「苦界・浄土・日本 石牟礼道子 もだえ神の精神」 田中優子 集英社新書
著者は石牟礼道子との初めての出会い-といっても大学一年生のとき(1970年)受講した講義-に、心を揺り動かされたという。法政大学で民俗学者益田勝実氏の授業、道子の「苦界浄土ーわが水俣病」の講義だった。胎児性水俣病最初期の人々は著者と同年代だった。「私は彼らだったかも知れない」という思いをずっともちつづけている(12頁)という。
著者はついに2012年8月に2日間にわたって彼女と対談する機会を得た。石牟礼文学に惹かれると同時に、女性としてどう生きたいと願ったか女性としてそこに並々ならぬ関心があった。
女として抱えていた苦悩や矛盾がー中略ー女性の自我の確立や過激な女性解放運動に向かわなかったから、と著者はいう(35頁)。
このときの対談の様子(「毒死列島 身悶えしつつー追悼 石牟礼道子」からの抜粋)が、本書の各所に掲載されていて話題の展開に彩りを添えている。自殺願望を抱いていた道子は、遺書をしたためていたが長男が病気になったのでかろうじて思いとどまった。長男が肺結核で入院していた水俣の病院で、チッソ公害患者を集めた奇病病棟の存在を知り、それが結果的に、自らの生を燃焼させる場所となったからである。石牟礼文学の原点ともいえる水俣病との出会いである。
2001年たった一度しかお能を見たことのないという石牟礼道子が、見事な新作能「不知火」を書き上げた。この中でよどみなく太古の言葉を駆使できるのはー中略ー道子は古代から来た人なのか、そんな思いを深くした(210頁)。道子には天草四郎を登場させた新作能「沖宮」にも話は及んだという。
石牟礼道子(1927-2018)は、天草で生まれ水俣で育った。ー中略ー多くの賞を受賞し世界文学全集の一巻にもなった。「石牟礼道子全集 不知火」(藤原書店)も編纂され、ノーベル文学賞にも値するともいわれてきたが惜しくも2018年に亡くなった。著者は今でも「ノーベル文学賞に値すると思っている」と書いている(11頁)。
兎にも角にもこの本は、私が全く知らない世界に誘ってくれた。不勉強を恥じると共に、改めて「苦界浄土」を読まねばと思いを強くした一冊だった。
「日没」 桐野夏生 岩波書店
これは、とても怖い小説だ。好色作家のマッツ夢井は、ある日総務省の「文化文芸倫理向上委員会」という機関からの召喚状で、関東にある収容所に収容されてしまう。原因は一般人からの密告(内容が犯罪や暴力を肯定している)だった。収容期間満了と見せかけて死を選ばされる状況下に陥る。
権力者は何でもし放題、自粛を発出した夜に多人数での飲食やキャバクラ通い、そして本来許されない案件でも解釈改憲で民をだます。ナチスのやり方を真似たらと言った御仁も未だ政権中枢に健在、政府の方針に反対意見を持つ学者は違憲と云われても頑として学術会議の委員に任命しない。現実の方が先に行ってるのかも知れない。小説よりもこちらの方が怖いのかも。
著者は石牟礼道子との初めての出会い-といっても大学一年生のとき(1970年)受講した講義-に、心を揺り動かされたという。法政大学で民俗学者益田勝実氏の授業、道子の「苦界浄土ーわが水俣病」の講義だった。胎児性水俣病最初期の人々は著者と同年代だった。「私は彼らだったかも知れない」という思いをずっともちつづけている(12頁)という。
著者はついに2012年8月に2日間にわたって彼女と対談する機会を得た。石牟礼文学に惹かれると同時に、女性としてどう生きたいと願ったか女性としてそこに並々ならぬ関心があった。
女として抱えていた苦悩や矛盾がー中略ー女性の自我の確立や過激な女性解放運動に向かわなかったから、と著者はいう(35頁)。
このときの対談の様子(「毒死列島 身悶えしつつー追悼 石牟礼道子」からの抜粋)が、本書の各所に掲載されていて話題の展開に彩りを添えている。自殺願望を抱いていた道子は、遺書をしたためていたが長男が病気になったのでかろうじて思いとどまった。長男が肺結核で入院していた水俣の病院で、チッソ公害患者を集めた奇病病棟の存在を知り、それが結果的に、自らの生を燃焼させる場所となったからである。石牟礼文学の原点ともいえる水俣病との出会いである。
2001年たった一度しかお能を見たことのないという石牟礼道子が、見事な新作能「不知火」を書き上げた。この中でよどみなく太古の言葉を駆使できるのはー中略ー道子は古代から来た人なのか、そんな思いを深くした(210頁)。道子には天草四郎を登場させた新作能「沖宮」にも話は及んだという。
石牟礼道子(1927-2018)は、天草で生まれ水俣で育った。ー中略ー多くの賞を受賞し世界文学全集の一巻にもなった。「石牟礼道子全集 不知火」(藤原書店)も編纂され、ノーベル文学賞にも値するともいわれてきたが惜しくも2018年に亡くなった。著者は今でも「ノーベル文学賞に値すると思っている」と書いている(11頁)。
兎にも角にもこの本は、私が全く知らない世界に誘ってくれた。不勉強を恥じると共に、改めて「苦界浄土」を読まねばと思いを強くした一冊だった。
「日没」 桐野夏生 岩波書店
これは、とても怖い小説だ。好色作家のマッツ夢井は、ある日総務省の「文化文芸倫理向上委員会」という機関からの召喚状で、関東にある収容所に収容されてしまう。原因は一般人からの密告(内容が犯罪や暴力を肯定している)だった。収容期間満了と見せかけて死を選ばされる状況下に陥る。
権力者は何でもし放題、自粛を発出した夜に多人数での飲食やキャバクラ通い、そして本来許されない案件でも解釈改憲で民をだます。ナチスのやり方を真似たらと言った御仁も未だ政権中枢に健在、政府の方針に反対意見を持つ学者は違憲と云われても頑として学術会議の委員に任命しない。現実の方が先に行ってるのかも知れない。小説よりもこちらの方が怖いのかも。