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アイドルソング分析シリーズ1

2011-07-15 22:07:00 | コラム的な何か
アイドルソングは80年代以降、度々冬の時代を迎えながらも、日本の音楽シーンを考えるうえで非常に重要な地位を占めてきた。

ジャニーズにしても、他のアイドルにしても、楽曲の提供者は多くの場合一流であった。

演者は必ずしも一流のパフォーマンスではなく、そのほころびが「日本的かわいい」を構成してきた。

しかし最近では加工技術の発達はもちろん、アイドルの歌唱力もずいぶん上がり、単なるほころびはもはや「かわいい」ではなくなっている。

アイドル冬の時代を打破して登場したパヒュームは歌も踊りも実際うまい。

それだけではなく、現在のアイドルソングはどれも複雑な意匠が凝らされている。

アイドルソングというだけではその楽曲の価値は決定できない。

このようにアイドルソングは分析すると色々出てくる興味深い領域となっている。

そこで何回かに分けて、最近気になった楽曲をいくつかピックアップして考察を深めたいと思う。



今回はまずSUPER☆GIRLSの「MAX!乙女心」を取り上げたい。




サンバとハウスの中間のようなサマーソングである。

こうしたサンバ+ハウス調のサマーソングと言えば、筆者はSMAPの「BANG BANG バカンス」を思い出してしまう。

「BANG BANG バカンス」の作曲者コモリタミノルの楽曲をたどると、古くはおにゃん子の「赤道探検隊」に行きつく。

80年代末に発表されたこの楽曲はサンバ調のサマーソングだったが、これは明らかに「BANG BANG バカンス」の源流だった。

若干端折るが、このようにサンバ+ハウス調サマーソングは日本のアイドルソングの系譜として存在している。

「MAX!乙女心」の作曲者は松田純一だが、過去にこうした楽曲を作ったかどうかは分からなかった(彼は僕とほぼ同世代で、実はまだ非常に若い)。

ただ、今のところ言えるのは、上記のようなサンバ+ハウス調のアイドル・サマーソングの系譜にこれも位置づけられるのではないかということである。



結論から言って、この曲はとてもクオリティが高い。

ビートが曲の最初から最後まで緩急をつけながらもしっかり生きている。ノリが本当に良い。

コード進行も上手に展開する。Aメロはせつなげなコード進行にペンタトニックっぽいメロディ。そこで聴き手をぐっとつかまえる。

Bメロで徐々に調子をあげ、Bメロの最後をVIのメジャーで終始。それを梃子にサビから二度上に転調。きれいにおしゃれに盛り上がる。

その上に非常に分かりやすいメロディを乗せ、最後の最後でそれまでのノリノリのビートを崩して、変則的な三本締めのようなリズムで〆。この奇妙な展開が絶妙だ。インパクトがあるだけでなく、完成された楽曲という印象をくずし、妙な幼さが醸し出される。非常にアイドルチックなのだ。



アレンジもとても上手だ。

アイドルソングの場合のひとつの常套手段なのだと思うのだが、Aメロ、Bメロはキラキラの飾りを沢山つけた、やや複雑なアレンジにしておいて、サビで一気に単純し強烈なインパクトを出す。これがこの曲ではとても上手くいっている。裏の展開が巧み。

もうのひとつのアレンジの妙がコーラス&合いの手の付け方だ。これが非常にかわいい。意匠が凝らされている。この曲は日本のアイドルの評価基準のひとつである「かわいらしさ」を非常によく理解している。



歌詞は意味不明に近いが、語呂が非常に良い。これが良く出来たビートにうまく乗っている。



発声のことについて最後に触れておきたいが、この曲はいわゆるソウル系の発声でもなければ、ロック系の発声でも歌えない。

ノドを意図的に絞めて、いわゆるロリ声を意図的に出すアイドル的というか、ある意味で声優的な発声が要請される。

別の回でも触れる予定の「ももいろクローバーZ」というグループも、こうした発声がしばしば見られる。

これまでポップスはある種、一元的な「うまい発声」が暗黙の基準になってきた。

「アイドルにしてはうまい」「下手でかわいい」という一種の二分法のもとで評価がなされてきた。

ところが、近年のアイドルの発声は単に「うまい」かどうかではなく、「かわいい」が技術的に評価可能になりつつあるのではなかと私は感じている。

すなわち、これはひとつの歌唱方法として徐々に確立されつつあるのかもしれないと思うのである(良し悪しは別にして社会的要請として)。

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