実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

会社法改正要綱案-キャッシュ・アウト(4)

2012-10-12 09:45:59 | 会社法
 では、中小企業のキャッシュ・アウトの場合に、どのような計算方法が妥当なのかといわれても、私自身の考えがあるわけではないので、何ともいえないし、ある意味では、そういう状況のままキャッシュ・アウトを導入すること自体の問題なのである。

 より広い視野で見た場合、事実上配当がないような中小会社における少数株主の保護というのを、一般論として何か考える必要がありそうな気がするのだが、どうなのだろう。

 おそらく、今回の改正要綱は、当初述べたような上場会社における買収を想定しているというよりは、おそらく非上場の会社におけるスクイーズアウトを想定しているのだろうと思われる。しかし、私には濫用が懸念される。大丈夫だろうか。

会社法改正要綱案-キャッシュ・アウト(3)

2012-10-09 09:59:52 | 会社法
 そもそも、こうした中小企業の場合の株主は、どこで利益を得ているかというと、配当によって利益を受けているのではなく、その会社の役員などに就任して、その役員報酬などで利益を得ているのである。だから、配当など必要がない。

 このような会社でよく起こることは、経営上の対立などで少数株主たる役員が役員から外され、会社経営から完全に排除されてしまうということである。そうなると、当該会社の株主ではあっても、何の利益も生み出さない株式を所持しているだけとなる。そこで、このように会社経営から排除された株主は、少数株主権を行使するなどして会社に対して嫌がらせをすることになる。大株主たる社長がこれを嫌えば、今回の改正要綱で制度化が図られている売渡請求を行い、ごくわずかな一株あたりの純資産とごくわずかな純利益、無配等を理由に雀の涙ほどの対価での売り渡しを求めてくるという図式が、考えられそうなのである。
 しかし、経営が順調な中小企業であっても、純資産や純利益が薄い場合があり、それがなぜかかといえば、役員が利益相当分をほとんど役員報酬として食いつぶしているからに他ならない。このような会社において、単純な純資産方式、配当還元方式あるいはDCF方式による株価の算出で雀の涙ほどの対価での売り渡し請求を認めてしまうとすれば、私には妥当とは思えないのである。

会社法改正要綱案-キャッシュ・アウト(2)

2012-10-05 14:17:24 | 会社法
 問題なのは、非上場の会社、特に中小企業におけるスクイーズアウトの場面である。大株主が少数株主全部を閉め出す場合に問題がありそうである。どこに問題があるかというと、株式の価値をどう評価するかである。

 大株主が他の少数株主に対し、株式の自己への売り渡しを強制する以上、対価が適正でなければならない。しかし、非上場会社において、その適正な対価をどのように算定するのか。

 典型的な中小企業の場合、会社の純資産はわずかしかなく、かつ、配当も全く行っていないといった会社が多いかと推測される。そのような会社の大株主(個人が大株主の場合、その大株主が社長であることがほとんどであろう)が、うるさ型の少数株主を閉め出すために売渡請求を行う。一株あたり純資産はごくわずかで、会社の純利益もごくわずか、配当も行っていないから、純資産方式でも、配当還元方式でも、おそらくDCF方式でも、ごくわずかな対価しか算出されない。

 もしこのような計算方法だとして、はたしてこのようなことでいいだろうか。

会社法改正要綱案-キャッシュ・アウト(1)

2012-10-02 11:37:09 | 会社法
 再び、会社法改正の要綱案に戻る。

 会社法改正要綱案では、特別支配株主(総議決権数の10分の9以上の株主を想定している)からの他の株主全員に対する株式売渡請求権を認める。これは、見方によっては特別支配関係にある親会社による子会社の完全子会社化を容易にするものであるが、別の見方をすれば、このブログでも若干述べたスクイーズアウトの立法化である。つまり、利用のされ方によって、この制度はかなり異質な内容を含んでいるような気がしないではないのである。

 まず、一つの利用のされ方として、上場会社などが企業買収をする際に用いることが考えられる。具体的には、買収企業が被買収会社の株式をTOB等で取得し、TOBで取得しきれなかった株式をこの制度を利用して取得するというやり方である。
 現在、企業買収により被買収会社を完全子会社にする場合は、事前にTOBを行うか否かにかかわらず、最終的には株式交換を行うしかなかったと言える。この場合、株式交換により親会社株式が発行されるのが普通であるが、完全なキャッシュアウトを考えるのであれば、現行法上、被買収会社の株主に現金を割り当てることも可能である。
 この、キャッシュアウト方式の株式交換と実質的に同じ機能を営むことが想定される。ただし、事前に10分の9以上の議決権を取得していなければならない点、他方で買収者が株式会社でなくても可能であるという点で、株式交換との相違があるだろうか。

 以上のような利用のされ方なら、あまり問題はない。