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肝臓友の会との関わりで成長した肝臓専門医のブログです。2017.2.12より新規開始しました。

<教室で学びたい 化学物質過敏症の子どもたち> 道新電子版から 2021年2月19日21日22日連載

2021年02月25日 | 学会研究会報告新聞記事など
化学過敏症は、年々増えてきていて、肝臓クリニック札幌でも患者さんが来ています。診察の際に香りの強めな方には声をかけたりして協力をお願いしたりしています。大人にもあてはまる内容があります。一人一人がからだにいいことを心がけていくと解決して行くところも多いかと思いますので、参考になればと思って引用してきました。
Facebookでもシェアしているので、参考になれば幸いです。

以下、道新電子版から引用ですーーーーーーーーーーーー
<教室で学びたい 化学物質過敏症の子どもたち>上 香りがつらい
02/19 17:00

4月に入学する高校の教室で、一番前に座り体験授業を受ける結衣さん。机の前には空気清浄機が置かれた(阿部裕貴撮影)
<教室で学びたい 化学物質過敏症の子どもたち>上 香りがつらい
 小雪の舞う1月下旬、札幌の中学3年、結衣さん(15)=仮名=は、久しぶりの「登校」に胸が高鳴った。市内の私立高校に合格し、4月から通う。この日は入学前の体験授業。20人余りの同期生と机を並べた。座席は窓際の一番前。机の前には空気清浄機が置かれた。「これからはみんなと同じように学校で勉強を教わり、部活や行事も楽しみたい」

■インクでも頭痛
 空気中の化学物質が体内に入ると頭痛や呼吸困難などの症状が出る化学物質過敏症(MCS)。結衣さんはこの病気のため、中学2年の6月からほとんど登校していない。
 1年の冬、教室に放たれる強い香りで激しい頭痛に襲われたのが始まりだった。何の香りかは分からなかった。柔軟剤、洗剤、シャンプー、ハンドソープ…。級友たちが使う日用品には、香りの強い製品がたくさんあった。鼻炎がおさまらず、花粉症を疑い病院に行くと、香料に含まれる化学物質が原因のMCSと診断された。「症状の原因から離れるしか、対処法はない」。医師にそう言われた。
 登校し続けるうちに、症状は悪化。全身が脱力し立ち上がれなくなり、けいれんや吐き気、腹痛に苦しみ、鼻血が出た。体が反応する対象は徐々に増えた。ワックス、サインペン、絵の具、墨汁…。教科書のインクでも頭痛がした。自宅では香料を含む製品は使わず、大勢の人がいる場所や公共交通機関の利用は避けている。
 「化学物質過敏症のことを、まだみんな知らない。先生たちが病気のことを理解してくれたら、過敏症の子も学校に行ける方法を一緒に考えてくれるはず」。結衣さんはそう願う。
 進学する高校は、結衣さんが使う全教室に空気清浄機の設置を計画。全トイレの芳香剤を撤去するなど受け入れ準備を進めている。

■学校などで発症
 香りに苦しむ子どもが増えている。MCSに詳しい渡辺一彦小児科医院(札幌)の渡辺一彦院長によると、MCS患者の多くは成人女性だが、香りの強い柔軟剤が人気となった2014年ごろから子どもにも症状がみられ、同院では近年、15歳以下のMCSの新患を年間10~20人診察。一度発症すると治りにくく、子どもの患者数はどんどん積み上がっている。大半が幼稚園や保育園、学校で発症。別室登校や自宅療養を続ける子が少なくないという。
 こうした現状を受け、札幌の市民団体「子どもの健康と学びを守る会」は昨年、市教委に実態調査の実施や登校できない子への学習支援を要望。11月には、市立小中高校などに、MCSへの理解を求めるチラシ計1万枚を配布した。
 MCSには記憶力や思考力が低下する症状もあるという。日本臨床環境医学会環境過敏症分科会の北條祥子代表は「子どもが罹患(りかん)すると、漢字を忘れたり、計算ができなくなるなど学力低下につながる恐れもある」と危惧する。
 MCSの患者は成人対象の調査で全国に70万人と推計されており、化学物質過敏症支援センター(横浜)は、子どもを含めると100万人程にふくれあがると推測する。
 渡辺院長は指摘する。「生活の中にある化学物質のために、子どもの学ぶ権利が奪われるという深刻な状況だ」

 生活環境の悪化で生じる病、化学物質過敏症(MCS)―。その影響が次世代を担う子どもたちにも及んでいる。MCSに苦しむ子どもたちの現状と課題を探った。
 
■症状が出るしくみ 肺から吸収 中枢神経に影響
 化学物質過敏症(MCS)とは、どんな病なのか。化学物質過敏症専門医で、日本臨床環境医学会会員の小倉英郎・高知大医学部臨床教授によると、空気中の極微量の化学物質が肺から吸収され、血液を介して中枢神経に到達すると、頭痛や呼吸困難、下痢、鼻出血などさまざまな症状が現れる。2009年に保険適用となった。
 近年は柔軟剤や洗剤、整髪料などの香料を含む化学物質で発症するケースが多く、新型コロナ感染予防で使われる消毒用のアルコールや除菌剤で症状が現れる人も増えている。食品添加物や残留農薬で発症するケースもある。建材や塗料で発症するシックハウス症候群はMCSの一種。
 発症した時と同じ環境で過ごし続けると悪化するが、原因物質を避けた生活を続けると症状は治まることが多い。小倉さんは「子どもは、保育園や幼稚園で集団生活を始めた時に症状が出始めるケースが多い。発症したら、学級担任など身近な人も化学物質の使用を避けるなど、集団生活の環境改善を早期に進めることが大切」と訴える。(佐竹直子が担当し、3回連載します)

<教室で学びたい 化学物質過敏症の子どもたち>中 独りぼっち 「級友と」願いながら自習
02/21 05:00
 
翼君が通う「別室」。静まり返った部屋ではあるが、「学校を休んで家にいるよりはずっといい」と翼君は言う

 教室の半分に満たない広さの部屋のまん中に、大きなテーブルと、いすが二つ。札幌市内の小学5年、翼君(11)=仮名=は、登校すると、級友たちの声が響くにぎやかな教室から離れた静かな部屋へ向かう。「相談室」の札が下がるこの部屋が翼君の「教室」だ。

■学校も暗中模索
 化学物質過敏症(MCS)のため、3年の時から別室登校を続ける。病院での血液検査の結果、発症の原因は、柔軟剤などの香料を包むマイクロプラスチックの素材であるイソシアネートという物質だった。
 別室では翼君の母が毎日付き添い、自習を見守る。担任らが時々のぞきに来たり、学習支援のボランティアが1日1時間、自習を手助けするが、授業は行われていない。
 勉強の遅れを取り戻すために、教室で授業を受けることもある。換気扇が設置され、級友の多くが香りに配慮してくれているが、教室には壁がなく、校内中からさまざまな香りが流れ込む。授業が終わるとふらつき、全身が真っ赤になる。登校しても、ほとんど別室で過ごしている。
 「1人はいやだ。みんなと一緒にいたい。学校の空気がきれいになってほしい」。それが翼君の願いだ。
 校長は1月末、全保護者に、香りの強い製品の使用に配慮を呼び掛ける文書を配布した。自身も、校内に柔軟剤の香りが充満していると感じる日がしばしばあるが、「学校が一方的に使用を禁止することはできず、『症状のある子のために』と限定し、配慮をお願いするのが限界」と悩む。
 文部科学省によると、MCSの子どもへの対応は学校の判断に委ねられており、行政からの指針はない。現場では暗中模索が続く。
 旭川市の小学3年、舞さん(9)=仮名=は昨春、MCSの悪化を抑えるため、校区外の小規模校に転校した。同級生は4人。1クラス30人だった前の学校の教室より香りが気にならず、症状は治まった。しかし、1人転校し4月に2学年合同の複式学級になることになった。級友は15人を超す。
 症状の悪化を心配した母は、病のための特別支援学級の開設を申請した。ただ、支援学級に入ると級友はいない。「みんなと一緒の授業に出たい」。舞さんの願いを聞いた校長は、特別支援学級に移籍しても、普通学級と一緒に学ぶ「交流授業」として、時には、もとのクラスで過ごせるよう配慮する考えだ。
 道内では、担任に席替えを相談したり学校に別室登校を要望してもかなわず、やむなく自宅で療養し続けた事例もある。各校の対応に差があるのが実情だ。

■問題見逃さずに
 道外では、環境の整備に取り組む自治体もある。高知市は、MCSの児童生徒のための特別支援学級を市立小中学校に計3級開設。各教室には、化学物質を吸い込む活性炭フィルターを備えた空気清浄機を4台ずつ設置。壁や天井、床に化学物質の飛散を防ぐ特殊なシートを貼り、床のワックスを剥いだ教室もある。
 奈良市では、山間部の小学校に、MCSの児童のために校内の化学物質が侵入しないよう、コンテナハウスにトイレや洗面所を備えた移動式教室を960万円を投じ用意し、校庭の片隅に設置。児童が中学に進学すると、コンテナハウスも中学の校庭に移動した。
 道内各地のMCSの子どもや保護者の相談を受ける「小樽・子どもの環境を考える親の会」代表で看護師の神聡子さん(61)は「子どもが学校の環境によって体調を崩したら、発症した子だけの問題じゃない。ほかの子の体にも影響が出る可能性がある。学校は、問題を見過ごさないで」と訴える。

■兆候がみられたら まず原因物質避けて
 
 子どもに化学物質過敏症(MCS)の兆候がみられたらどうしたらいいのか。
 日本臨床環境医学会環境過敏症分科会の北條祥子代表によると、原因物質を避けることが最も有効な対処法とされており、そのほか《1》柔軟剤や合成洗剤、除菌剤、漂白剤、芳香剤、防虫剤は使い過ぎないようにする《2》食品は添加物や農薬使用の少ないものを《3》有害物質を早く体から出すために、運動などで汗をかき、食物繊維を多くとる《4》部屋をこまめに換気すること―を勧める。
 また、いつ、どこで、どんな状況でどのような症状が出たかを記録し、専門医か最寄りの小児科に相談を。「悪化を防ぐには、早く手を打つことが一番大切」と北條代表は強調する。

<教室で学びたい 化学物質過敏症の子どもたち>下 分かってほしい 暮らし見直し 仲間大切に
02/22 10:51
 
札幌市中央図書館の児童コーナーにある絵本「みんなでつくろう 空気のきれいな教室を」。子どもたちにも分かりやすく症状や原因を解説している(浜本道夫撮影)
 
音更町が公共施設や保育園などに掲示しているポスター

 化学物質過敏症(MCS)の小学生が主人公の絵本がある。タイトルは「みんなでつくろう 空気のきれいな教室を」。
 舞台は札幌。教室で具合が悪くなった女の子「しいちゃん」を心配した級友たちが、MCSを学び、みんなで香りのする文房具や洗剤の使用を控え、しいちゃんを教室に迎える物語だ。

■絵本制作し解説
 札幌市役所職員組合連合会の鈴木友恵さん(45)が物語を書いた。7年前にMCSを発症し、職場で頭痛や吐き気などに苦しんだ。対処法を相談していた化学物質過敏症支援センター(横浜)から「小中学生の患者が増えている」と聞いたのと同じころ、「子どもが過敏症を発症し、学校に行くのが大変」という投書が市役所に届いたと知った。
 自身は同僚たちが理解し職場で香りを控えてくれたが、「子どもだと、友達に分かってもらうのは大変だろう」と思った。連合会に研究活動の一環として、子どもにMCSを解説する絵本づくりを提案。仲間たちと2年かけて制作した。
 絵本は、連合会が2018年に2千部発行し、市立小中学校や児童館、図書館計545施設に寄贈した。市内の小学2年の児童から「そういう人(MCSの児童)がいてもいなくても、においのしない教室をつくろうと思った」という感想が連合会に届いたこともある。一部を販売したところ全国から注文が相次ぎ、急きょ19年に千部増刷した。斎藤毅宏企画政策部長は「予想外の反響に、問題の深刻さを実感した」と言う。
 絵本には、しいちゃんを心配した子どもたちが両親に相談し、家庭のせっけんやシャンプーを香りのしない製品に変えてもらう場面がある。それは、大人へのメッセージでもある。
 「発症した子が身近にいたら、家庭で香りのある製品を使い過ぎていたり、体に悪い影響を与える可能性のあるものを使っているかもしれない。自分自身の健康のためにも、暮らしを見直すきっかけにしてほしい」と鈴木さん願う。

■孤立させないで
 今月半ば、札幌市教委は市立幼稚園や小中高校約320校に、MCSの症状などを解説した資料を送付。各校に全教員への配布を促した。資料には、市内の中学校で発症し、登校できなくなった生徒の実例が盛り込まれた。
 中学1年の時に発症した札幌の中学3年、結衣さん(15)=仮名=が今年1月、自分のケースを通し教員らにMCSの症状を伝えてほしいと市教委に手紙を出した。市教委は学校でMCSへの理解が進んでいない現状と、結衣さんの強い希望を踏まえ、実例として取り上げ、メッセージも掲載した。
 「みんなと一緒にいれた時がすごく楽しかったから、いつかみんなと会って話がしたいから、香りで具合が悪くなる人がいることを、たくさんの方に知ってほしいと思いました」
 MCSの子どもたちが孤立しないためには、どうしたらいいのか。
 特別支援教育に詳しく、スクールカウンセラーでもある道教大釧路校の戸田竜也准教授は「子どもが発症したら、大人は周りの子どもたちに、病状だけでなく、どんな遊びや本が好きなのかなど、その子のことを一緒に伝えてほしい。病気だけを理由に配慮するのではなく、大切な仲間だから困りごとを理解しようとする子を育てることが大切」と強調する。

 絵本はA4判カラー、24ページ。700円。札幌市役所内の市役所職員組合で販売している(郵送も可、送料は有料)。問い合わせは(電)011・211・3352へ。また、札幌の市立図書館38館が所蔵し、最寄りの図書館を介し借りることもできる。

■「香害」への対策 官民で呼び掛け広がる
 香りで体調を崩す「香害」への対策を呼び掛ける動きが官民に広がっている。
 日本消費者連盟(東京)の調べによると、道内自治体では札幌市、旭川市、釧路市、石狩市、十勝管内音更町がポスターやホームページで、香料使用の自粛や配慮を呼び掛けている(昨年8月現在)。このうち、音更町は昨年8月から町内の公共施設や保育園などに掲示するポスターで、施設や公共交通機関を利用する際には香りを自粛するよう促し、「小さなお子さんのためにも配慮を」としている。
 消費者連盟などでつくる「香害をなくす連絡会」は昨年、厚生労働大臣あてに香害の原因物質の調査や研究などを要望。国民生活センター(相模原市)も昨年、柔軟剤に配合された香料成分名の表示を製造事業者らに求めた。
 洗剤メーカーなどでつくる日本石鹸洗剤工業会(東京)の洗濯実態調査(15年)では、柔軟剤を目安の使用量の2倍以上使う消費者がほぼ2割いた。同工業会は適正な使用量を守るよう容器などに表示することを各メーカーに促している。