ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

ある日の新聞から

2013-10-31 10:30:15 | 社会・経済

家で取っている地方紙の論説欄から--

<年老いた私が ある日 今までの私と違っていたとしても どうかそのままの私のことを理解してほしい>

<服の上に食べ物をこぼしても・・・同じ話を何度も繰り返しても・・・あなたの人生の始まりに私がしっかり付き添ったように 私の人生の終わりに少しだけ付き添ってほしい>

これは、シンガーソングライター、樋口了一さんの「手紙」という曲の歌詞なのだそう。論説は、このあと介護について書きつづられていくのだけれど、私は年老いた親が子に語りかけていくせつなさに、心が震えてしまった。

人は、誰しも年老い、体の自由もきかなくなり、この世から消えていく準備を始めなくてはならなくなってしまう。 生まれたばかりの赤ん坊の時の、天使みたいな笑い顔、生きることが楽しくて仕方ない小さな子供時代をへた後の「戦い」としかいいようのない、苦しみや喜び。 人生とは、楽しい映画みたいなものではない。 そうした葛藤や時々の幸福を通り過ぎた後、老年期が、心暖まるものであれば、と誰しも願っているに違いない。

老いることは、悲しいかもしれない。けれど、晩秋の紅葉がこの世のものとも思われない、華麗な色彩を溢れださせるように、人も散ってゆく前に、素晴らしい心の風景を見ることができるはずだと思うのだ。

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メソポタミアの殺人

2013-10-29 09:26:08 | 本のレビュー

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今日の本は、アガサ・クリスティー著「メソポタミアの殺人」である。 中東を舞台にした作品群の中でも、最高傑作と言われる本著。

でも、私がこれを最初に読んだのは、小学校5年生の時。当時、英語を教えに来てくれた家庭教師の方に、この本をお貸しして、感想を話し合ったこともよく覚えている。 シリアの古代遺跡発掘現場を舞台に、1930年代の空気が色濃く流れ、エキゾチックな風物とオリエントのスパイスの匂いが漂ってきそうな、雰囲気に魅了されたことを、鮮やかに思い出す。

物語は、考古学者レイドナー博士に、恐怖と不安にかられている彼の妻、ルイーズの看護を頼まれた、看護婦エミリー・レザランの独白体で進んでゆく。 結局、ルイーズは殺されるのだが、彼女のもとには、前夫からの脅迫状が届けられていた。 ルイーズの前夫は、考古学隊員に身を変えていたのか? それともルイーズに恨みを抱く人間の仕業か?--といったことが考古学者たちの人間模様を中心に興味深く描かれるのだが、何といっても魅力的なのは、ルイーズの人間像。

素晴らしい美人で、比類ない魅力の持ち主・・・その半面、残酷な面を持ち、知的で、妖精のようであったという女性。登場人物の一人は、アンデルセンの童話「雪の女王」のような女性だったとルイーズのことを述懐するのだが、私にはこのレイドナー夫人の個性がつかみきれないまま。 でも、ルイーズ・レイドナーの人間像を描く、クリスティーの筆致は巧みである。

犯人は、夫のレイドナー博士であったことがわかるのだが、何と彼は、ルイーズの前夫でもあったというおそるべき真相が。 このことを、かつての家庭教師の方は、「犯人が、途中でわかっちゃった。 どこかに、それらしいヒントも書いてあったし。 でも、以前の夫だったって、普通はわかるよねえ」とコメントしていたけれど、確かに通常のミステリだとやや無理な展開かも。

けれど、それでも、この作品には素晴らしい味わいがあるのだ。 オリエントの地に咲く優雅な英国文化や、ルイーズ・レイドナーという女性のいわくいいがたい魅力・・・今は枯渇しつつあるけれど、小学生当時の私の空想力は、豊かに羽ばたいてくれて、砂色の異国の風景や、黄金の古代の装飾品、考古学者たちの宿舎のありさまを鮮やかに描いてくれたもの。

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ノエルハーブガーデン物語1

2013-10-28 09:02:34 | ガーデニング

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昨日、園芸ショップで買ったヴィオラを、庭の片隅に植えました。彩りがやや淋しくなった、秋のガーデンに可憐な風情を添えています。

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そして、これもショップで買ったもの。星形の穴がところどころ開いた、円いテラコッタの置きもの・・・なかなかユニークな形状! 前のノエルのお墓(隣りの黒い枕木には、ノエルの墓碑銘が記してあります)の上に置くことに。 星になったノエルと重ねあわせて。

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ハナミズキの赤い実--ハナミズキといえば、春咲く、白や薄いピンクの花ばかりが、華やかに目を惹きますが、秋にはこんな素敵な変身をとげているのです。

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最後に、シュウメイ菊。 清楚で、気品あふれる立ち姿・・・朝の光を浴びて、凛とした佇まいです。

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ある一日

2013-10-26 10:17:01 | ある日の日記

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10月も終わりの週末、離れにて。何の気なしに、ぼんやりと本棚など見ています。

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と、目がとまったのは、テーブルの上に置かれたこれ。 この間の旅行で、チェコへ行った時、カレル橋の上で買ったもの。 若い青年が売っていたのですが、磨かれた石に、白い馬を手描きで描いたペンダント--得も言われぬ愛らしさがあります。 絵も繊細な仕上げですし。拡大しないと、はっきり見えないかもしれませんけれど。

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そして、これはウィーンのケルンストナー通りの店で買ったトナカイのランチョンマット。 赤い刺繍の縁取りが綺麗だと思います。 こうしたちょっとした小物を見ると、旅の思い出が鮮やかに蘇りますね。 旅に出ても、お土産を買わないという主義の人もいますが、私は旅行先で買ったちょっとしたものを、飾って楽しむ方。

ううん、思い出しても、プラハは素晴らしい街でした。

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高村薫という作家

2013-10-24 20:01:23 | 本のレビュー

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一週間ばかり前、買ってきたこの本・・・高村薫の「晴子 情歌」。 読み始めたのだけれど、何とも体力のいる本だなあ。 東北の寒村やら、漁船の作業風景、海をわたる風の描写など、いちいちが克明で、読むのが正直しんどい。 凄い物語世界だとは思うけれど、「面白い」とは正直、思わないし。 おまけに、これは上巻が始まったばかり--これが全2巻にわたって、えんえんと書きつづられるのかと思うと、ちょっと・・・。

でも、書いたのが、あの高村薫だからこそ、長編小説が苦手の私でも、読むのである。高村薫・・・日本が生んだ世界的な才能あふれる、社会派ミステリー作家と言っていいと思う。 他の作家は皆、好き嫌いがあるはずなのに、この高村薫という人には、誰しも深いリスペクトを抱いているらしい。 「マークスの山」から始まった合田警部シリーズが熱狂的ファンを持つことを視野においたとしても。

そして、私ももちろん、この作家に深い尊敬の念を感じている。 日本の現存する作家で、これほど尊敬を感じる作家は、他にいない。 最初、「マークスの山」で、ブレイクした彼女を、「リヴィエラを撃て」、「神の火」などと続けざまに読んでいくうち、その薫という名前を見、作品を読み、顔写真を見て「男性」だと思っていたのも事実(当時、友人も同じことを言っていた)。 細面の顔にメガネをかけた中性的な面立ちは、何かの研究者のようで、とてもこんな巨大なスケールの作品を書く、エネルギッシュな感じは受けないし。

しかし、私としては、やはり初期の頃の高村薫の方が、ずっと面白いと思う。だから、先ごろ評判になった「冷血」もまだ読んでいない。 残酷な殺人事件を加害者と被害者の両方から語らせるという手法も、重い感じがしたし。 でも、この作家についていくなら、いずれは読まなければならないだろう。 とりあえず、「晴子 情歌」だ。 

 

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これって、なぜ?

2013-10-23 18:32:11 | ある日の日記

以前から、不思議に思っていたのだけど、雑誌などに写真入りで掲載されている有名シェフとかパティシェというのは、なぜ腕を組むのだろう? 美味しそうなテリーゼとか緑のソースをきかせた白身魚のグリルとか、宝石みたいにきらびやかなケーキの写真を見せられて、「わあ・・・」と思っても、それを作ったという人が、えらそうにふんぞりかえっていちゃ、ひいてしまう。

ふんぞりかえっているという訳じゃなく、そういうポーズを取るよう、取材の時、言われるのだろうか? 「〇〇さん、芸術家らしいポーズを組んで下さい。 腕は45度の位置に。そう、そんな調子でね」なんて具合に。 ああ、あほらしい。 少なくとも、私はこういうポーズを見ると、そこまでして食べさせてもらいたくないなあ、と思ってしまう。 以前、どこかで「グルメって、大切な食べ物に、いちいちうるさく文句たれる人のことだよね」というのが、あったけれど、個人的に「ごちそう」を食べる趣味はありません。 だから、余計違和感を感じてしまうのかもしれないけれど・・・。

今の私のマイブームは、コンビニ「セブンイレブン」で発売されたばかりの、「手包み特製肉まん」(160円)をぱくつくこと。 中の具がすごーくジューシーで、こっくりとした味わいがあるのだ。 くせのないマイルドな味。 これと、ミルク紅茶で、晩秋のおやつはきまり!

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ノエルと金柑の実

2013-10-22 18:36:35 | ノエル

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庭になる金柑・・・それは、なぜか犬にとって大好物である。代々いた犬たちは、皆季節が巡ってくるたび、この金柑を楽しみに食べていた。 まるで、木の実をついばむ小鳥みたいに。

上の写真は、今年のはじめ、金柑の木に飛び上がり、橙色の実をぱくついているノエル。なかなか面白いポーズだね。 ・・・でも、毎日食べるから、しまいには木がまるはげになってしまったけど。

金柑の実は、日本料理の世界でもデザートに出されたりして、甘露煮にすると美味しいそう。でも、うちでは、みなノエルが食べてしまいます。 

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ベニシアさんの四季の庭

2013-10-18 15:45:55 | 映画のレビュー

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映画「ベニシアさんの四季の庭」を観に行ってきました。ベニシアさんは、もう何年も前に本を買って以来、その生活ぶりに惹きつけられてきた人。 その生活ぶりをドキュメンタリーで公開するというのだから、これは見逃せない!

でも、見始めた瞬間、「あれ?」と違和感。 本の中では、古民家を移築した家は、ぴかぴかに磨き立てられていて、庭の花々も一本一本、計算されたような端正な美しさがあったような気がするのに、実際の家は、本や生活雑貨があちこちからのぞき、庭も野趣あふれるもの・・・一言でいうなら、生活感に満ちている! でも、これはこれで自然な居心地の良さがあり、ベニシアさんがラベンダーの入った蜜蠟で、戸棚を磨くところや、紫蘇の葉をジュースにしてみせるところなども、本で知っていたことです。 英国貴族の家に生まれながら、社交界になじめず、ヒッピーに近い暮らしをしていた若い頃、ひょんなことから、日本にたどり着き、今では京都・大原を終の棲家としていることは、皆さんご存じのとおりですが、こうした暮らしぶりには、今の日本人が忘れてしまっている「本物」があるんでしょうね。

ベニシアさんは、自家製のオイルやジュースといったものを詰める瓶に、イラストと直筆で説明を書いたシールを貼るのですが、独特の丸っこい字で書かれた、それがなんともお洒落!私も欲しいくらいです。 絣のモンペや藍染めのシャツを着て、夏は団扇をあおいでいるなど、日本人以上に、日本人してるのも面白い。  

そして、印象に残ったのは、ベニシアさんちの庭が、ノエルハーブガーデンと、植生が良く似ていること。 ボリジも、コスモスも矢車草も、アメジストセージも、ラベンダーも皆、ノエルハーブガーデンに咲いているものと同じ。 まるで、ベニシアさんと共通する感性がありそうで、うれしいな。

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中欧への旅4

2013-10-15 15:50:00 | 旅のこと

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プラハはとても美しい街・・・パリもフィレンツェも、リスボンも魅力的な街でしたが、このプラハの魅力は別格! いつか、もう一度ゆっくり来てみたいものです。上に掲載した写真は、私の個人的趣味である紋章が装飾に使われた建物(色も、茶にオレンジがまじったような色合いで、美しい建築ですね)と、ペトシーンの丘から見た夕暮れのプラハの街。

この丘には、ケーブルカーに乗ってゆくのですが、ここにはプラハ大学の学生寮もあるそう。プラハ大学の学生は、こんな贅沢な景色を毎日、楽しんでるんだなあ・・・。

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そして、プラハ城のまわりの葡萄畑--ここで、特製のワインができるのだそう(アルコールはてんで駄目なのだけれど、せめてワインさえ飲めたらな)。案内してくれたガイドさんは、私と同世代の方でしたが、16年前、プラハに「遊びにきた」そう。 う~ん。どんな人生ドラマが隠されているのでしょう? いつも思うのですが、ガイドをやっている現地在住の日本人の方は、皆さんお洒落! 才能がないと、外国で長く暮らすことはできない・・・そのことを実感します。

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そして、これは作家フランツ・カフカのミュージアム。イニシャルのKの文字が大きく、外に張り出され、20世紀を代表する作家であるカフカの人気を物語るように、多くの人が・・・。でも、展示館には入らず、ミュージアムショップで、カフカ自身が描いたというイラストを使ったノートや、メモ、マウスパッド等を買ったのみ。カフカっていえば、中二の時、「変身」を読んだっきりだったなあ・・・。 わずか40歳で死んだというカフカのハンサムな顔写真があちこちに飾られているのを見ると、他の作品も読みたい気がむくむくともたげてきました。 母は、「異邦人」を書いたフランスのアルベール・カミュとカフカをごっちゃにしたりするのですが、そういえば、この二人、「不安」を感じさせる作風といい、40代で亡くなったことといい、美男子だったことなども、結構共通点があるかも。

旅の終わり、乗り継ぎ空港のヘルシンキにて、ラウンジでひと息。海外のビジネスクラス用のラウンジは、とても居心地の良い素晴らしい空間です。 世界遺産の街とか、お気に入りのものに出会えたお店とかいうのとは違った、心に残る1ページになりますね。

飛行機に乗った時、ふと窓の覆いを開けると、真っ暗な夜空で何も見えない・・・でも、顔を寄せて、窓の向こうを凝視すると、無数の星が輝いていて、まるでプラネタリウム! 銀の星がいっぱいにちりばめられているのが、小さな窓ごしに見え、旅の最後を飾ってくれました。

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中欧への旅3

2013-10-14 18:21:28 | 旅のこと

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ウィーンは、ケルンストナー通りのフラワーブティック。花あしらいが素敵なので、写真を撮ってしまいました。この街に住んでいたら、花を買って、人に贈り物にすることも多いんでしょうね。

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シェーンブルン宮殿内のレストランのインテリア。深まりゆく秋と比例して、ハロウィーンの飾りつけなどしており、全体に暖かみのあるものに。 ウィーンは、料理もおいしく、洗練されています。 ただ、デザートとして有名なザッハートルテは、日本人には重いかも。 7年前に初めて、ウィーンを訪れた時も思ったのですが、こちらのケーキは華やかな彩りに乏しいね。 夜、シェーンブルン宮殿で催されたクラシックコンサートも、宮殿内部の壮麗さに似つかわしい素晴らしいものでしたが、私の前の前の席に座っていた金髪の女性が、「少し、年を取ってしまったダイアナ妃」そっくりで(目が何ともいえず、似てたの)、それの方が印象に残ってしまいました。

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