この本によると、浮世絵木版画は菱川師宣「花の語らい」(1779-80年)に始まり、1788年の喜多川歌麿「歌まくら」で頂点に達し、その後幕府の取り締まりや出版状況の変化などを経て幕末まで続く。
言うまでもなく性交場面がポイントになるのだが、それを様々な趣向(着衣の模様や襞、衝立等々)を凝らして、隠す・見せる・覗きなどの視点から面白く見せる。筆者は江戸時代の住宅事情などから、浮世絵は複数の人たちで見て楽しむ絵(笑い絵)だったのではないかといっている。この時代は、実におおらかだったような気がする。
図版も多く、楽しめる。積ん読だったのを、思い出して読んだ。font>
副題に「名画に隠されたエロス」とあるように、冒頭にカバネル「ヴィーナスの誕生」1863年を取り上げ、題名とは裏腹に”この絵は明らかに成熟した女性の性的なエクスターシーを描いている”(P14)、と、いう。ポイントは、左足指の反り返りにある。確かに浮世絵にも、足指を曲げた場面がいくつもある。この絵は、1863年のパリのサロン展で絶賛を浴びたという。
参考までに下の画像は、2005年にパリのオルセー美術館で撮ったカバネルの「ヴィーナスの誕生」font>
西洋の中世では、ヌードを画面に描くときは、神話や聖書の一場面としてでなければ描けなかった。
この絵が描かれた1863年は近代絵画のターニングポイントになった年と言われるようになった。スキャンダラスな絵として悪口雑言を浴びたマネの「草上の昼食」も同じ年に描かれ、落選展で人々の嘲笑を買ったという。理由は、この絵のヌード(ピクニック場面で女性はヌード、男性は正装)が聖書や神話に題材を求めないで、当時のピクニック場面という理由からだ。
しかし後に、この絵は近代絵画の出発点と言われるようになった、と、いう。
反逆児クールベの話もとても面白いし、彼の精神は立派だと思う。その他アングル、ゴヤ、ドラクロワなど等楽しい読み物だ。美術関連の書としては異色だが、目から鱗といった感じ。font>