実務家弁護士の法解釈のギモン

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会社分割の詐害性(3)

2012-10-22 10:50:59 | 会社法
 会社法改正要綱案では、詐害的会社分割についても手当をしており、詐害行為取消とほぼ同じ要件で、分割会社の債権者は吸収会社や新設会社に対しても、承継した財産の価格を限度として債務の履行を請求できることとしている。
 これは、詐害的会社分割の場合は、その取消を求めることを認めず、つねに新設会社に対して価格賠償的な請求をすべきことを立法化しようとするものと言えそうである。
 これはこれで発想としては分かるのだが、この場合でも、新設会社に債務者が移転した債権者の保護は、やはり問題として残りそうではある。債務者が分割会社のままとなった債権者は、詐害的会社分割であることを理由に新設会社に対して債務の履行を請求できるようになったとしても、債務者が設立会社に移転した債権者の場合は、分割会社に債務の履行を請求できるようにはならないからである。つまり、詐害的会社分割の場合、分割会社を債務者としたままの債権者は、分割会社にも設立会社にも債務の履行が請求できるようになるが、債務者が新設会社に移転する債権者は、分割会社に請求ができなくなってしまい、それだけ、逆に損をしかねないのである。
 以上の意味において、詐害的会社分割の場面は、通常の詐害行為の場面とはやや事情が異なるような気がするのである。

 ちなみに、会社法上、持分会社においては設立取消の訴えというものが用意されており、詐害的持分会社設立の場合、訴えをもって設立行為そのものを取り消すことができるという法制度となっている。これと同様に、立法論的には詐害的会社分割も取消原因(無効原因と行ってしまっても問題はないが)として訴えをもって取り消すことができるような仕組みにし、会社分割そのものの効力を将来に向かって否定するという方が、よいのではないかという気がしなくもない。
 会社分割そのものの効力を否定すると、影響が大きすぎるという問題があるのかもしれないが、そのようにしないと、債務者を新設会社や吸収会社に承継させられた債権者の保護の問題が、常に残ってしまうような気がするのである。それに対し、例え将来効としても、分割そのものの効力を否定できれば、この問題はだいぶ緩和される。
 あるいは、詐害的会社分割の場合、分割会社にはほとんど資産らしい資産は残さないのが普通だから、新設会社に債務者が移転させられた債権者がもとの分割会社に履行請求できるかどうかは、あまり気にしなくてもいいということなのだろうか。