ノエルのブログ

シネマと海外文学、そしてお庭の話

明暗

2014-04-30 09:46:57 | 本のレビュー

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再読のもの。漱石の未完の遺作である「明暗」。

ずいぶん長い小説で、心理描写も執拗に描かれているのだが、それをものともしない面白さ。主人公の津田という男は、三十歳の会社員であるのだが、利己的で、贅沢で、少なからず卑怯なところもある、小説の主人公とするには、「ちょっと・・・」という人物。 彼の妻、お延も、賢い女といえばいえるものの、虚栄心やエゴイスムをあわせもった、津田と似たり寄ったりの人間像。 この二人に、親戚や会社の上司といった人間関係のしがらみが、容赦なく描かれるのだが、「金銭」に関することがこまかに描かれているのは、漱石の作品の特徴といえるかも。

なにせ、「道草」でも、主人公の養父が彼に、金をせびりにくるさまが、興味深くも、リアリズム満点の凄さで書かれているのである。 友人に貸したお金の金額なども、こまかにノートに記していたという漱石らしい一面かも? 文豪は、意外に金銭面にきっちりしていたのかな。

冒頭、痔の手術をした津田は、病院に入院し、そこに入れ替わり、立ち替わり、人々が出入りするのだが、昔の人たちの親戚関係というのは、ため息をつきたくなるようなうっとうしさである。 「うっとうしい」というのは、今の感覚からすることで、百年くらい前の日本の人たちは、こうした濃密な近縁関係を大切にし、それにどっぷりつかって生きることが、当たり前だったのかもしれない。 でも、津田もお延も実の両親ではなく、叔父夫婦に育てられており、それが互いに行き来があり、さらに津田の上司吉川夫妻も、お延の叔父と懇意、津田とお延の両親も、知り合いというのは、世間が狭いというか何というか・・・。

面白かったのは、津田の友人(?)小林の存在。「僕は、誰からも軽蔑されているんですよ」こう言い、自分を侮蔑しているはずの津田につきまとい、彼からお古のコートをせびったりする。「これで、この冬も生きていられるよ、ありがたいね」--この小林という人物、都落ちする自分に送別会がわりに、レストランでご馳走する津田からもらった餞別金を、居合わせた自分よりもっと貧しい友人に、津田の目の前でくれたやったりするのだが、あつかましさ・憎々しさもここまでくると、あっぱれという外ない。 

津田とお延の夫婦関係が、似た者同士でありながら、今一つしっくりいかないのは、津田が結婚前の恋人清子の存在を隠しているためである。 ようやく退院した津田は、吉川夫人の指図(謀ごと?)で、とある温泉に向かうのだけれど(ここに、清子がいて、彼は彼女に会うよう夫人からもちかけられるのだ)、小説の終わり近くに描かれる、この温泉宿の描写が素晴らしく魅力的! 津田は、浴場に案内された後、部屋に帰るのに迷ってしまうのだが、幾段にも続く梯子段や廊下、傾斜地に複雑な形状で作られた宿は、幻想的ですらある。廊下に置かれた水飲み場では、琺瑯のタライが4つ置かれていて、そこにずっと水が注ぎ続けているのだが、こうした細部の描写も、どこか非現実な美しさを感じさせすらする。客のほとんどいない、山中の温泉宿は、夢と現実のあわいに存在しているのかもしれない。 

ようやく会えた、清子。津田と彼女の再会から、ようやく何かの秘密が顕れそうになったところで、「明暗」は終わる--漱石亡き後、その結末を知る者は誰もいない。

この小説だけでなく、漱石の作品はほとんどが「三角関係」をモチィーフとしたもの。 鴎外などと違って、恋愛関係のエピソードはあまり聞かない漱石なのに、こうした主題の反復はどうしたことかしら? これも、「明暗」の結末と同時に、文豪の永遠の秘密となってしまった。


初夏に向けて・・・

2014-04-27 10:32:52 | ガーデニング

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これは、ノエルハーブガーデンでなく、日本庭に咲いていた牡丹(今は、花が終わって散ってしまいました)。母の実家からずっと昔、持ち帰った花であります。 

座敷の前の廊下を歩くと、硝子窓の向こうから、あでやかな笑顔を見せてくれていた牡丹。大きく華麗な姿といい、西洋の薔薇に匹敵する東洋一の美女なのではないかと、思いますが、その姿を拝見できるのも、あっという間。「花の命は短くて・・・」のことわざ通り。

この花が咲いているのは、昔あった池を埋めた場所。ずーっと昔、わたしがまだ子供だった頃、小さくはない池があって、鯉が泳いでいたなあ--。その池をほんのときたま掃除して、底を柄のついたブラシでこすったり、鯉が隠れたり眠ったりしていた岩屋みたいな場所をのぞきこむのも、楽しかった覚えがあります。 何より、色鮮やかな鯉が涼しげに、水の中を行き来するさまを見るのは、面白い! ものです。

でも、一度池の間を渡している木の板(ちょっとした橋がわり)から落っこちて、池の中にドボーンとなったことも・・・。 しかし、それも懐かしい思い出ですね。

閑話休題。長く脱線してしまいましたが、ガーデニングのお話。

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こちらは、ノエルハーブガーデンの牡丹。いままだ咲いています。日照時間の関係かどうか、日本庭より、咲く時期が少し遅いのです。ガーデンの方が、同じ牡丹でも、ちょっとつつましやかに見えるのは、気のせい?

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ノエルハーブガーデンでも、雪柳、水仙、ムスカリといったものが咲き散ってしまった代わり、ハナミズキ、モッコウ薔薇、クリスマスローズ、スミレ、スノーフレークなどが咲き、ワイルドストロベリー、ボリジ、矢車草などたちが開花の用意をととのえている様子。

 

5月の母の日に、スコップやガーデン用手袋、ジョウロなどをプレゼントするつもりなのですが、お庭がもっと素敵になればいいな。

 

P.S  あまり知られていないことかもしれませんが、草取りって、なかなか面白いものなのです。無心に、雑草を取っていると、煩悩が消失する、とまではいいませんが、ストレス解消にいいかも?


キャプチャー認証

2014-04-24 10:08:06 | ガーデニング

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くるみ物語

2014-04-23 16:46:28 | 健康・病気

昨日のTV「みんなの家庭の医学」で見たのだけれど、くるみには凄いパワーがあるそう。

この木の実を食べると、血管が若返り、動脈硬化予防になるそう。悪玉コレステロールを下げるなどいいことずくめ。 私より少し年上の44歳女性が、物ごころつく頃から、ずーっとくるみを食べ続け、血管年齢はなんと二十歳! 

そして、このくるみも一日7個がベストの摂取量であるのだそう。 ただ、ボリュームがありすぎて、そのまま食べるのはきつい。そこでお料理研究家の先生がくるみ料理のレシピを、披露してくださっています。 これを一週間試し続けた、メタボ気味の男性は、血管年齢が十歳近くも若返っているという、結果に! う~ん、くるみ、恐るべし・・・。

これはいいこと聞いたとばかりに、今日デパートに行く用があったので、ナッツ売り場に駆けつけたところ、くるみの棚がすでにカラ(殻ではありません。空です)。

売り場の女の子に聞くと、「今日は、くるみがどんどん売れちゃって、ないんです~」なのだそう。 う~む、皆さん、健康番組をチェックしてらっしゃるのですね。スゴイ・・・。 でも、毎日が平和に過ごせるのも、食事が美味しいのも、綺麗なものを見て、素直に感動できるのも、自分の意のままに動いてくれる体があってこそ。 養生とは、自分をいたわり、人をいたわることにつながっていくのだと思います。


光らない・・・

2014-04-21 19:10:19 | カリグラフィー+写本装飾

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フランドル様式の飾り文字です。赤や青のガッシュで彩色した文字の周囲は金泥・・・のはずなのですが、筆を金泥の中ですくい上げるこつが分からず、金とも思えない暗く鈍い色調にしあがっております(涙)--。

文字の中に描かれているのは、スミレとアイリスのお花。 花が添えられているだけで、文字が可愛く見えるような気がして、こういう技法、好きです。

う~ん、でもまだまだ下手。もっとうまくなりたいな。


伝言板

2014-04-20 12:17:16 | アート・文化

来月1日~3日開催する予定だったギャラリーですが、都合のため休止せざるを得なくなってしまいました。

いつも来て下さるお客様、遠くから訪れて下さるお客様もいますのに、本当に申し訳ありません。 どうぞ、お許しください。

 アトリエ・ドゥ・ノエル


ガルシア・マルケスによせて

2014-04-19 06:50:41 | 本のレビュー

ガルシア・マルケスが17日、亡くなった。 「百年の孤独」などの作品で知られる南米コロンビアのノーベル賞作家である。

認知症を患い、執筆することもなくなったなど、健康状態が悪化していたのは知っていたのだが、「あのマルケスがとうとう・・・」と思うと何ともいえない空白が、心にきざしてしまう。

彼は、単にノーベル賞作家というだけでなく、その重要度、読者数の多さ、世界文学に果たした影響力の大きさからして、アメリカのヘミングウェイに匹敵する大作家だったと思う。私も若い頃、彼の作品を幾つも読み、本棚には「百年の孤独」はもとより、「予告された殺人の記録」「コレラの時代の愛」など数冊の作品がある。そして、読む時はまあまあ面白くても、読んだ後は忘れてしまい、内容など霧の中へ・・・という作品・作家が圧倒的なのに、マルケスの作品は読後長い時間がたってもくっきり、思い出される。

そして、物語が素晴らしく面白い! 上品で格調高いけれど、面白さはいまいちなどというものでなく、南米の奔放さ・猥雑が作品からみなぎり、カーニバルのごとき祝祭を思わせるのだ。 「百年の孤独」は、ある一族の百年の歴史を物語る壮大なスケールもさることながら、最後叔母・甥の禁じられた結びつきが生まれた途端、架空の町、マコンドがそっくり消滅してしまうという、衝撃的・鮮やかな幕切れ--、今も脳裏に焼き付いている。

でも、私が一番好きなのは「コレラの時代の愛」。一度は婚約までしながら、彼女の心変わりによって破綻したはずの愛を、ずっと感じ続け、彼女を追い続ける一人の男。 やがて歳月は流れ、彼女も孫までいる女性になっているのだが、その夫が死に、男ももう一度、彼女の愛を取り戻すことができる――これも最後、二人がアマゾン川に船旅に行くシーンがくっきり印象に残っている。

その奔放な想像力、魔術を思わせるストーリーテラーぶりで、世界の読者を魅了したマルケス。私も、その南米の熱気やむせるような灼熱の空気を、もう一度深く味わってみたいと思う。


季節の食卓

2014-04-16 19:30:56 | ある日の日記

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ご近所の方から頂いた山菜・・・何だかおわかりになりますか? そう、別名「山菜の女王」とも呼ばれるコシノアブラであります。

ああ、すごくうれしい。さっそく、今夜の夕ご飯はコシノアブラの天婦羅に決まり!

他のメニューは、栗原はるみさんのレシピで、私も重宝している「豚肉の梅肉蒸し」、「ホウレンソウともやしの帽子のっけ」(ここでいう、帽子とは、丸く焼いた卵焼きのことです)。

料理がにぎやかに並んだ食卓--コシノアブラは本当に絶品でありました。一年のこの時期にしか会えない味覚・・・山のいのちを、そのまま頂いているような感動があります。 旬のものをシンプルな調理法で、頂くのが醍醐味。


21世紀の空海

2014-04-15 13:00:24 | 社会・経済

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今朝の新聞に、一面をまるごと使って、高村薫のルポルタージュ記事が! 「21世紀の空海」と題された記事は、作家が「空海ゆかりの地や東日本大震災の被災地を僧侶たちと歩き、空海の実像に迫り、日本の祈りを描く」という趣旨のもので、これからも続けられるらしい。

それにしても、震災の跡地を自身の目で見て歩き、歴史上最大の宗教者と結びつけて、思索を巡らすなど、さすがは高村薫! 尊敬し、その見識と人生観に深い信頼を寄せられる作家を持つということは、本当に幸せなことである。

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被災地には、今も荒涼たる光景が広がっているという。 放射能がまきちらされているはずの福島の地を、恐れることなく歩き、寺院を訪れる作家。 紙面には、一枚の感動的な写真が大写しで写しだされている。 道端に設けられた慰霊台とその横に立ち尽くす高村薫--吹き付ける冷たい風が感じられるばかりに、コートの前をかきあわせ、かすかに眉をひそめる表情・・・ここには、深く心を打つものがある。 作家の内面が、不意にむき出しにされた決定的な瞬間といえばいいのか・・・。

岩手県の仮設住宅には、山伏が法螺貝を吹き、僧侶たちがお経をあげる。どんな状況にあっても、信仰は慰めとなり、民衆には祈るしか手立てがないのかもしれない。

日本史上に、高峰のようにそびえたつ空海。密教思想を日本に紹介し、高野山に寺院を開き、さまざまな「弘法大師」伝説をも生んだ。彼が、この被災地の惨状を見たら、何と言ったであろう?


ある日の日記より

2014-04-14 16:23:31 | ある日の日記

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忙しく、本を読む暇もない。疲れが続いていて、ベッドで一時間以上午睡をとったりする。

でも、今日は特別予定なし。朝、ノエルの散歩に行き、キッチンやお風呂、部屋の掃除。その後のランチはこれ。 かぼちゃとハムのピラフとベビーリーフのサラダ、キーウィという簡単メニュー。 チキンスープで 、お米とかぼちゃ、みじん切りの玉葱、ハムを鍋の中で蒸してできあがりというのだけど、柔らかく、カボチャの甘みも出てるのだ。

疲れているけど、今晩はカリグラフィーの練習をしよう。そして、何か物語も書きたい。