2007年7月20日のブログ記事一覧-ミューズの日記
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<あれも聴きたい、これも聴きたい> 「いい音」のするステレオ?その1

富士通テンのタイムドメインスピーカーを使ったギターのPA(SR)システムをやっている関係上、最近いろいろな方が拙宅にお越しになりますが、そこでクラシックギターのCDをかけてみると、まず必ずといってよいほど「このスピーカー、いい音しますねえ」という感想を口にされます。どこででも聞かれる会話ですから、聞き流したらなんてことはないんですが、ちょっと待ってほしい。問題はその後です。

今度はスピーカーを前にしてリスニングポジションに座った途端、皆必ずといってよいほど、一様に「あれ?スピーカーから音が聴こえないですね」とおっしゃいます。ギターのソロは当然音源がひとつだから、前に置いた二つのスピーカーの少し後方の空間から音が聞こえてくるのは至極当然。こちらとしては当たり前。むしろひとつのギターの音が両側のスピーカーから聴こえてくる方が、それこそおかしいことと思っています。
でもそれらお越しになった方々は、皆二つのスピーカーから音が聞こえないことが不思議でならないようです。訊いてみると、その方達が考えておられる「いい音のするスピーカー」というのは、どうも「生のギターの音かと思えるような音」がスピーカーから聞こえてくるもののことを言っておられるようなんですね。

しかし、そうだとすると1本のギターの音を再生するには1本のスピーカーでよいことになるわけですが、そうなるとそれはステレオではなくモノラル再生ということになってしまいます。ギターの生の音がスピーカーそのものから聞こえてくるのがステレオだとすると、例えばギターの2重奏のCDをかけた時、左のスピーカーから第1ギターの音が、右のスピーカーから第2ギターの音が聞こえてくることになり、そうなってくると10人で合奏して録音したCDを再生しようとしたら10本のスピーカーが要ることになってしまう。極端ですが100人のオーケストラのCDを再生するには100本のスピーカーが必要になり(当然のことですが、100人の演奏者全てにマイクを立てて録音をしなくてはいけなくなる)、これではいくらなんでもおかしいことに気が付くはず。

ステレオというものは、録音された楽器の音をスピーカーからそのまま聴かせるのではなくて、録音された時のマイクから楽器までの距離、演奏者から発せられた音が反響する左右の壁、天井までの距離、つまりその部屋の広さ、そしてマイクから見て演奏者達の前後左右の位置関係を立体的に表現してやろうというものなのです。つまりステレオというのは、音で空間を表現するというか、そんな音場感といったものを自分の部屋に再現するものなのです。ちょっと極端なことを言わせてもらえば、4畳半の部屋で聴いているのに、あたかもシンフォニーホールで聴いているような空間を感じられるようにするのがステレオというものなのです。そしてそのためには、少なくとも最低2つのスピーカーが必要になるということなのです。決して楽器の音をスピーカーそのものから出そうというのとは違います。
しかし現在一般的なステレオ装置に採用されているスピーカーは、それがなかなか難しく、どうしても左右のスピーカーから音が聞えてしまうものですから、さきほど言った「このスピーカー、いい音しますねえ」などという勘違いが起きてくることになる。

続く・・・

内生蔵 幹(うちうぞう みき)


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