ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

バーバレラ

2021-08-20 19:29:37 | 映画のレビュー

1968年の映画「バーバレラ」を観る。主演のバーバレラを演じるのは、若かりし日のジェーン・フォンダ。監督は、ロジェ・バディム。

当時のジェーンは、名優の父ヘンリー・フォンダに反抗して、ヨーロッパに行っていたのだが、そこで有名なドン・ファン監督ロジェ・バディムと恋に落ち、結婚。(ロジェ・バディムは、ブリジット・バルドーを見出し、彼女と結婚。カトリーヌ・ドヌーヴとの間にも、息子がいる)

という前提つきで観たのだが、このSFアドベンチャー。とても、面白い。SFといっても、舞台や美術もとてもチープなB級映画。しかし、B級はB級にしかない存在意義と面白さがあるのであーる。

     

遠い未来の世界。有能な地球人パイロットであうバーバレラは、地球大統領の命令を受け、タウ星へ行方不明になった科学者デュラン・デュランを探しに行く。そして、タウ星に不時着するのだが、あいにく宇宙船は壊れている。そこから、彼女の奇想天外、かつエロチックな冒険が始まるというわけなのだが、舞台装置のあまりのお粗末ぶりが、かえっておかしい。 不時着したのは、氷の上で、二人の女の子に捕まるのだが、子供たちに柱にくくりつけられ、動く人形の集団に体を噛みちぎられたりする。

それから、不気味な死の迷路へ行ったり、そこで盲目の有翼人パイガーと出会い、彼にデュラン・デュランのいるという悪の都市ソゴールへ連れていってもらう。このソゴールというのが、聖書のソドムの町を連想させる、快楽をむさぼる薄気味の悪い都市なのだ。

パイガーと離ればなれになったり、女性である皇帝に会ったり……とバーバレラの冒険は続くのだが、私が面白かったのは設定の風味づけ。ソゴールは、湖上都市であり、街の下にはマモトスという名前の生きた湖が横たわっている。生命を持つ湖は、人間の贄を要求するというわけなのだが、これって「惑星ソラリス」を連想させる。

といっても、私はこの有名な映像作品を見たことがありませぬ。いつかは、観たいと願っているのだけれど……。

この大らかで、はちゃめちゃなSFアドベンチャー。宇宙船や未来都市の描き方にも(現代のような技術がなかったからなのだけれど、)、どこかファンタジックでチープな味わいがあり、それが作品の魅力を高めておりまする。

何より、冒頭の宇宙船内でバーバレラが、身に着けていた宇宙服を一枚、一枚脱ぎ捨て、裸になるシーン。無重力状態の中で浮かぶジェーン・フォンダと彼女がヘルメットを脱いだとたん、「ジェーン・フォンダ」のアルファベットが中からこぼれ落ちてゆく様が、素晴らしく洒落ている。こんなに印象的なオープニングを目にしただけで、観客の期待指数は上がるはず!!


去年の夏、突然に

2021-08-20 11:20:14 | 映画のレビュー

映画「去年の夏、突然に」を観る。以前も何回か観ているのだが、何度観ても、不気味でスリリングな物語。

何と言っても、エリザベス・テイラーが、あの名女優キャサリン・ヘプバーンと渾身の演技でぶつかり合っているのが、凄い迫力である。リズ演じる患者キャサリンを支える、精神科医をモンゴメリー・クリフトが演じているのも、「陽のあたる場所」のベストカップルの再来を感じさせ、感慨深いものが……。

物語は、1937年。クリフト演じる精神科医が勤める州立病院は、劣悪な施設を改善したいと悩んでいた。そこに富豪のバイオレット夫人から、病院建設のための莫大な寄付と引き換えに、姪のキャサリンのロボトミー手術をしてくれと頼まれる。

キャサリンは、去年の夏、夫人の息子のセバスチャンとヨーロッパ旅行に行った時、セバスチャンの悲劇的な死に立ち会う。それ以後、精神に変調をきたし、病院に入院しているというのだ。

医師は、キャサリンが収容されている療養施設まで、彼女に会いにいく。キャサリンは、美しい女性だった。暴れ、泣き叫びはするものの、彼女は精神異常ではなく、過去にショッキングなことを見聞きしたため、その記憶に封印しようとしているのだと彼は判断。

しかし、バイオレット夫人は、即刻にでも、彼女のロボトミー手術をするよう強要する。なぜ、そんなことをする必要があるのか? それは繊細で、内気で、素晴らしい魅力の持ち主だったとされるセバスチャンの抱える、おぞましい秘密に起因していた。バイオレット夫人は、それを隠すために、キャサリンを永遠に黙らせるため、廃人となる脳手術を実行させようとしていたのだった――。

 これ以上は言わない方がいいだろう。映画の後半は、昨年の夏、スペインの漁村で何が起こったかということと、セバスチャンとバイオレット夫人の抱える、恐ろしい秘密が、果物の皮がむかれてゆくように、徐々に明らかになっていくという運びなのだが、ここで書けば、ネタバレになってしまう。

   

 だが、ストーリーのスリラー風味以外にも、この映画には、興味深い箇所がいくつもあるのだ。 例えば、上の写真のキャサリン。彼女は一度は錯乱して、もう一度は自殺を図ろうと、重症患者が集まっている棟に入ってゆく。このシーンの不気味さ。キャサリンの歩く、上の通路からは、多くの患者達が、揺り椅子に座ったり、ぼんやりしてうずくまっている室内が見えるのだが、彼らもキャサリンを認めると、上を見上げる。

その表情の何とも言えぬ不気味さ。ニヤニヤ笑い。たるんだ顔つき。 この人たちは、映画のために雇われたエキストラではなく、本当に精神病院の患者ではないかと思ってしまうほど。 幽霊だとか、ホラーものも怖いが、この人たちの表情や動きはもっと不気味だ。

 それにしても、ロボトミー手術というのは、いつまで行われたのだろう。この前頭葉を切除する脳手術を受けると、確かに凶暴で、手の付けられない患者は大人しく従順になる。しかし、彼らから「人間らしさ」を奪い、廃人となってしまうことが明らかになったのだ。

原作は、テネシー・ウィリアムズ。やっぱりというか、この人でなければ書けないというか……「欲望という名の電車」や「トタン屋根の上の猫」「ガラスの動物園」などで、1960年代の映画界や、演劇を一世風靡していたウィリアムズの実姉が、精神に異常をきたしてしまったエピソードは有名。

姉の記憶が、これらのエキセントリックな作品群を生んだのか。

    

そして、リズファンへ。このシリアスな映画での彼女の演技は、特筆もの。あの世紀の名女優キャサリン・ヘプバーンを相手に、かくもエキセントリックな難役を好演しているのだ。 演技ができない、大根女優などと言われ続けてきたリズだが、よく映画を見直すと、決してそうではないことがわかる(それを言うなら、演技がとても下手なのは、オードリー・ヘプバーンだと思う)。

 

 

 

 

 


緑園の天使

2021-08-15 18:20:48 | 映画のレビュー

以前購入した、「緑園の天使」のDVDを再び観る。 ご存知、子役時代のリズ・テイラーが主演した名作であります。 ずっと、昔中学生の頃、映画雑誌「スクリーン」を愛読していた頃、この作品が紹介されていたことがあり、ずーっと観たいなあと思い続けてきました。それから、幾星霜。

昨年になって、ついに鑑賞することのできた「緑園の天使」――想像していた以上に佳作でした

公開されたのが、1944年だというから、はるか昔、それも第二次大戦中に作られた映画なのですが、当時の戦況などつゆとも感じられぬ、ほのぼのしたヒューマニックな映画。こんな素晴らしいカラー映画を製作する余裕が、戦中にあったのか――。

   

主役の少女ベルベット・ブラウンを演じるのは、当時12歳だったエリザベス・テイラー。上の画像が、それであります。このつぶらな瞳が輝く美少女ぶりを見よ! 何だか、すでに大人の雰囲気を醸し出しているのですが、よく見ると、顔に小さなそばかすらしきものが散っていたり……。さしものリズも完璧ではなかったのだなあ(余談ですが、この間、オードリー・ヘプバーンの「ローマの休日」を観ていて、オードリーの歯並びの汚さにショック! 八重歯が隣の歯の上にめりこんだりしているではないか――しかし、そのガチャガチャの歯も、ローマの街の床屋で、髪をすっぱり切ってもらった時、同時につるつるな歯並びになっていたから不思議。この映画の撮影中に、歯を矯正したのかしらん)。

 

「家路」では、コリー犬が相棒でしたが、この映画のリズ=ベルベットが情熱を傾けるのは、馬。くじで幸運にも手に入れた馬を駆って、ロンドンで行われる競馬レースに出場します。子どもなのに。そして、女性なのに。この大レースで優勝したにもかかわらず、ベルベットは失格となるのですが、人々は彼女を英雄とたたえる。

いかにも、古き良き時代のホームドラマを見ているような展開ですが、こういう方が観ている方も安心だし、面白い。

実言えば、ストーリーはこれだけではありません。舞台は1920年代の英国の田舎。精肉屋を営んでいるブラウン一家のもとに、ある日放浪児のマイが舞い込んでくる。

ベルベットの母親と自分の死んだ父親が、交流があったはずだと言うのですが、なぜかブラウン夫人ははっきりとしたことを答えない。にもかかわらず、マイはブラウン家に手伝いの身として雇われ、ベルベットと友情をはぐくむことになります。

この二人が、荒馬のベネディクトを飼いならし、競馬レースにおもむくという訳ですが、個人的に心にしみたのは、ブラウン夫人の言葉。

実は彼女は若い頃、ドーバー海峡を泳いで渡り、記録を作ったほどの勇敢な女性なのですが、実はその時、ブラウン夫人に泳ぎの手ほどきをしたのが、マイの亡き父親。そのことを打ち明けた後、こう言います。

「その時の賞金を、今度はあなたがレースに出るための参加料として使えばいいわ。でも、この競馬レースが終わったら、今度はまた別のことに移るの。人生はフルコースよ。一つのことが終わったら、また別の出来事があなたを待っている」

確かに、その通りです。ブラウン夫人を演じた女優(何せ、昔の映画だから)が誰か知らないのですが、この人もリズの花咲ける美少女ぶりに負けない、味わいのある容姿。長く、印象に残っています。


今日から、葉月

2021-08-01 10:35:17 | ある日の日記

毎日、あぶられるように暑い――上の写真は、関西の親戚から送ってきた、「生茶ゼリー」。いつも、とってもおいしくいただいています。

関西と言えば、おとついTVで京都の芸妓「紗月」さんの日常を追う、ドキュメンタリーがあって興味深く見た。祇園の世界って、ほとんど知らないから好奇心が湧くし。

祇園という世界は、地域的には狭いのに、各界の名士が交流し世の中の裏側まで知ることができるような、独特の場所。そんな場所で、舞妓や芸妓として、芸を磨きつつ生きていくのは大変なことであるはずで、自ら志願して身を投じる人などあまりいないんじゃないかと思っていた。

ところが――舞妓さんになりたいとやって来る女の子たちは、多いのだ! これって、別の意味での裏宝塚なのか? しかし、多くが元芸妓さんだった「お母さん」のもとで、置屋で暮す修行の日々は大変だということが画面からも伝わってくる。 生粋の京都人でなくても、はんなりとした京都弁を喋るよう訓練させられるし、紅場学院という学校で積む、琴や舞いの勉強も大変なもの。

興味深かったのは、彼女たちのお化粧の仕方。白いどろりとした化粧下地を、大きな刷毛のようなもので首筋まですーっと塗ってゆく。こうしたら、襟足が長くみえるんだとか。そして、眉は赤く塗った後、さらに黒い筆で塗る―‐こうしたら、優しい表情が出るそう。 目尻のきわにも、赤い線を引いて、目を大きく見せる工夫をするんだそうな。でも、これって、ほとんど歌舞伎のメーキャップと同じなのじゃない?

番組が追う「紗月」さんは、舞妓時代に祇園にやって来て、今二十六歳になる芸妓さん。しかし、「関西のはんなりとした雰囲気」を見事体現する、いい顔をした若い女性である――祇園でも人気ナンバーワンの芸妓なのだろうけれど、これからも祇園を背負って立つ存在となるのだろうな。

そして、彼女たちの着る着物の美しさにもため息。お座敷にしつらえられた料理の並べ方、器、季節のあしらい。そして、舞妓たちの踊る舞まで、すべてが雅な洗練の極みに達していて、「こんな世界があるのか」と目が開かれてしまった。

今まで、京都へ遊びに行った時など、街中で舞妓さんたちを見かけることはしばしばあったものの、伝統文化の一部という認識だけで、深く考えてみることもなかった。しかし、この華やかで、どこか閉じた感じのする世界――それは、やっぱり深い魅力を持っている。

 

      

生ケーキもたくさん頂いた。美味しいです。写真では🍓イチゴの色あいが黒ずんでいて、いいように撮れなかったけれど、クリームもスポンジもふわふわして口福のひととき。

でも、この酷暑を断ち切るためには、夕方ひんやりとした雨が降ってほしいものでごわす。