友々素敵

人はなぜ生きるのか。それは生きているから。生きていることは素敵なことなのです。

「天国までの百マイル」

2008年01月24日 23時20分56秒 | Weblog
 昨夜は名演の例会で、劇団文化座による『天国までの百マイル』を観た。原作は浅田次郎、脚本が八木柊一郎、演出は原田一樹。浅田さんの原作だから、泣けるだろうなとは思っていたが、泣けた。本当によく泣けた。私以外は女性ばかりの4人で出かけたが、恥ずかしいかな私が一番泣いたようだった。アメリカ映画『再会の街で』を観た時も泣いてしまって恥ずかしかったが、近頃は本当に涙腺が弱くなった。

 『天国までの百マイル』は、4人兄弟の末っ子が心臓の悪い母親を東京から160キロつまり百マイル離れた千葉県鴨浦の病院へ、一人で連れて行く話である。これだけでは何もおもしろくないけれど、3人の兄姉はそれぞれ成功し、社会的にも経済的にも恵まれた地位を得ている。それは早くに父親を亡くし、懸命な努力をして得たものだ。末っ子の安男はバブル華やかな頃は、何億円もの金を動かし、銀座で豪遊していたのだが、バブルの崩壊で会社は倒産し、妻子とも別れて暮らす厄介者となった。こういう設定で話が進む。

 無気力でどうしようもない男の安男と暮らしているのがキャバレーに勤めるマリという女で、この女はまるで天子か女神のような存在だ。安男が別れた妻に仕送りしているお金もどうやらこのマリが工面しているようだ。彼女は自分のつらい過去がそうさせるのか、「落ちぶれ、惨めになった」男を放っておけない。せっせと面倒を見るが、男たちは2年もすると「みんな元気になって出て行く」とマリは言う。

 兄弟が誰も面倒を見ない母親を鴨浦の病院へ連れて行けば「きっとあなたの人生は変る」と、マリに励まされて安男は決心する。おんぼろ車にマットを敷き、ずれないようにしっかりと留め、隙間風が入り込まないように目張りもして、母親を助けるのは自分だという強い決意で百マイルただひたすら前へと走る。病院へ無事に到着し、母親は手術する医師に「手術が成功しなかったら、自信を取り戻そうと私をここまで連れてきたあの子がかわいそう」と訴える。

 無関心あるいは冷静な人、それに対して人に厚くおせっかいなくらいおひとよしな人、浅田作品が描く人間模様だ。わかっているのにやはり泣けてしまった。マリは、安男が元の妻と仲良くやれるように段取りをして、自分は安男の見えないところへと去ってしまう。『天国までの百マイル』は、百マイルを運転した安男が主人公ではなく、そうさせた、安男を立ち直らせたばかりか元の家族で暮らせるようにさせた、マリが主人公だったのかと最後にわかった。

 うらぶれて、どうしようもない、家族みんなの厄介者だが、マリは安男が好きだから、好きな男に幸せになってもらいたかったのだ。女性群に言わせると「そんな男に都合のいい女なんていないわよ。男のエゴ!男の願望!」と切り捨てられてしまった。無念!でも男はあきらめずに探し求めるだろう。
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2 コメント

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Unknown (H.KONDO)
2008-01-25 08:37:20
おはようございます。
テーマは違うと思うけど秋元康の「象の背中」も良いかも。
死を宣告された父親と家族、関わってきた知人友人の話しらしい。

小説も読んでないし映画も観てないないけど
ネット動画(You Tube)で観た4分程の素朴なアニメ版
「象の背中-旅立つ日」「雲の上のお父さん」は泣けた。
歌のせいなのか?自分と重ね合わせるからなのか?

余談でドリカムの吉田美和さんの急死した御主人に捧げる短い歌
『AND I LOVE YOU』も泣けた…

それにしても、このブログの内容は
男女の関係になるのが多いのは、気のせいか?
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Unknown (鈴木至彦)
2008-01-25 21:42:03
思いつくまま、幅広く書いているつもりだけれど、結局この世には男と女しかなく、人生や幸せなんてことに触れていくと、男女のことにつながっていくように思います。友だちへのメッセージも兼ねて、私の思いを綴っています。
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