https://www.camp-outdoor.com/diary/191027_babymetal4.shtml
カウントダウンジャパン
2015年の12月28日、快晴。冬の澄んだ青空の日だった。
海浜幕張駅から幕張メッセへと向かう道では、ベビーメタルの黒いライブTシャツを着込んだ人をたくさん見かけた。初めて、その赤と黒の装備を身に纏った人々を目の当たりにし「ああ、本当にベビーメタルは存在するのだな」というシンプルな驚きと感動があった。初めての海外旅行で、空港を出たら本当に外国人だらけで驚いた、みたいな感覚に近いかもしれない。
そして今日、ベビメタをこの目で見るのだ、と思うととても不思議な気持ちになった。本当にベビーメタルは存在するのだろうか。
「フェス」という響きにはなぜか抵抗があった。フェスといばなんだか夏のイメージで、空は青く高く山々は凛々しく、そこにはリアルに充実した男女の学生グループがたくさんいて、謎の派手なアウトドアウェアを着込んで、洒落た音楽にあわせ小刻みに体を揺すり人生サイコーみたいな感じで謳歌するイベント、的なイメージを持っていた。
けれど実際に来てみると、一人ぼっちのおじさんが多くて安心した。リアルに充実していなそうな若者も多く、むしろすこし悲しくなってしまったが、不必要な寂しさを感じずに過ごせそうだと思った。
ベビメタが演奏予定の巨大なホールに足を踏み入れると、そこではレキシがパフォーマンスしている真っ最中だった。タモリ倶楽部で知っている人だった。客が稲穂を持って踊っていた。レキシが終わるとその後はmiwa、きゃりーぱみゅぱみゅと続いた。
僕はそれぞれのライブが終わる毎に前方に移動し、最終的には上手側のエスケープゾーン辺りでポジションが落ち着いた。右手を柵にかけている体勢で、左全面にステージ中央がある。ライブを楽しもうというより、ちょっと離れた場所でベビメタを観察しようという心構えだった。
きゃりーぱみゅぱみゅのライブが終わり、ふと周りを見渡すと人口密度が高くなっていた。そしてみな黒いTシャツを着たガタイの良い、やや癖のある面構えをしたおっさんばかりが集結していた。 全国のラーメン屋の店員を幕張に集めてみた、みたいな状態であった。温度が上がっていた。
ベビメタ登場
そして客のザワザワとした声が会場全体に溶け込んだ頃、ライトが落ち「BABYMETAL DEATH」のイントロが流れた。この頃はまだスター・ウォーズのイントロだった。
観客の歓声があがると同時に、みな一斉に前方の人との距離を詰めた。さらに密度が高くなり、周囲の温度がぐぐぐっと上がり汗がではじめた。異常な空気感だと思った。戦闘で突撃前の、何万の兵士のうちの一人になった気分だ。しかも知らずしらずのうちに。
今まさに、壇上の指揮官が兵士の士気を鼓舞し、煽っている状態だった。兵士たちは殺気に満ちている。それに釣られ自分のテンションも否が応でもあがる。体温も上がる。そして演奏が始まる。
まず驚いたのは、キックの音だった。ウーファーの前だったのでキックの低音と圧がすごい。というか、ほとんどそれしか聴こえなかった。それでも僕のテンションは上がった。クラブの音が好きなので、とりあえず低音さえ効いていれば概ね満足だった。そして、そのキックの音の粒とリズムがあまりにも正確すぎて「打ち込み?」と思ったほどだった。
演奏が進むと客は声を上げさらにじりじりと前進を続け、あたりはあっという間にギチギチの密度になり、温度はさらに上がり空気も薄くなった。
イントロが激しくなれば客たちの動きは一段と激しくなった。それでも僕は、エスケープゾーンの柵に右腕を絡ませ、ベビメタを観察しようと努めた。俺はベビメタのライブがどんなもんか、スーメタルの声がどんなもんか確認しに来ただけなのだ。
が、気が気ではなかった。お祭り好きが遠くに祭囃しを聴いた様に、気が気じゃなかった。周りの異常なテンションに飲み込まれ、観察しようとかそういった頭の状態にはもう既になかった。
それになにより、先程から後ろの女性の胸が僕の背中に半端ないくらいの力で押し付けられて、そして、このままの状態ではその感触を背中で楽しんでいる変態野郎と思われかねない、と思うと気が気ではなかった。まずい。
そして僕はエスケープゾーンから脱出し、人の波の中に飛び込んだ。振り返ると背中の女性はウフっ、みたいな顔をしていた。くやしかった。
エスケープゾーンを離れてからは、とりあえず行けるところまで前進してみようと考え、隙間を見つけてはステージとの距離を詰めた。しかし最前列から3列目くらいまではやってきたけれど、ステージに近づけば近づくほど僕の目とステージ上の角度はきつくなり、人の腕や頭ばかりでステージを見ることができなくなった。
限界のつま先立ちでふくらはぎに全てのエネルギーを送り、人の海からなんとか顔を出した。するとユイメタルが遠くに確認できた。「細いっ」というのが第一印象だった。モアメタルは近い場所にいたようだが、あまりにも近くて逆に見えなかった。というか、首がそっちの方に回らない状態にあった。
ライブの前列での圧縮というものを経験したのは初めてだった。朝の満員電車内で、みなが上下に飛び跳ねている状態だ。後ろの人間は僕の肩に肘を置きそれが突き刺さる。曲がった首の角度はもう戻せない。音も人に吸収されてぼやけて聴こえるし、ステージもよく見えない。他人の汗が体にからみつく。最悪の状況だ。
それでも、これは一度経験しても良いことだと思った。なんだかわからないが、これには原始的なエナジーの様なものがあると思った。
そしてすごく楽しかった。数分前までは、ベビメタを遠くから観察して評価しようと思っていたし、どうせライブはつまんないだろうなと期待はしていなかったのだ。コーンやリンプのライブに行ったことがあるけど、どれもいまいちだった。無理くり自分でテンションを上げて盛り上がっていたし、周りはどちらかと言うと「負のエネルギーに満ちていた。
でもベビメタのライブにいる自分は純粋に、自然に心の底から楽しんでいた。その自分に気づき驚いた。いい年こいて何浮かれてんだ俺は、って思ったりもしたけど、楽しかった。
人ではないものを見てしまった
さて、スーメタルと言えばなかなか姿を現さない。そう、このオープニングの曲では、彼女はほとんどステージの後ろの方にいるのだ。加えて、僕がステージに近すぎるため角度的に見れないのだ。正直本当にいるのかどうかすら定かではない。今日はお休みなのかもしれない。
しかしその時はやってきた。曲がエンディングに近づいたタイミングでスーメタルは前方にやってきたのだ。その一瞬を、人の海の波間から顔を出している僕は捉えることができた。写真の様にその一コマの一瞬を捉えることができた。
なんと表現したらいいんだろうか。
全然誇張なしで盛らずに書くけど、スーメタルを見た瞬間「人ではないものを見てしまった」と本当に思った。あまりにも衝撃的で、ギョッとする様な感じで、時間がちょっと止まったくらいだった。
それまでステージ上にいた、レキシやそのバンド、Miwaやきゃりーぱみゅぱみゅ、神バンド、ゆいメタル、みんな人間ぽかった。明らかに自分と同じ側の人間だった。神バンドは白塗りで真っ白な衣装を着ているけれどむしろ人間感が一番あった。
けれどスーメタルだけは違っていた。明らかに自分とは違う側の何かだと思った。本当に、この世のモノと思えなかった。というかもっとはっきり書くと、宇宙人かと思った。なぜか体がガンメタリックに光っていた。たぶん照明のせいだと思うけど、その影響もあって宇宙人に見えたのだと思う。
そして、ものすごく大きかった。でかい。寺の門前で、仁王像を見上げている様な気分だった。
僕はそののライブの時点では、さほどベビメタにもハマっていなかったかもしれない。ベビメタのライブを1度見て確認してみようか、ってノリだったし、ライブでお金使うのもったいないなあ、と考えているレベルだった。スーメタルの歌声は大好きだったけれど、それだけだった。
なので特に思い入れもなく、夢にまで見たあの人にやっと会えた、みたいな気分ではなかった。神聖視もしていなかったし、バイアスもかかっていなかった様に思う(心の深いところでの気持ちはわからないけれど)。非常にフラットに、どれ、ひとつスーメタルの生歌でも聴いてみようかのぅ、というノリであった。
だから自分から、スーメタルを特別なものとして見ようとしていた訳ではないと思う。なんとなく近くで見てみたら、スーメタルが人間離れしていて驚いたのだ。
そういう訳で、スーメタルを見れた喜びよりも「畏怖を感じた」という感覚の方が近い気がする。
歌わないで踊るスーメタル
前線での圧縮に疲れた僕は、どこかのタイミングで後方に後退しその後のライブを楽しんだ。遠くから見るスーメタルにはもう、宇宙人という感じはなかった。
ただ、最後の曲で面白いことが起こった。
スーメタルが歌い出しのタイミングで歌っていないのだ。うん?と思い顔をあげてステージを見上げると、スーメタルが、モアメタル、ユイメタルと同様に並んで踊っていた。それもすごく普通に。
マイクが故障している訳ではないよなあ、というか、持っているべきマイクすら持っていない。なんだろうか。たぶん、マイクを持つタイミングで何か問題があったのだろう。
しかしその歌わずに踊るスーメタルの姿がものすごく印象的だった。普通、何らかのアクシデントがあれば少しは動揺するんじゃないだろうか。顔の表情、特に目にそれが現れるんじゃないだろうか。
でも彼女はそんな表情は微塵も見せず、少しの動揺もせず、当たり前の様に全力で踊っていた。鋭い眼光で遠くを見つめながら全力で踊っていた。なんなんだろうこの人は、すげえなと思った。
はじめてのベビメタライブが終わった。圧縮の経験できて楽しかったし、ライブがこんなに楽しいとは思わなかった。
そしてすんごいものを見た。普通の人とは明らかに違う存在感を持った人間って本当にいるんだな、と思った。こんな事を思ったのは生まれて始めてだった。スターって言うのはこうゆう存在なのかもしれないと思った。
その後、カウントダウンジャパンではビックのネームのライブが控えていたが、ベビメタを見て僕の感情の許容量がぱんぱんになってしまった。もうこれ以上他のものを容れることはできないと思った。そしてそれらを見ずに帰ることにした。
京葉線に揺られながら、今日僕はスーメタルの生の歌声を聴きに来たのだった、と思い出した。
しかし全然聴けていない。歌声を楽しむという優雅なテンションにはなかったし、とにかくキックの低音とその他の音がすごくて、歌声をちゃんと聴いて判断するなんて状況にはなかった。 そしてスーメタルが宇宙人過ぎて、衝撃すぎてそれどころではなくなってしまった。
2019-10-27
Written by アラタ
カウントダウンジャパン
2015年の12月28日、快晴。冬の澄んだ青空の日だった。
海浜幕張駅から幕張メッセへと向かう道では、ベビーメタルの黒いライブTシャツを着込んだ人をたくさん見かけた。初めて、その赤と黒の装備を身に纏った人々を目の当たりにし「ああ、本当にベビーメタルは存在するのだな」というシンプルな驚きと感動があった。初めての海外旅行で、空港を出たら本当に外国人だらけで驚いた、みたいな感覚に近いかもしれない。
そして今日、ベビメタをこの目で見るのだ、と思うととても不思議な気持ちになった。本当にベビーメタルは存在するのだろうか。
「フェス」という響きにはなぜか抵抗があった。フェスといばなんだか夏のイメージで、空は青く高く山々は凛々しく、そこにはリアルに充実した男女の学生グループがたくさんいて、謎の派手なアウトドアウェアを着込んで、洒落た音楽にあわせ小刻みに体を揺すり人生サイコーみたいな感じで謳歌するイベント、的なイメージを持っていた。
けれど実際に来てみると、一人ぼっちのおじさんが多くて安心した。リアルに充実していなそうな若者も多く、むしろすこし悲しくなってしまったが、不必要な寂しさを感じずに過ごせそうだと思った。
ベビメタが演奏予定の巨大なホールに足を踏み入れると、そこではレキシがパフォーマンスしている真っ最中だった。タモリ倶楽部で知っている人だった。客が稲穂を持って踊っていた。レキシが終わるとその後はmiwa、きゃりーぱみゅぱみゅと続いた。
僕はそれぞれのライブが終わる毎に前方に移動し、最終的には上手側のエスケープゾーン辺りでポジションが落ち着いた。右手を柵にかけている体勢で、左全面にステージ中央がある。ライブを楽しもうというより、ちょっと離れた場所でベビメタを観察しようという心構えだった。
きゃりーぱみゅぱみゅのライブが終わり、ふと周りを見渡すと人口密度が高くなっていた。そしてみな黒いTシャツを着たガタイの良い、やや癖のある面構えをしたおっさんばかりが集結していた。 全国のラーメン屋の店員を幕張に集めてみた、みたいな状態であった。温度が上がっていた。
ベビメタ登場
そして客のザワザワとした声が会場全体に溶け込んだ頃、ライトが落ち「BABYMETAL DEATH」のイントロが流れた。この頃はまだスター・ウォーズのイントロだった。
観客の歓声があがると同時に、みな一斉に前方の人との距離を詰めた。さらに密度が高くなり、周囲の温度がぐぐぐっと上がり汗がではじめた。異常な空気感だと思った。戦闘で突撃前の、何万の兵士のうちの一人になった気分だ。しかも知らずしらずのうちに。
今まさに、壇上の指揮官が兵士の士気を鼓舞し、煽っている状態だった。兵士たちは殺気に満ちている。それに釣られ自分のテンションも否が応でもあがる。体温も上がる。そして演奏が始まる。
まず驚いたのは、キックの音だった。ウーファーの前だったのでキックの低音と圧がすごい。というか、ほとんどそれしか聴こえなかった。それでも僕のテンションは上がった。クラブの音が好きなので、とりあえず低音さえ効いていれば概ね満足だった。そして、そのキックの音の粒とリズムがあまりにも正確すぎて「打ち込み?」と思ったほどだった。
演奏が進むと客は声を上げさらにじりじりと前進を続け、あたりはあっという間にギチギチの密度になり、温度はさらに上がり空気も薄くなった。
イントロが激しくなれば客たちの動きは一段と激しくなった。それでも僕は、エスケープゾーンの柵に右腕を絡ませ、ベビメタを観察しようと努めた。俺はベビメタのライブがどんなもんか、スーメタルの声がどんなもんか確認しに来ただけなのだ。
が、気が気ではなかった。お祭り好きが遠くに祭囃しを聴いた様に、気が気じゃなかった。周りの異常なテンションに飲み込まれ、観察しようとかそういった頭の状態にはもう既になかった。
それになにより、先程から後ろの女性の胸が僕の背中に半端ないくらいの力で押し付けられて、そして、このままの状態ではその感触を背中で楽しんでいる変態野郎と思われかねない、と思うと気が気ではなかった。まずい。
そして僕はエスケープゾーンから脱出し、人の波の中に飛び込んだ。振り返ると背中の女性はウフっ、みたいな顔をしていた。くやしかった。
エスケープゾーンを離れてからは、とりあえず行けるところまで前進してみようと考え、隙間を見つけてはステージとの距離を詰めた。しかし最前列から3列目くらいまではやってきたけれど、ステージに近づけば近づくほど僕の目とステージ上の角度はきつくなり、人の腕や頭ばかりでステージを見ることができなくなった。
限界のつま先立ちでふくらはぎに全てのエネルギーを送り、人の海からなんとか顔を出した。するとユイメタルが遠くに確認できた。「細いっ」というのが第一印象だった。モアメタルは近い場所にいたようだが、あまりにも近くて逆に見えなかった。というか、首がそっちの方に回らない状態にあった。
ライブの前列での圧縮というものを経験したのは初めてだった。朝の満員電車内で、みなが上下に飛び跳ねている状態だ。後ろの人間は僕の肩に肘を置きそれが突き刺さる。曲がった首の角度はもう戻せない。音も人に吸収されてぼやけて聴こえるし、ステージもよく見えない。他人の汗が体にからみつく。最悪の状況だ。
それでも、これは一度経験しても良いことだと思った。なんだかわからないが、これには原始的なエナジーの様なものがあると思った。
そしてすごく楽しかった。数分前までは、ベビメタを遠くから観察して評価しようと思っていたし、どうせライブはつまんないだろうなと期待はしていなかったのだ。コーンやリンプのライブに行ったことがあるけど、どれもいまいちだった。無理くり自分でテンションを上げて盛り上がっていたし、周りはどちらかと言うと「負のエネルギーに満ちていた。
でもベビメタのライブにいる自分は純粋に、自然に心の底から楽しんでいた。その自分に気づき驚いた。いい年こいて何浮かれてんだ俺は、って思ったりもしたけど、楽しかった。
人ではないものを見てしまった
さて、スーメタルと言えばなかなか姿を現さない。そう、このオープニングの曲では、彼女はほとんどステージの後ろの方にいるのだ。加えて、僕がステージに近すぎるため角度的に見れないのだ。正直本当にいるのかどうかすら定かではない。今日はお休みなのかもしれない。
しかしその時はやってきた。曲がエンディングに近づいたタイミングでスーメタルは前方にやってきたのだ。その一瞬を、人の海の波間から顔を出している僕は捉えることができた。写真の様にその一コマの一瞬を捉えることができた。
なんと表現したらいいんだろうか。
全然誇張なしで盛らずに書くけど、スーメタルを見た瞬間「人ではないものを見てしまった」と本当に思った。あまりにも衝撃的で、ギョッとする様な感じで、時間がちょっと止まったくらいだった。
それまでステージ上にいた、レキシやそのバンド、Miwaやきゃりーぱみゅぱみゅ、神バンド、ゆいメタル、みんな人間ぽかった。明らかに自分と同じ側の人間だった。神バンドは白塗りで真っ白な衣装を着ているけれどむしろ人間感が一番あった。
けれどスーメタルだけは違っていた。明らかに自分とは違う側の何かだと思った。本当に、この世のモノと思えなかった。というかもっとはっきり書くと、宇宙人かと思った。なぜか体がガンメタリックに光っていた。たぶん照明のせいだと思うけど、その影響もあって宇宙人に見えたのだと思う。
そして、ものすごく大きかった。でかい。寺の門前で、仁王像を見上げている様な気分だった。
僕はそののライブの時点では、さほどベビメタにもハマっていなかったかもしれない。ベビメタのライブを1度見て確認してみようか、ってノリだったし、ライブでお金使うのもったいないなあ、と考えているレベルだった。スーメタルの歌声は大好きだったけれど、それだけだった。
なので特に思い入れもなく、夢にまで見たあの人にやっと会えた、みたいな気分ではなかった。神聖視もしていなかったし、バイアスもかかっていなかった様に思う(心の深いところでの気持ちはわからないけれど)。非常にフラットに、どれ、ひとつスーメタルの生歌でも聴いてみようかのぅ、というノリであった。
だから自分から、スーメタルを特別なものとして見ようとしていた訳ではないと思う。なんとなく近くで見てみたら、スーメタルが人間離れしていて驚いたのだ。
そういう訳で、スーメタルを見れた喜びよりも「畏怖を感じた」という感覚の方が近い気がする。
歌わないで踊るスーメタル
前線での圧縮に疲れた僕は、どこかのタイミングで後方に後退しその後のライブを楽しんだ。遠くから見るスーメタルにはもう、宇宙人という感じはなかった。
ただ、最後の曲で面白いことが起こった。
スーメタルが歌い出しのタイミングで歌っていないのだ。うん?と思い顔をあげてステージを見上げると、スーメタルが、モアメタル、ユイメタルと同様に並んで踊っていた。それもすごく普通に。
マイクが故障している訳ではないよなあ、というか、持っているべきマイクすら持っていない。なんだろうか。たぶん、マイクを持つタイミングで何か問題があったのだろう。
しかしその歌わずに踊るスーメタルの姿がものすごく印象的だった。普通、何らかのアクシデントがあれば少しは動揺するんじゃないだろうか。顔の表情、特に目にそれが現れるんじゃないだろうか。
でも彼女はそんな表情は微塵も見せず、少しの動揺もせず、当たり前の様に全力で踊っていた。鋭い眼光で遠くを見つめながら全力で踊っていた。なんなんだろうこの人は、すげえなと思った。
はじめてのベビメタライブが終わった。圧縮の経験できて楽しかったし、ライブがこんなに楽しいとは思わなかった。
そしてすんごいものを見た。普通の人とは明らかに違う存在感を持った人間って本当にいるんだな、と思った。こんな事を思ったのは生まれて始めてだった。スターって言うのはこうゆう存在なのかもしれないと思った。
その後、カウントダウンジャパンではビックのネームのライブが控えていたが、ベビメタを見て僕の感情の許容量がぱんぱんになってしまった。もうこれ以上他のものを容れることはできないと思った。そしてそれらを見ずに帰ることにした。
京葉線に揺られながら、今日僕はスーメタルの生の歌声を聴きに来たのだった、と思い出した。
しかし全然聴けていない。歌声を楽しむという優雅なテンションにはなかったし、とにかくキックの低音とその他の音がすごくて、歌声をちゃんと聴いて判断するなんて状況にはなかった。 そしてスーメタルが宇宙人過ぎて、衝撃すぎてそれどころではなくなってしまった。
2019-10-27
Written by アラタ
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