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最終口頭面接試験顛末記(イギリス生活事件簿、たぶん最終回)

2013-05-15 07:45:05 | イギリス生活事件簿
長きに渡って執筆されてきたイギリス生活事件簿であるが、これが事実上の最終回となる。と思う。

本日午後、遂に博士課程の最終口頭面接試験が終わったのだから。



イギリスに入ったのが金曜日の午後で、そこから今日まで色々あった。

そもそもイギリス渡航準備で少し揉めた。

チケットをとり、宿を予約したところまでは良かったのだが、大学から突如メールが来て、「student visitor visaちゃんと取ってね!」との連絡。

ビザにアレルギー反応のある私はパニックに陥り、大学の担当者に「もうだめだ。知るのが遅すぎた。・・・」と愚痴をメールする始末。

しかし、そうしたメールに慣れている大学の担当者は、丁寧に私に必要事項をメールしてくれて、同時にビザレターの発行の手続きまで進めてくれたのであった。

冷静さを取り戻した私は、彼に丁寧に感謝の言葉述べつつ、必要書類の準備を一気に進めた。

それでもビザは曲者で、取れるかどうかはやってみないと分からない。

今回のビザは、短期だからイギリスの空港で取得可能ということで、とにかく運を天に任せて渡航することに。



渡航前の数日の私のテンションの低さときたら。

しかし、ありがたいことに始めたばかりの大学での授業が私を救ってくれる。

大きな声で授業することで、びっくりするほどストレスが解消されるのである。

ああ、なんて素晴らしい。仕事に救われるなんて。

結果的にやたら気合いの入った授業になった。

生徒は毎週私のテンションが結構違うことに気が付いているだろうか?怖くて聞けない。



渡航当日、家族にも早起きしてもらい空港へ。

イギリスまでの長旅のなかで、映画「東京家族」と「レミゼ」と「ハーブ&ドロシー」を鑑賞。小説『スギハラ・サバイバル』も読了。

(「東京家族」が思いも寄らない相当なハードパンチ。橋爪功の演技がすごすぎる。ソフトな映画と見せかけて、かなり重い。レビューはまた今度。)

不安をとにかく紛らわせることに必死。

空港では審査に時間がかかることが予想されたため、急いで先頭に向かって入国審査。

そこで(私にとって)信じられないことが起こる。



私「最終口頭面接試験を受けに来ましたので、学生ビザをください。」

審査官「終わったら帰るんだよね?」

私「今週に審査があります。終わったら帰ります。」

審査官「はい、わかりました。」

ハンコをポン。

私「書類、見ないんですか?」

審査官「どこの大学だっけ?」

私「○○大学です。」

審査官「了解です。」

私「書類、見ないんですか?」(しつこい)

審査官「結構です。」



私が必死に集めた書類を一切見ない審査官。ウソだろ!時間とお金、結構かかってますよ!



いつものルートであの街へ。

4年前に使ったっきりのタクシーでB&Bへ。

TさんにホテルよりB&Bがおすすめ、と聞き、今回初めてB&Bを使うことにした。

B&Bは一戸建てをホテルのようにしたもので、実際のところ、シェアフラットをパワーアップさせたような感じだ。

朝食もしっかりつき、値段も手ごろで、普通に家の鍵を渡されるため、非常に使い勝手がいい。



翌日は良く晴れており、ショッピングを軽くする。バスで街中を走るだけで、沢山の思い出が去来する。

この街がいつの間にかとても好きになっていた。

それはここで出会った沢山の人たちのおかげだ。

その後、以前メールをくれた男子学生と食事。

初対面だったが気さくな青年で、非常に話が弾む。また会えるかな。

三日目は曇り。時差ボケで体調が少し悪い。早めに就寝。

四日目、時差ボケを受入れ、生活にリズムが出てきた。午前中に指導教官ふたりと模擬試験。感触はかなり良い。英語もよく出てくる。

強いプレッシャーを感じていたが、少しリラックスする。



そして、今日。

朝からソワソワ。英語のニュースを聞きまくる。頭のなかで想定問答を繰り返す。

時間が全然過ぎない。長い待ち時間。



余談:

早朝、BBCにマイケル・サンデルが出ていた。

出版した本について、キャスター(?)と議論している。

ところが、このキャスター(?)、めちゃくちゃ頭がいい。

サンデルさんがやり込められている。すごい。

しかし、サンデルさんも懸命にディフェンスしている。。すごい。

これが今日僕の身に起きるかと思うと、逆に少し勇気づけられる。

サンデルさんでもこうなるのだ。

そして、サンデルさんの答え方はかなり参考になる。

明確な「ノー」で議論を守り、自分の主張を丁寧に通していく。

メインの議論を何度も繰り返し、押していく。

これがお手本のようなディフェンスなのかもしれない。



バスで大学へ。

大学図書館のいつもの部屋で、ビル・エヴァンスを聞きながら準備。ビル・エヴァンスに救われる。

事務担当の女性の部屋を確認。

道すがら、試験官のひとりに遭遇。

「気分はどう?今日はきっと素晴らしい議論になるわ!」

と、勇気づけられる言葉をもらう。

この一言で相当リラックスする。(ところが、現実にはとんでもなく激しい試験になるのだった。)



試験会場で、はじめてもうひとりの試験官と会う。気さくだとは聞いていたが、確かに気さくな先生だった。

友好的な雰囲気で議論がはじまる。

予想外にも、私の研究史から説明させられる。

先行研究をうまく入れながら、きれいに説明できた。

そこから楽しい議論が展開され、30分経過。

これはもう大丈夫かな、と思った直後、徐々に本質的な議論に移行。

そこから、とんでもない激しい攻撃を受けることになる。

30分間、懸命にディフェンス。1時間が過ぎたころ、「もうダメかもしれない」と思い始める。

そこで思い出す、指導教官の言葉。「君には、やりやすい環境をつくる権利がある。休憩はいつでも取れる。それがルールだ。」

そう、これは試合。これはルールに則ったスポーツ。

一度、ブレイクする。プロレスで言えば、一度ロープに逃げたような気分だ。

私は途中で気が付いた。今求められているのは、この場で具体的にどのような修正案が可能かを明確にすることだ。

修正案はあまりにも大きくてもいけない。

最小限で、しかも確実に納得させられるものでなければいけない。

だから実質的にはディフェンスというより、主要な議論の「明確化」が重要なのだ。

相手の理解を促し、相手の疑問を解消する。そして、遠くない範囲での代替案に向かわせる。



このままではマズい。もう一度イギリスに来るには、かなりのコストがかかるし、精神的ダメージも相当になる。

とにかく、なんとかしなければ。

議論は次の大きな論点へ。

これはかなり準備してきた論点。ここで私が間違っていると思われるとかなりのマイナスだ。

反撃開始。

徹底してディフェンスする。

いやむしろオフェンスするような勢いだ。

試験官を徹底的に論破することにした。

もう容赦しない。そっちがその気なら、こっちもそのつもりだぞ。

形勢がようやく元に戻る。

これで1対1だ。



試験会場の外に出され、試験官ふたりが最後の相談を開始。

長い5分間。

もしかしたら、ダメかもしれない。

っていうか、あんな攻撃されるとは思わなかった。

こんなにガチなのか、イギリスの口頭面接試験よ。

心が重い。



部屋に呼びこまれる。

試験官(外部)「結論が出ました。・・・・・・おめでとう!」

自分としては正直かなり意外だったせいもあるし、このプレッシャーしかない長旅の疲れもあるし、これまでの長い長い色々な思い出のこともあって、僕はボロボロ泣き出してしまった。

ずっと綱渡りでやってきた博士課程。渡英したとき、こんなふうにPh.Dに手が届く日が来るなんて思いも寄らなかった。

だから、僕はどうしても涙をこらえることが出来なかった。

それに、結構悔しかった。あんなにやりこめられるとは思わなかったから。

その後、具体的な修正点をもらう。いわゆる「マイナー・コレクション」というやつで、これはほぼ合格を意味する。

博士候補生が面接試験で獲得する最も多い合格のパターンだ。

ちなみに「メイジャー・コレクション」だと罰金もあるし、面接のやり直しもあるし、とんでもないことになる。これは事実上の不合格を意味する。

現実的なことを言えば、この面接までに私は相当な準備をしてきた。

具体的に書くのは少々憚られるが、結果的にそれが功を奏した。というか、このレベルでの準備ができていなかったから、おそらく試験には落ちていた。

それほど、この最終高等面接試験はガチだ。



試験官がそのまま指導教官のもとへ僕を連れて行く。

「紹介します、マルコ(仮名)博士です!」

こういう気の利いた感じがイギリスです。

メインの指導教官がとてもとても喜んでくれた。

そして、沢山褒めてくれた。ありがとうございます。でも、かなり危なかったんですけど。



そのまま、大学内のパブへ。先生たちの教育論を沢山聞く。イギリスの教育レベルの高さを実感する。こんなにみんな、考えているのか。そして、新しい方法をどんどん実践している。

日本でこのレベルの教育論を持っている先生がどれほどいるのだろうか。そして、何より実践を伴っているだろうか。そんな先生、ほとんどいないだろう。

そのまま、街中のレストランへ。もうヘトヘト。しかし、先生方は疲れ知らず。研究の話、運営の話、何時間もよどみなく続ける。このパワーこそ研究者の強さか。

とりあえず、明日はオフとする。

ようやく自由な気持ちで研究できる。

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