友々素敵

人はなぜ生きるのか。それは生きているから。生きていることは素敵なことなのです。

そこが男と女の微妙なところ

2011年05月25日 22時03分04秒 | Weblog
 定年退職して、これを祝って海外旅行に出かけた夫婦がいる。ホテルで妻は「もう寝ましょう」と言うのに、夫の方はテレビに夢中になっている。外国なので言葉がわからないけれど、第2次世界大戦を題材にした戦争映画である。妻は戦争の残虐な場面が好きではないが、夫は戦闘場面や西部劇のようなアックションものが好きだ。ホテルの部屋にはテレビが1つは置かれているけれど、大概はベッドルームにある。外国にまで来て、テレビを見る夫の気持ちが妻にはわからない。若い時のように優しく抱擁して欲しいとまでは求めないけれど、せめてテレビなど見ずに安らかな眠りを与えて欲しいと妻は思う。

 夫は久しぶりにふたりだけの時を迎えたのだけれど、だからと言ってラブストーリー映画のように、昔とは全く違ってしまった妻を優しく抱く気にはなれない。それよりも何故か男と女でいることが何となく気恥ずかしいのだ。西洋人ならキスでもするのかも知れないが、日本人である自分は照れくさくてそれができない。もちろん長い間、自分に連れ添ってきてくれた妻を愛しているし、感謝の気持ちはあるけれど、どうしていいのか正直わからないのだ。たまたまテレビをつけたら、戦争映画をやっていたので昔のように観てしまったに過ぎない。

 けれども小さな部屋でテレビがついているのに、「先にやすんでいいよ」と夫に言われても、音がうるさくて眠れるわけがない。仕方がないので妻はトイレに篭って便器に腰掛けて眠るしかなかった。いや、それも決して長く続けられることではないから、トイレとベッドを何度か往復することになる。夫は妻がトイレに駆け込むのはどこか腹の具合でも悪のいのだろうとくらいにしか思わなかった。むしろ自分は音量を下げてテレビを見ているのだから、さっさと寝ればいいのにと思っていた。

 こんな風にして、せっかくの海外旅行であったのに、何となく互いに気まずい思いのまま帰国となった。いや、妻はもう絶対に夫と海外旅行はしたくないと強い決意に至っていた。夫は時間のないツアーではなく、もう少しゆったりとした旅行ができたらいいと思っていた。妻のご機嫌まで取っての海外旅行は行きたくないが、歴史を訪ねるようなツアーにまた出かけたいと思っていたのだ。同じ景色を眺めながら、同じ場所で食事をしながら、同じホテルの部屋にいながら、夫婦であっても思っていることはこんなに違う。

 けれども、それが夫婦なのかも知れない。夫と妻がツーと言えばカーと答える、そんな間柄の夫婦はまずいないだろう。阿吽の呼吸は出来たとしても、好みや考え方や生き方など、夫婦と言えども別のものだ。長い間、生活を共にして来たから、相手が何を欲しいと言っているのかはわかるけれど、だからと言って夫婦だから何もかも一体とはならない。いびきがうるさいからと寝室を別々にしている夫婦がいる。別々に寝ているからとはいえ、夫婦であるから互いを労わる気持ちが無くなったわけではない。そこが男と女の微妙なところだ。
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