「タイタニック」の鮮烈なヒロイン像が、忘れ難いケイト・ウィンスレット主演の歴史ドラマ。
かの輝しき太陽王ルイ14世の治世時代――王の一声で、ヴェルサイユに壮麗な宮殿が造営されることに。その時、庭園づくりを命ぜられたのが、造園家ル・ノートル。 彼は、王の期待にこたえ、後世の時代にも讃美されてやまない、名園をつくりあげることとなるのだが、ここに知られざるエピソードが…というのが、この物語。
ヴェルサイユ宮殿の窓からも、望むことができる広大なフランス式庭園。その幾何学的図形を思わせる、整然とした庭の一角には、円形の噴水で縁取られた場所があり、ここだけはル・ノートルの手によるものではなく、サビーヌという無名の女性庭師が作りあげたもの。 この時代、女性として専門の仕事を持ち、天才ル・ノートルの信頼を勝ち得たサビーヌとは、一体どのような人だったのか?
彼女についての資料はほとんど残っていないそうだから、彼女とル・ノートルとの間に、ロマンスが芽生えたとする、本作のストーリーも、あくまで想像力の産物。でも、歴史上での「if」は、幾つあっても、楽しいし、このロマンス談だって、絶対なかったとはいいきれない。 私達観客は、華麗な宮殿や庭園の影にしまいこまれた夢を、漂ってゆけばよいのに違いない。
唸らせられるのは、ウィンスレットの演技の上手さ! 彼女はドイツの作家ベルンハルト・シュリンクの世界的ベストセラー作「朗読者」の映画版のヒロインも演じていて、元アウシュビッツの女看守であり、文盲である身を隠して、一人の少年(これが、後に彼女を裁く検事側として、法廷で再会する)と情を交わし合う薄幸の女性を見事に浮かびあがらせていたのだが、この「ヴェルサイユ…」でも、瞠目するしかない、名演ぶりなのだ。
そして、映像の美しさも特筆もの。フランスの栄華が咲き誇り、その芳香が遠い国々までを魅していた時代の絢爛たる色彩や美が、スクリーンに溢れかえっていて、普段、ロココやヴェルサイユ王朝などに興味のない私まで、うっとりしそうなほど。
ルイ14世という、巨大な君主像の実像も、魅力的に描かれていて、はじめて、このあまりに有名な王のことをほとんど知らなかったことに気づいた。
「太陽王」という異名も、その権力の大きさを物語るだけでなく、少年時代、バレエを踊り、その時「太陽神アポロン」に扮したというエピソードからくるのだということや(それにしても、王がバレエダンサーにもなるだなんて!)、双子の兄弟がいて、そのかたわれは一生仮面をつけたまま、「鉄仮面」として孤島に幽閉されていた、という奇怪な噂まで、ルイ14世はなかなか面白き王なのである。
物語の最後、ル・ノートルとサビーヌは、ひそやかに庭園を去り、後に残った王とおつきの者たちは、円形の舞台の上で踊る。いや、王は彫刻のように佇み、人々が彼のまわりで輪舞を繰り拡げるのだが、その情景がカメラから遠ざかるにつれ、ヴェルサイユの全貌が広がってくる。思うに、庭園とは、造園家の夢、権力者の夢が一つに溶けあった、素晴らしきイリュージョンなのかもしれない。