1997年から続いてきた能登演劇堂での仲代達矢氏主宰による無名塾ロングラン公演も、氏の出演は今回が最後だという。
この演劇堂は舞台の後壁が可動式になっていて、劇場裏手の自然と一体となって演出できる構造になっている。以前から氏の公演をここで観たいと思っていたが、やっと願いが叶った。
オープニングのシーンでは戦場のかがり火が何カ所も焚かれて、その中を幌車(仲代演じる女酒保商人-戦場で酒など何でも商う-とその子ども3人が乗っている)がゆっくりと進み舞台に登場するという趣向。今回の出し物はヨーロッパでの30年戦争(1618-48年)を舞台に、ドイツのブレヒトの脚本「肝っ玉おっ母と子供たち」を29年ぶりの再演だという。
氏も今年85歳を迎え、本公演プログラム4ページに「ファッシズムに潜む日常」と題して、平和がどうやって維持していけるか-中略-現在の危うい世相を見るにつけ、最後の戦争世代として言い残しておくことがあるような気がしている。として、本公演を通してそれを感じてもらいたいという思いがひしひしと伝わる舞台だった。
戦場を駆け巡りながら、旗色を変えながら3人の子どものために商いを続けるが、結局思い叶わず最後は1人になって打ちひしがれながらも生きていかなければならない姿に涙がこみ上げてくる。
もう一つ印象深かったのは、音楽と歌が実に効果的に使われていることだった。おっ母も数曲-声も旋律も素晴らしい-、そして各場ごとに舞台袖では片足の語り手(松崎謙二-無名塾11期生)と盲目の語り手(吉田道広-同28期生)が2人でその場面に応じた進行を分かりやすく歌ったのが、劇の内容理解の助けになったのが大きい。2人の声色と旋律が実に素晴らしかった。同様の演出は先日観たNINAGAWAマクベスでも老婆が2人で登場したが、仕草だけで歌わなかった。
フィナーレは可動式壁が開き雪景色になっていたのにも驚かされた。
2回のカーテンコールで、氏の打ちひしがれた姿がとても印象に残っている。おっ母を演じているとき姿とあまりにも落差があり、それほどに演技に打ち込んでいたような気がする。熱演の一言以上に神がかり的な演技だったように思う。素晴らしい舞台だった。来年4月まで各地で公演が予定されている。無事「千穐楽」を迎えられるよう祈念したい。因みにこの日は、二日目の舞台だった。
もう一言、演劇による街づくりを目指している当地七尾市の熱心な皆さんの姿にも心を打たれた。
願いが叶った上、素晴らしい舞台に感動の日だった。
演劇堂での様子
なおこの機会に、次のコースで8泊9日のドライブを楽しんだ。