白髪染めシャンプーは安全なのか?
さて、一般の消費者は、天然の成分が髪を染めていると思いこみ、まさか合成染料が毛髪の内部にまで入り込んでいるということを知らない方がほとんどではないでしょうか。その事実を知って、とても心配になってしまうかもしれません。しかし、ひとつ安心できる材料としては、髪の毛は死んだ細胞だということです。死んだ細胞の中にとどまってくれれば良いと考えることもできるのです。
髪の毛と同じように、皮膚の表面も死んだ細胞でできています。法律では、化粧品は皮膚において、表面の死んだ細胞部分(角層)までしか作用(浸透)してはいけないことになっています。ただし、現状では多くの化粧品で、角層より下まで成分が作用している状況にあります。
一方、髪の毛の場合は、表面だけという規制はないため、内部にまで作用することが許されています。
そのため、ヘアカラーやヘアマニキュア、白髪染めシャンプーなどで使用されている染料は、しっかりと髪の毛の中に入り込むように計算されてつくられています。そこで使用されているのが、溶剤や合成界面活性剤です。
溶剤や合成界面活性剤が入っているのは、髪をしっかりと染めるためです。毛根や毛母細胞を守るために、常に皮脂が分泌されているので、頭皮は皮脂で覆われています。その影響で髪も油のコーテイングがされています。このままでは髪は染まりにくいのです。だから、シャンプーにしてもリンスにしても洗浄剤を入れて、頭皮や髪の油を取り除くほうが染まりやすくなります。
もうひとつは、染料自体の分散を良くするためです。染料を溶かすには溶剤や界面活性剤の力が必要です。染料や着色剤と共に、さまざまなエキスを水にすべて溶かし込むには、強力な乳化剤や溶剤の力を借りなければなりません。商品には、ウオータープルーフのマスカラも一発で落とせるような原料や、ヘアカラー乳化剤といって染料を溶かす専用の原料が多々添加されていることは、あまり知られていません。
染毛ではなく「髪に物理的に色が付着した」という言い訳をすることで白髪染めシャンプーを販売している
原料メーカー側から「ヘアカラー乳化剤」といった名称で卸される原料には、合成染料が毛髪の内部にまでしっかりと染み込むように、髪の表皮にあたるキューテイクルの状態を緩ませる溶剤や合成洗剤を混ぜてあるのです。
しかし、髪の毛自体は死んだ細胞であっても、髪の付け根、毛穴の中には毛根や毛母細胞が存在しています。そして、それらを保護しているのが同じ毛穴に存在している皮脂腺から分泌される皮脂なのです。シャンプーに入っている洗浄剤を加えて、ヘアカラー用の乳化剤にも溶剤や合成洗剤が含まれており、この皮脂を根こそぎ洗い流してしますのです。
しかも、商品の説明には「使い続けないと色が落ちます」といった表記があるため、一度使うと、その後も使い続けなければならないと思わされます。毎日使い続ければ、皮脂の分泌を待つ時間もなく、毛根や毛母細胞が無防備な状態でさらされ続けます。無防備な毛根や毛母細胞は、シャンプー、リンス、整髪料、ドライヤーの熱などからの刺激を強く感じ、その刺激によって痛めつけられることになります。こうした状態が続けば、毛母細胞が傷つけられて抜け毛や薄毛の原因になるのです。
合成染料であっても使用に制限ない
実は、「白髪を染める」という表現は染毛剤としての承認を受けて初めて謳うことができるのです。いわゆるヘアカラーとは、染毛剤にあたり、医薬部外品として国による規制と承認審査あるものとなります。ヘナを始め、自然な力をアピールするためには、各メーカーは「染毛剤」であることを前面に出したくありません。
そこで、染毛ではなく、「髪に物理的に色が付着した」という言い訳をすることで白髪染めシャンプーを販売しているのです。そうすることで、ヘアマニキュアでも白髪染めシャンプーでも、本来、染毛剤に求められる皮膚アレルギー試験(パッチテスト)や消費者への注意喚起を行う義務もなくなるのです。染毛剤のヘアカラーと違ってヘアマニキュアや白髪染めシャンプーは、一般的な合成染料を毛髪の内部に入れて染色するものであるにもかかわらず、ごく一般的な化粧品として販売されています。
原料の本当の姿はわかりにくく、国は安全性を担保していない
2001年の薬事法規制緩和以降、化粧品に使用できる原料は原則として自由になりました。安全性はメーカー側に責任を転嫁するもので、メーカーは新しい原料を使用したい時には日本化粧品工業連合会に届け出さえすれば使用できるようになっています。
そして、恐ろしいことに、日本化粧品工業連合会は「名称リストの編集と更新を行う」とし、「安全性に関する判断は一切しない」という立場を表明しています。つまり、化粧品原料の名称リストについては、単に名称登録を行っているだけです。したがって、あなたが使っている身の回りの商品、シャンプーも整髪料もボディーソープも、メーカー以外はその安全性を確認してはいないのです。
今は一般ユーザーも気軽に検索できる、化粧品原料検索サイトが存在します。日本化学工業連合会に登録されている化粧品原料の使用目的などを検索できるものですが、そのほとんどが原料メーカー側や化粧品メーカー側の意向に沿ったものになりがちです。
合成染料でいえば、今はメーカー側としても法律の穴をくぐりぬけるために、あくまでも髪の毛を物理的に着色するものだという立場をとらなければなりません。ですから、アゾ系芳香族染料を含め、さまざまな合成染料がありますが、化粧品原料の資料やメーカーサイトでは、そのほとんどで「毛髪用着色剤」として説明されています。
こうした合成染料を使用した商品は、過去にも多くのトラブルが発生しています。たとえばヘナを配合した商品。実際にはヘナだけでなく先ほど紹介したような合成染料が多く含まれている商品が多く存在し、皮膚障害が起こってしまったのです。そこで、ヘナを含む商品にはパッチテストをするように義務付けられました。
しかし、問題はヘナ自体にあったわけではなく合成染料にあったはずですが、毛染めシャンプーをはじめとするヘナ以外の類似商品が数多く流通するなかで、ヘナを含まない商品には安全規制がかからない状況となっています。これは、今後も国民の安全が守られるのか大変心配な状況です。
安全に白髪染めをする方法
では、安全に染髪するには、どうすればよいのでしょうか。
大切なのは、髪の毛だけを染めるようにして、頭皮に存在している毛根や毛母細胞を守ること、また頭皮の皮膚の角層よりも下に成分が入り込まないようにすることです。そのためには、白髪染めの合成染料と、シャンプーやリンスのタイミングをずらすことが必要です。一番やってはいけないのが、白髪染め剤とシャンプーやリンスを混ぜて一緒に使うことです。
また、白髪染め剤を頭皮につけないように塗ることも注意すべき点です。後頭部などは、自分自身で頭皮につけないように塗るのは難しいので、安全のためにはサロンのプロの手に委ねたほうがいいでしょう。
8月30日付記事『トニックシャンプーは使用NG!ハゲや抜け毛の恐れ、危険な成分配合、毛穴の油は必要』においても、頭皮の脂がとても大切だということを説明いたしました。白髪染めをするときには、洗髪した後ではなく、逆に頭皮の皮脂がある状態で臨みましょう。できれば、さらにカラーリングやパーマの前処理用の油がありますので、こうした油を使用するサロンを選び、頭皮につかないように塗布をしてもらってください。
また、ヘアカラーだけでなくヘアマニキュアや白髪染めシャンプーでも、合成染料やそのほかの原料によってアレルギーを起こしたり、強すぎる洗浄剤で頭皮や毛根を痛めつけてしまうケースも多いので、重篤な被害に遭わないためには定期的に頭皮の状態を確認することも大切です。とはいえ、頭皮は自分では確認しにくいので、頭皮を守るためには、適切な毛染めや石けんシャンプーを使いこなせるプロにお任せしたいものです。
●小澤貴子
東京美容科学研究所所長、工学博士(応用化学)。上智大学理工学部応用化学修士課程修了後、大手化学会社の研究員、上智大学理工学部化学科非常勤助手を経て、東京美容科学研究所にて肌と美容の研究に携わる。正しい美容科学の普及をめざして全国で講習会や講演を行っている。主な著書は、『ウソをつく化粧品』(フォレスト出版)
さて、一般の消費者は、天然の成分が髪を染めていると思いこみ、まさか合成染料が毛髪の内部にまで入り込んでいるということを知らない方がほとんどではないでしょうか。その事実を知って、とても心配になってしまうかもしれません。しかし、ひとつ安心できる材料としては、髪の毛は死んだ細胞だということです。死んだ細胞の中にとどまってくれれば良いと考えることもできるのです。
髪の毛と同じように、皮膚の表面も死んだ細胞でできています。法律では、化粧品は皮膚において、表面の死んだ細胞部分(角層)までしか作用(浸透)してはいけないことになっています。ただし、現状では多くの化粧品で、角層より下まで成分が作用している状況にあります。
一方、髪の毛の場合は、表面だけという規制はないため、内部にまで作用することが許されています。
そのため、ヘアカラーやヘアマニキュア、白髪染めシャンプーなどで使用されている染料は、しっかりと髪の毛の中に入り込むように計算されてつくられています。そこで使用されているのが、溶剤や合成界面活性剤です。
溶剤や合成界面活性剤が入っているのは、髪をしっかりと染めるためです。毛根や毛母細胞を守るために、常に皮脂が分泌されているので、頭皮は皮脂で覆われています。その影響で髪も油のコーテイングがされています。このままでは髪は染まりにくいのです。だから、シャンプーにしてもリンスにしても洗浄剤を入れて、頭皮や髪の油を取り除くほうが染まりやすくなります。
もうひとつは、染料自体の分散を良くするためです。染料を溶かすには溶剤や界面活性剤の力が必要です。染料や着色剤と共に、さまざまなエキスを水にすべて溶かし込むには、強力な乳化剤や溶剤の力を借りなければなりません。商品には、ウオータープルーフのマスカラも一発で落とせるような原料や、ヘアカラー乳化剤といって染料を溶かす専用の原料が多々添加されていることは、あまり知られていません。
染毛ではなく「髪に物理的に色が付着した」という言い訳をすることで白髪染めシャンプーを販売している
原料メーカー側から「ヘアカラー乳化剤」といった名称で卸される原料には、合成染料が毛髪の内部にまでしっかりと染み込むように、髪の表皮にあたるキューテイクルの状態を緩ませる溶剤や合成洗剤を混ぜてあるのです。
しかし、髪の毛自体は死んだ細胞であっても、髪の付け根、毛穴の中には毛根や毛母細胞が存在しています。そして、それらを保護しているのが同じ毛穴に存在している皮脂腺から分泌される皮脂なのです。シャンプーに入っている洗浄剤を加えて、ヘアカラー用の乳化剤にも溶剤や合成洗剤が含まれており、この皮脂を根こそぎ洗い流してしますのです。
しかも、商品の説明には「使い続けないと色が落ちます」といった表記があるため、一度使うと、その後も使い続けなければならないと思わされます。毎日使い続ければ、皮脂の分泌を待つ時間もなく、毛根や毛母細胞が無防備な状態でさらされ続けます。無防備な毛根や毛母細胞は、シャンプー、リンス、整髪料、ドライヤーの熱などからの刺激を強く感じ、その刺激によって痛めつけられることになります。こうした状態が続けば、毛母細胞が傷つけられて抜け毛や薄毛の原因になるのです。
合成染料であっても使用に制限ない
実は、「白髪を染める」という表現は染毛剤としての承認を受けて初めて謳うことができるのです。いわゆるヘアカラーとは、染毛剤にあたり、医薬部外品として国による規制と承認審査あるものとなります。ヘナを始め、自然な力をアピールするためには、各メーカーは「染毛剤」であることを前面に出したくありません。
そこで、染毛ではなく、「髪に物理的に色が付着した」という言い訳をすることで白髪染めシャンプーを販売しているのです。そうすることで、ヘアマニキュアでも白髪染めシャンプーでも、本来、染毛剤に求められる皮膚アレルギー試験(パッチテスト)や消費者への注意喚起を行う義務もなくなるのです。染毛剤のヘアカラーと違ってヘアマニキュアや白髪染めシャンプーは、一般的な合成染料を毛髪の内部に入れて染色するものであるにもかかわらず、ごく一般的な化粧品として販売されています。
原料の本当の姿はわかりにくく、国は安全性を担保していない
2001年の薬事法規制緩和以降、化粧品に使用できる原料は原則として自由になりました。安全性はメーカー側に責任を転嫁するもので、メーカーは新しい原料を使用したい時には日本化粧品工業連合会に届け出さえすれば使用できるようになっています。
そして、恐ろしいことに、日本化粧品工業連合会は「名称リストの編集と更新を行う」とし、「安全性に関する判断は一切しない」という立場を表明しています。つまり、化粧品原料の名称リストについては、単に名称登録を行っているだけです。したがって、あなたが使っている身の回りの商品、シャンプーも整髪料もボディーソープも、メーカー以外はその安全性を確認してはいないのです。
今は一般ユーザーも気軽に検索できる、化粧品原料検索サイトが存在します。日本化学工業連合会に登録されている化粧品原料の使用目的などを検索できるものですが、そのほとんどが原料メーカー側や化粧品メーカー側の意向に沿ったものになりがちです。
合成染料でいえば、今はメーカー側としても法律の穴をくぐりぬけるために、あくまでも髪の毛を物理的に着色するものだという立場をとらなければなりません。ですから、アゾ系芳香族染料を含め、さまざまな合成染料がありますが、化粧品原料の資料やメーカーサイトでは、そのほとんどで「毛髪用着色剤」として説明されています。
こうした合成染料を使用した商品は、過去にも多くのトラブルが発生しています。たとえばヘナを配合した商品。実際にはヘナだけでなく先ほど紹介したような合成染料が多く含まれている商品が多く存在し、皮膚障害が起こってしまったのです。そこで、ヘナを含む商品にはパッチテストをするように義務付けられました。
しかし、問題はヘナ自体にあったわけではなく合成染料にあったはずですが、毛染めシャンプーをはじめとするヘナ以外の類似商品が数多く流通するなかで、ヘナを含まない商品には安全規制がかからない状況となっています。これは、今後も国民の安全が守られるのか大変心配な状況です。
安全に白髪染めをする方法
では、安全に染髪するには、どうすればよいのでしょうか。
大切なのは、髪の毛だけを染めるようにして、頭皮に存在している毛根や毛母細胞を守ること、また頭皮の皮膚の角層よりも下に成分が入り込まないようにすることです。そのためには、白髪染めの合成染料と、シャンプーやリンスのタイミングをずらすことが必要です。一番やってはいけないのが、白髪染め剤とシャンプーやリンスを混ぜて一緒に使うことです。
また、白髪染め剤を頭皮につけないように塗ることも注意すべき点です。後頭部などは、自分自身で頭皮につけないように塗るのは難しいので、安全のためにはサロンのプロの手に委ねたほうがいいでしょう。
8月30日付記事『トニックシャンプーは使用NG!ハゲや抜け毛の恐れ、危険な成分配合、毛穴の油は必要』においても、頭皮の脂がとても大切だということを説明いたしました。白髪染めをするときには、洗髪した後ではなく、逆に頭皮の皮脂がある状態で臨みましょう。できれば、さらにカラーリングやパーマの前処理用の油がありますので、こうした油を使用するサロンを選び、頭皮につかないように塗布をしてもらってください。
また、ヘアカラーだけでなくヘアマニキュアや白髪染めシャンプーでも、合成染料やそのほかの原料によってアレルギーを起こしたり、強すぎる洗浄剤で頭皮や毛根を痛めつけてしまうケースも多いので、重篤な被害に遭わないためには定期的に頭皮の状態を確認することも大切です。とはいえ、頭皮は自分では確認しにくいので、頭皮を守るためには、適切な毛染めや石けんシャンプーを使いこなせるプロにお任せしたいものです。
●小澤貴子
東京美容科学研究所所長、工学博士(応用化学)。上智大学理工学部応用化学修士課程修了後、大手化学会社の研究員、上智大学理工学部化学科非常勤助手を経て、東京美容科学研究所にて肌と美容の研究に携わる。正しい美容科学の普及をめざして全国で講習会や講演を行っている。主な著書は、『ウソをつく化粧品』(フォレスト出版)