2007年4月8日のブログ記事一覧-ミューズの日記
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<あれも聴きたい、これも聴きたい> またまたアンヘル・ロメロ

 先回ご紹介したアンヘル・ロメロの「ゴヤの美女」と題したLPの他に、同時に発売されたもう一枚がこれ、「魔笛の主題による変奏曲」と題されたLP。当時一度に2枚も発売されたので、小遣いの少ない時分のこととて、えらい出費を強いられて迷惑してしまったが、それでもお昼ご飯をインスタントラーメンにして頑張って買ってきた。まず曲目をご紹介すると、
① ファンタジア(ムダラ)
② ガリアルダ(ムダラ)
③ “牝牛の番をして”による変奏曲(ナルバエス)
④ 大序曲 作品61(ジュリアーニ)
⑤ ソナタ ニ長調 L.483
⑥ ソナタ イ短調 L.423
⑦ ソナタ イ長調 L.83
⑧ ソナタ ホ短調 L.352 以上(D.スカルラッティ)
⑨ 魔笛の主題による変奏曲 作品9(ソル)
⑩ スペイン組曲(サンス)

16世紀半ばのムダラ、ナルバエスなどビゥエラの音楽から、19世紀初頭のジュリアーニ、ソルまでと、ほぼ300年に渡る音楽が収められているこのレコード。この前も言ったようにアンヘル・ロメロさんの演奏はまったくもって時代考証そっちのけ。「ボクちゃんなんかこうやって弾くんだもーん!」とばかりまさにやりたい放題弾きまくっておる。映画に例えたら時代劇の俳優が腕時計をはめて平気で画面に登場してきたみたいな感じっちゅうたらええのか。たしかにゲージツなんて何でもありだとは思うけども、ここまで好きにされるとこちらとしちゃあちょっと引いてしまわざるをえない。このあたりがジュリアン・ブリームと違うところじゃねぇかなあ。ジュリアン・ブリームは確かに何でもありだったけども、その音楽にはとにかく感動させられた。少なくとも彼の弾くリュートには、こちらがリュートのことをまったく知らなかったころとはいえ、「ああ、リュートってこんな感じだったんかぁ」と興味津々、ちょっとやってみたくもなったものだった。おそらく世界中ブリームの弾くリュートに感化されて古楽器を始めた人も多いのではないかと思われる。ギターにしたってブリームの弾くギターにはなんだかとっても説得力があったし、バロックにしても古典にしても「こうやって弾くのが正解なんでねえべが」というような何か迫るものがあった。

ところがこのアンヘル・ロメロの弾くこれらの名曲はどうもどっか違う。例のごとくものすごいテクニックで最初から弾きまくる。ルネッサンス時代の音楽なんだからもう少し「みやび」に弾いた方がええんでねぇの?」と思うけども、そんなことはお構いなし。リストの超絶技巧のように弾きまくる。次のジュリアーニなんぞは弾きまっくってもいいのかもしれないが、それにしてもなんかしっくりこない。ソルの魔笛にしたところで、「古典」の香りがまったくしないし、しかも変奏の順序を勝手に(?)変更してしまって、なんとも納得しづらいこと夥しい。最後のサンスの曲を集めて作った「スペイン組曲」(イエペスの弾いているものとほとんど同じ)もアンヘルさんにかかったら「なんでわしがこんな簡単な曲弾かなあかんのじゃ!」とでも言っているかのようにテクニックが余ってしまって、まるで音が足らないように聞える。これはまったく私個人の好みの問題ですが、まだかろうじてスカルラッティがそれらしく聞える。というかそんなに違和感なく聴ける。

こんなことを書いていると、「アンヘル・ロメロさんの演奏のどこがええの?」と言われそうな気がするが、そこはほれ、なんじゃそのぉ、ええー早い話がなんだがね、あのぉ、えーと、えーと・・・・。とにかくものすごいテクニックをもっていることは分かるし、一種の爽快感もある。でも私にとってこのころのアンヘルさんはやはりなにか物足らないのも確かだわ。偉そうなことを言わしてもらえば「あんた、ちょっと修行が足りんね」っちゅうようなところかも知れない。まだまだ若―い若―いころだけにいたし方がないのかもしれません。それにしてもここに聴かれるアンヘル・ロメロの輝かしいテクニックは、それだけで充分価値のあることだと思うし、目の前でこれをやられたら恐らくロメロメロ、いやメロメロになっちまうんではねえべがっちゅう気がいたしまする。

サインス・デ・ラ・マーサもセゴヴィアもイエペスも亡くなり、ブリームさんも引退してしまった今、以前のような強烈な個性をもったギタリストがほとんどいなくなってしまったように見えるなか、アンヘル・ロメロのようにワンフレーズ聴いただけで判別できるほどの個性をもったギタリストは稀なように感じます。そういった意味でも私としてはどうしても嫌いになれないギタリストといったらええべが。
このあと何枚かの演奏がレコードやCDに収められて出されておりますが、やはり年を追うごとに円熟というものを感じさせてくれているところをみると、当のアンヘルさんもきっと「ああ、このときはオラも若かっただすなぁ」と言われるんではねえべがと思いまするが、なにせアンヘルさんも今年61歳。円熟しまくっておるんではねえべがと推察されますので、来日してどんな演奏が聴けるのか、どえりゃぁ楽しみでなりませぬ。円熟した音楽性に加え、例のものすごいテクニックでロメロメロ、いや失礼。メロメロにしてちょうだい!
内生蔵 幹(うちうぞう みき)


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