2006年8月13日のブログ記事一覧-ミューズの日記
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<あれも聴きたい、これも聴きたい> ブリームさんのレコード2枚目

 いかにも古めかしいジャケット写真でしょ。しかも30cmLP。
当然若き日の現役バリバリ、まさにこれからの活躍が目覚しいジュリアン・ブリーム30代の名演奏を収めたレコードでござりまする。
おいちゃんもこのレコードを何回聴いたやろか。おかげで今改めて聴き返してみると、このレコードの中でも一番よく聴いた曲なんか、強音のところに来ると、案の定音が割れてしまっておる。よっぽど擦り減ったレコード針で強引にかけまくってたんやろなあ。
その一番よくかけた曲というのは、B面のトップに入っているレノックス・バークレイ作曲の「小奏鳴曲 作品51」。
ここで皆さん、「あれっ?」と思いませんか?その「小奏鳴曲」ってなんや?
何か昔、学校の音楽の授業で習ったような習わなかったような。今では何だか押入れの中の埃っぽい臭いのするような名前だがや。「昭和」の臭いがするなあ。
ソナタのことを奏鳴曲と言ったんだっけなあ。だったら「小」が付いとるから小ソナタ?いや、ソナチネっちゅうんじゃねえか?
何も日本語に訳しようがねえもんまで、無理やり訳さんでもええと思うけども。「奏でて鳴く曲」あるいは「鳴いて奏でる曲」たあどういうこっちゃ。何でこんな訳がついたのか知っとる人がおったら教えてもらいてえもんだ。
これに比べりゃあ、ノクターンの夜想曲、ワルツの円舞曲なんざぁ、結構訳としちゃぁいけとる方だわね。

ともかく、ブリームさんの快演を収めたこのレコード。内容を順に挙げると、まずフレスコバルディのアリア「ラ・フレスコバルダ」。要するに「アリアと変奏」。次に続くはマテオ・アルベニス作曲の「奏鳴曲」、ドメニコ・スカルラッティの「奏鳴曲」2曲。そしてドメニコ・チマローザのやはり「奏鳴曲」2曲。ここまでがA面。17世紀のバロックから始まって18世紀までの曲ばかり計6曲。
次にB面はというと、先ほど言ったレノックス・バークレイの「小奏鳴曲」、2曲目はご存知ロドリーゴ作曲、イエペスに献呈された「小麦畑で」。そしてブリーム自ら編曲したモーリス・ラベルの「死せる王女のためのパバーヌ」。最後はアルベール・ルーセルが作曲しセゴヴィアに献呈したという、その名も「セゴヴィア」以上4曲。
A面と違ってまったくの20世紀の音楽ばっかし。
そこでよーくこのレコードを見てみるとわかるように19世紀の音楽がそっくり抜けておる。A面のチマローザは1831年まで生きているから19世紀に入っているって言やぁそうだけんど、生まれが1755年(頃)なので、どっちか言えば18世紀の作曲家だんべ。そしてB面のルーセルが1869年の生まれだども、こりゃあどっちか言やぁ20世紀初頭の作曲家という認識が強い。第一曲を献呈されたセゴヴィアの活躍は大半が20世紀だわ。
従って音楽の様式から言えば、このブリームさんのレコードには、古典派とロマン派の音楽がそっくり抜け落ちてしまっておる。しかもレコードのタイトルは「ジュリアン・ブリームの芸術」とあるのにもかかわらず。
ブリームさんは古典やロマンにゃぁ興味がなかったんかぁ?と思いたくなるような選挙区、いや選曲のレコードっちゅうことになるわ。

普通、音楽の世界で古典とロマンを除いちまったら、ぜんざいから御餅を抜いたというか、ひょっとしたらお汁粉から小豆を抜いたのに匹敵するくらいのおおごとになっちまわへんか?(そんなことねえか)
とにかくモーツァルトもベートーベンもブラームスもシューベルトもシューマンもショパンもベルリオーズもなーんにもねえことになっちまう。そんなことになったらおめえ、困っちまうべな。

でもこのブリームさんのレコード、演奏はもの凄く良くて、ほとんど非の打ちどころがねえっちゅうか、決まり過ぎぐらい決まり過ぎとるっちゅうか。とにかくものすごぉかっこえがった。
おいちゃんたちゃぁ全ての曲をお手本にしたし、このレコードでバークレイという作曲家を知り、ルーセルがギター曲を書いたのを教えられ、ロドリーゴにも「ギター独奏曲があるんだわん」ということを知ったのでござりました。
今日全部聴き返してみたけども、やはり非の打ちどころがないことには変わりがなく、颯爽とした若きブリームさんがそこにはおりました。ブリームさんのそれからの活躍をうかがわせるひらめきがあったんだわなあ。
それまでのセゴヴィアを筆頭とするギタリスト達が示してきたものとはまったく異なる20世紀のギター音楽の在り方を、抜群のテクニックと感性で指し示しておったのでおじゃりまする。
おいちゃんたち当時の若きゃあモンはこれを目指しちまったんだわなぁ。
おかげでずーと後になって、同じブリームさんがジュリアーニのロッシニアーヌとソルの長大なソナタを入れたレコードを出すまで、ほとんどだーれも古典とロマン派のギター曲は弾かんかったなぁ。せいぜいソルの魔笛、タレガのアルハンブラくれぇじゃねえかぁ?
アグアドもコストもメルツもレニアーニもほとんど聴いたことがなかった。
当時はみんな揃って、ちょっとブリームさんにかぶれとったんかもしれんなあ。
ジョン・ウィリアムスなんか、いまだにコストやメルツなんて聴いたことねえずら。
ジョンの弾くコストの「練習曲集」や「秋の木の葉」、メルツの「吟遊詩人の調べ」なんぞ、結構ええと思うけどなぁ。

内生蔵 幹(うちうぞう みき)


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