の自由度を担保し,国際的調和を図る観点から,「その実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならない。」とのみ定められ,発明の作用効果の記載が必ずしも必要な記載とはされなくなったが,同改正前の特許法36条4項においては,「発明の目的,構成及び効果」を記載することが必要とされていた。

 このような特許法の趣旨等を総合すると,法36条6項2号を解釈するに当たって,特許請求の範囲の記載に,発明に係る機能,特性,解決課題ないし作用効果との関係での技術的意味が示されていることを求めることは許されないというべきである。

 仮に,法36条6項2号を解釈するに当たり,特許請求の範囲の記載に,発明に係る機能,特性,解決課題ないし作用効果との関係で技術的意味が示されていることを要件とするように解釈するとするならば,法36条4項への適合性の要件を法36条6項2号への適合性の要件として,重複的に要求することになり,同一の事項が複数の特許要件の不適合理由とされることになり,公平を欠いた不当な結果を招来することになる。
 上記観点から,本願各補正発明の法36条6項2号適合性について検討する。

(3) 本願各補正発明の明確性について
ア 本願補正明細書(甲2)の記載
 ・・・
イ 本願補正明細書記載の意義
 ・・・
ウ 判断
 そうすると,「伸張時短縮物品長Ls」又は「収縮時短縮物品長Lc」と関連させつつ,吸収性物品の弾性特性を「第1負荷力」及び「第2負荷軽減力」により特定する本願各補正発明に係る特許請求の範囲の記載は,当業者において,本願補正明細書(図面を含む。)を参照して理解することにより,その技術的範囲は明確であり,第三者に対して不測の不利益を及ぼすほどに不明確な内容は含んでいない。
 ・・・

複数の実施例にサポートされる事例及び通常想定されないものの事例

2010-08-22 21:54:04 | 特許法36条6項
事件番号 平成21(行ケ)10252
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

3 取消理由2(サポート要件に関する判断の誤り)について
 原告は,請求項1において「接点具」の数が特定されていないところ,本件発明の「接点具」には,
① 単数の接点具からなる場合,
② 各々が同一の機能・動作をする複数の接点具からなる場合,
③ 各々が異なる機能・動作をする複数の接点具からなる場合,
の三つの概念が包含されるが,本件明細書には①及び②の場合が記載されていないから,サポート要件に適合しない旨主張する


 しかし,前記のとおり,本件発明において,複数の接点具を結合し接点機能を発揮するものも「接点具」といえるから,第1の実施例及び第2の実施例におけるスイッチ13及びスイッチ14の各接点具の組合せは本件発明の「接点具」に相当するということができる。また,第3の実施例の接点具26及び第4の実施例の接点具32は,それぞれ本件発明の「接点具」に相当する

 そして,第3の実施例及び第4の実施例が本件発明の実施例に相当することは前記のとおりであり,第3の実施例及び第4の実施例が上記①の単数の接点具からなる場合に相当するということができる。

 また,上記のとおり,第1の実施例及び第2の実施例は,スイッチ13及びスイッチ14の各接点具の組合せが本件発明の「接点具」に相当するところ,その動作に鑑みれば,③の各々が異なる機能・動作をする複数の接点具からなる場合に相当すると認められる。

 ②の各々が同一の機能・動作をする複数の接点具からなる場合については複数の接点具のそれぞれが同一の機能・動作をすると解されるから,全体としての機能は実質的に単数の接点具と同じといえるところ,このような接点具が通常想定されるものとは認められないから,②の例についてまで開示されていなければ発明の詳細な説明の記載に特許請求の範囲に記載された発明の全体が記載されていないということにはならないというべきである。

発明の技術的特徴ではない部分に対する記載要件の判断

2010-08-22 21:51:40 | 特許法36条6項
事件番号 平成21(行ケ)10252
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年07月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(5) 原告の主張に対する補足的判断
 原告は,構成要件e-1及びe-2はバネの作用を要件としていないから,本件発明には,バネの関与なしに構成要件e-1及びe-2を実現し,バネの作用により構成要件e-3を実現するものも包含されるところ,発明の詳細な説明にはその具体的構成の開示がなく,実施可能要件及びサポート要件違反である旨主張する。

 しかし,構成要件e-1及びe-2は電気スイッチの一般的な機能を規定するもので,本件発明の技術的特徴ではないと考えられるところ,特許法はそうした部分についてまで,実施可能要件及びサポート要件として網羅的に実施例を開示することを要求しているとは解されない,すなわち,構成要件e-1及びe-2の機能におけるバネの関与の有無は発明を特定するための事項ではないところ,かかる発明を特定するための事項ではない技術的事項に着目し,実施可能要件及びサポート要件を問うことは適切ではないと解される。

 加えて,電気スイッチに関し,構成要件e-1及びe-2の機能にバネが関与するか否かに着目して分類することが一般的であるとは認められず,原告独自の分類であると解されることに照らすと,バネの関与なしに構成要件e-1及びe-2を実現し,バネの作用により構成要件e-3を実現する構成が発明の詳細な説明に具体的に記載されていないとしても,実施可能要件及びサポート要件違反であるということはできないから,原告の上記主張は採用することができない。

明確性要件の判断事例

2010-07-04 14:27:01 | 特許法36条6項
事件番号 平成21(行ケ)10222
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年06月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

2 取消事由1(本願発明において明確性を欠くとした判断の誤り)について
(1) 発明展開度算出手段について,審決は,本願発明のうち,「請求項数が大きいほどより大きい値となり,前記明細書解析部が算出したカテゴリー展開の数が大きいほどより大きい値となる,発明を展開している度合いを示す発明展開度を算出する発明展開度算出手段」の記載は不明確であるとする

 しかしながら,本願発明中の用語「請求項数」については,クレーム中に(請求項の番号を示す)「請求項タグ」の中の最も大きい数である旨の定義があると認められるから,その意味は一義的であり,特に不明な点はない。また,本願発明中の用語「カテゴリー展開の数」については,請求項タグで特定される各請求項の語尾を抽出して,「装置」「方法」「プログラム」のうち,存在する語尾の種類の数である旨の定義があると認められるから,その意味は一義的であり,特に不明な点はない。そして,本願発明中の用語「発明展開度」については,上記のような「請求項数」が大きいほどより大きい値となり,「カテゴリー展開の数」が大きいほどより大きい値となるものとして定義されていると認められるところ,その意味は,原告が主張するような増加関数を持ち出すまでもなく,一義的で,特に不明な点はない。

 そうであれば,「発明展開度」は,上記のように,「請求項数」が大きいほどより大きい値となり,「カテゴリー展開の数」が大きいほどより大きい値となるものとして,その定義がクレームに明確に記載されていると認定できる。したがって,「発明展開度算出手段」に関する請求項の記載は,原告が主張する他の文献(甲19,20)や他の特許出願(甲11,12,13)を持ち出すまでもなく,それ自体で明確であるというべきである。

(2) この点について,被告は,本願発明における「発明を展開している度合いを示す」という記載が明確でない旨主張する
確かに,被告が指摘するとおり,クレーム中の用語「発明を展開している度合い」だけを,単独で解釈すれば,用語の定義が不明確であるとする余地があるともいえないわけでない。
しかし,「発明を展開している度合いを示す発明展開度」との請求項2の記載を,全体として解釈すれば,各用語(「発明」,「展開」,「度合い(度)」)の対応関係から,この部分は,本件独自の用語である「発明展開度」を,単に分かりやすく言い換えて説明しているにすぎないと認めるのが自然である

 したがって,「発明を展開している度合いを示す」という記載のみを取り出して,それが不明確であるということは適切ではなく,上記のとおり解釈すれば,「発明を展開している度合いを示す」との記載が含まれているとしても,別段請求項2の記載が不明確であるとはいえない。

(3) また,被告は,本願明細書の記載のうち,・・・情報処理装置が行う発明展開度の算出は,「(f=「請求項の数」*0.5+「請求項のネストレベルの深さ」*0.3+「カテゴリー展開の数」*0.2)の算出式により算出する」ことのみが記載されており・・・等を理由として,「発明展開度算出手段」は,「『請求項の数』,『請求項のネストレベルの深さ』及び『カテゴリー展開の数』に重みを乗算することにより発明展開度を算出する」との具体例以外の具体例を想定することができず,また,当該具体例において,発明展開度の算出において3個の変数から所望の1個以上の変数を選択可能であると想定することはできないから,結局,発明展開度算出手段は不明確である旨主張する。

 しかしながら,「算出式f=…」については,上記1の段落【0058】の記載のとおり,そこには,「例えば」,及び「なお,発明展開度(f)を求める算出式は,上記に問わない。」と記載されているのであるから,上記算出式は例示であることが明らかであって,本願明細書の記載においても,これ以外の算出式を使用できることの示唆があると認められる。
 また,前記1の段落【0089】の記載からすれば,「請求項数」が多いほどアイデア,すなわち,発明が「展開」されていると認定でき,また,カテゴリー「展開」数も,その数が多いほど,発明が「展開」されていると認定でき,さらに,「最大ネストレベル」も,アイデアを多層的・多面的に検討したことを表す旨の記載から,数が多いほど,発明が「展開」されていると認定することができる。
したがって,本願明細書の段落【0058】の算定式で用いられる3つの変数は,それぞれ個別に,数が大きいほど,発明の展開度が高いことを示す指標であると認められる

 そして,段落【0058】の3変数の組合せの算出式の例示,及び他の算定式の示唆,並びに段落【0089】に示唆されている,3変数それぞれが個別に,数が大きいほど発明展開度が高いことを示す指標である旨の記載を総合すると,これらの3変数のうちの任意の1以上の変数を組み合わせた算定式も,同様に,各変数が多いほど,発明の展開の度合いが高いことを示す指標となるものと理解することが可能であると認められる。

 したがって,明細書の変数の個数が異なるからといって,本願の請求項が不明確になることはないというべきであるから,この点に関する被告の主張は採用することができない。

明確性要件を満たすか問題となる余地

2010-05-23 13:21:02 | 特許法36条6項
事件番号 平成21(行ケ)10170
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年05月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

 本願請求項の構成は,前記のとおり,「(A)・(B)・(C)の定める各検出方法いずれか又はこれらを組み合わせたことによるADP受容体P2T アンタゴニスト等を検出すACる工程」と「製造化工程」と含む「抗血小板用医薬組成物の製造方法」とするものである。上記構成は,概ね,原告が前記特許第3519078号(甲13)により取得した特許権請求項1~4の記載に「製造化工程」を付加し「抗血小板用医薬組成物の製造方法」としたものである。そして,検出方法(A)・(B)・(C)については具体的な技術内容が特定されているものの,その余の「製造化工程」・「医薬組成物の製造方法」には具体的な技術内容の記載が見当たらない

 一方,本願請求項1は,その記載内容からして,末尾にある「医薬組成物の製造方法」であるから,「製造方法」の観点か,又は「物」の観点,すなわち製造原料の観点や製造された医薬組成物の観点若しくはその組み合わせに発明的な特徴があるのが通例であるが,本願請求項1には上記発明的特徴を窺わせる記載が見当たらない

 上記によれば,本願請求項1は旧36条6項2号にいう「特許を受けようとする発明が明確であること」(明確性要件)の要件を満たすか問題となる余地があるが,審決は本願につき旧36条4項の実施可能要件についてのみ判断しているので,以下その当否に限って検討する。

サポート要件の判断事例

2010-05-01 13:49:00 | 特許法36条6項
事件番号 平成21(行ケ)10296
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年04月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

 まず,本件特許発明が,発明の詳細な説明の記載内容にかかわらず,当業者が,出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものかどうかを検討するに,本件での全証拠を精査してもなお,本件特許発明につき,当業者が,その出願時の技術常識に照らし,赤身魚類の魚肉を上記一連の工程に付することにより,上記課題を解決できると認識できる範囲のものであると認めることはできない
 したがって,本件特許に係る特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するためには,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,同発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであることが必要である。

(2) 本件特許に係る明細書(甲36)の発明の詳細な説明には,赤身魚類の魚肉を上記一連の工程に付することにより上記のような課題を解決し得ることを明らかにするに足る理論的な説明の記載はない

 また,発明の詳細な説明において実施例とされる記載のうち,実施例1では,ガスの充填工程で用いる炭酸ガスと酸素ガスの比率につき,それぞれ「20~50容積%」,「50~80容積%」という範囲で表記するのみで,具体的な容積%を特定して開示しておらず,低温処理工程での温度と時間も,「5~10℃」で「30分~3時間」という範囲で表記するのみで,具体的な温度と時間を特定して開示しておらず,いずれも特許請求の範囲の記載を引き写したにすぎないとも解されるものである(段落【0017】及び【0020】参照)。
 そして,実施例2及び3では,ガスの充填工程及び低温処理工程に関する実施例1の上記記載を引用するのみであり(段落【0023】【0034】【0035】参照),実施例4では,ガスの充填工程に関しては,「70容積%の酸素ガスと30容積%の炭酸ガス」(図1,図3に関するもの)との記載があるものの,低温処理工程が実施されたとの記載はない(段落【0036】【0038】参照)。

 そうすれば,上記発明の詳細な説明において実施例とされた記載のうち,実施例1ないし3は,ガスの充填工程及び低温処理工程のいずれについても,実際の実験結果を伴う実施例の記載とはいえず,実施例4についても,低温処理工程については,実際の実験結果を伴う実施例の記載であるとはいえず,実施例1ないし4以外に,実施例の記載と評価し得る記載もない。

 このように,本件においては,前記一連の工程に該当する具体的な実験条件及び前記課題を解決したことを示す実験結果を伴う実施例の記載に基づき,前記課題が解決できることが明らかにされていない

 以上からすれば,特許請求の範囲に記載された本件特許発明は,明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が前記課題を解決できると認識できる範囲のものではなく,明細書のサポート要件に適合するとはいえない。