ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

メソポタミアの殺人

2013-10-29 09:26:08 | 本のレビュー

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今日の本は、アガサ・クリスティー著「メソポタミアの殺人」である。 中東を舞台にした作品群の中でも、最高傑作と言われる本著。

でも、私がこれを最初に読んだのは、小学校5年生の時。当時、英語を教えに来てくれた家庭教師の方に、この本をお貸しして、感想を話し合ったこともよく覚えている。 シリアの古代遺跡発掘現場を舞台に、1930年代の空気が色濃く流れ、エキゾチックな風物とオリエントのスパイスの匂いが漂ってきそうな、雰囲気に魅了されたことを、鮮やかに思い出す。

物語は、考古学者レイドナー博士に、恐怖と不安にかられている彼の妻、ルイーズの看護を頼まれた、看護婦エミリー・レザランの独白体で進んでゆく。 結局、ルイーズは殺されるのだが、彼女のもとには、前夫からの脅迫状が届けられていた。 ルイーズの前夫は、考古学隊員に身を変えていたのか? それともルイーズに恨みを抱く人間の仕業か?--といったことが考古学者たちの人間模様を中心に興味深く描かれるのだが、何といっても魅力的なのは、ルイーズの人間像。

素晴らしい美人で、比類ない魅力の持ち主・・・その半面、残酷な面を持ち、知的で、妖精のようであったという女性。登場人物の一人は、アンデルセンの童話「雪の女王」のような女性だったとルイーズのことを述懐するのだが、私にはこのレイドナー夫人の個性がつかみきれないまま。 でも、ルイーズ・レイドナーの人間像を描く、クリスティーの筆致は巧みである。

犯人は、夫のレイドナー博士であったことがわかるのだが、何と彼は、ルイーズの前夫でもあったというおそるべき真相が。 このことを、かつての家庭教師の方は、「犯人が、途中でわかっちゃった。 どこかに、それらしいヒントも書いてあったし。 でも、以前の夫だったって、普通はわかるよねえ」とコメントしていたけれど、確かに通常のミステリだとやや無理な展開かも。

けれど、それでも、この作品には素晴らしい味わいがあるのだ。 オリエントの地に咲く優雅な英国文化や、ルイーズ・レイドナーという女性のいわくいいがたい魅力・・・今は枯渇しつつあるけれど、小学生当時の私の空想力は、豊かに羽ばたいてくれて、砂色の異国の風景や、黄金の古代の装飾品、考古学者たちの宿舎のありさまを鮮やかに描いてくれたもの。

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