以前に「炎症でうつ病が起きる!」みたいな話を軽くしたら、「もっとくわしく!」との声がありましたので、もうちょい書いてみます。そもそも炎症ってなに?という方は、「アンチエイジングの最重要ポイント」などをご参照あれ。
セロトニンの量とうつ病は無関係?
「うつ病の原因ってカラダの炎症なんじゃない?」ってのはここ十数年でジワジワ人気がでてきた説で、それまでは「脳の化学物質がおかしくなってるんじゃない?」ってほうが優勢だったんですよね。たいていの抗うつ剤も、脳内のセロトニンやアドレナリンを増やすようにデザインされております。
ところが、この説にはいろいろ問題がありまして、
•セロトニンとドーパミンが少ない人でもメンタルが健康な人は多い
•うつ病の患者でセロトニンが少ない人は、全体の4分の1しかいない
•逆に、激しいうつ病なのにセロトニンやドーパミンの量が多い人も結構いる
•抗うつ剤を使うとすぐにセロトニンが増えるのに、改善の効果が出るまでは数カ月もかかったりする
みたいな食い違いが出てきちゃうんですよ(1)。難しいもんです。
実際、わたしも15年ぐらい前にSSRI(エフェキソール)を試してみたんですが、なんの変化もありませんでしたからねぇ。いっぽうで、バージニア大のジョナサン・ハイト博士なんかは、「プロザックで目の前がバラ色に!」みたいな体験談を「しあわせ仮説」に書いてたんで、かなり個人差が大きい話なんだと思いますが。
といったところで出てきたのが、「うつ病の炎症モデル」であります。要するに、うつ病そのものが疾患なわけじゃなくて、実は炎症による症状のひとつなんじゃないの?という話ですね。
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うつ病の人は炎症性の物質が多い
この問題については、ディーキン大学が2013年に出したレビュー論文(2)がいい感じ。本論の説明によると、まずカラダになんらかの炎症が起きると、体内にはサイトカインって物質が分泌されます。
具体的に増えるのは、TNFαとかインターロイキンとかインターフェロンとか。これらの物質が出ると、どうやら精神と神経の働きがおかしくなっていくみたいなんですね。
おもしろいもんで、SSRIのような抗うつ剤には、セロトニンを増やすだけでなくTNFαとかインターロイキンを減らす効果があることもわかっております(3)。つまり、抗うつ剤って実は脳の炎症をおさえてるから効くんじゃないの?って話ですね。
そのほかにも、
•うつ病の患者さんの体内にはとにかくサイトカインが多い
•体内の炎症レベルが上がると、同時にうつ病が悪化するケースが多い
•健康な人に炎症性の毒素を注射したら、すぐにうつ病にそっくりな症状が出た
•うつ病の寛解は、炎症レベルの低下と同時に起きるケースが多い
みたいな感じ。ちなみに、心理学の世界では「反すう思考がうつ病の原因」とも言われますが、いっぽうでは「炎症が減ったら反すう思考も減った!」みたいなデータもあるんで、やっぱ根っこにはサイトカインの問題があるのかもですな。
うつ病を引き起こす大きな要素とは?
そんなわけで、うつ病の原因は体内の慢性炎症である可能性が大。上で紹介したレビューでは、うつ病を引き起こす要素についてもいろいろまとまっております。
まずは定番どころから見ていくと、
•食事:精製小麦、酸化した脂肪、トランス脂肪酸、保存料
•肥満:体脂肪が増えると体内のサイトカインも増える
•腸内環境:リーキーガットのせいで体内に炎症性の毒素が増える
•ストレス:心理的なストレスでサイトカインが増えることがわかっている
•運動不足:エクササイズをすると一時的にサイトカインが増えるが、そのあとで抗炎症の物質が分泌される
•睡眠不足:寝不足の状態が長く続くと、どんなに健康な人でも体内の炎症レベルがあがる
みたいな感じ。このあたりは、もはや常識と申せましょう。
その他、ちょっと意外なところを見ていくと、
•慢性的な感染:マイコプラズマやライム病菌など、急な症状が出ないタイプの感染症。実際、トキソプラズマや西ナイル熱、クロストリジウムなどとうつ病の関連を示すデータもあるそうな。さらにくわしくは「慢性疲労が起きる原因と対処法」をどうぞ。
•虫歯・歯周病:口まわりの病気も、慢性炎症の大きな原因のひとつ。8万人を対象にした研究データでは、歯の状態が悪い人ほどうつ病にかかえる傾向が大きかったらしい。
•ビタミンD不足:ビタミンDが脳の機能に欠かせないのは有名な話ですが、近ごろはビタミンDとうつ病の関連もいろいろ出てきております。なんせビタミンDには免疫システムを健康にたもつ働きもあるんで、足りないと炎症が暴走したままになっちゃうんですな。
といったところ。このあたりも、ぜひおさえておきたいですねー。特に歯周病とビタミンDは見逃されがちな要素かと思います。
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