実務家弁護士の法解釈のギモン

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差押えの処分禁止効ってなんだ?(5)

2010-02-05 13:03:45 | 民事執行法
 次に,個別相対効か手続相対効かという議論で問題となるのは,以前のブログでも述べた「ぐるぐる廻り」の事例でも説明したように,配当の有無,順位に関する議論である。手続相対効は,この「ぐるぐる廻り」の問題を解消する目的が含まれている。
 その場合の前提として,以前のブログでの「ぐるぐる廻り」の事例において,差押えに遅れる抵当権者は,個別相対効の考え方においても手続相対効の考え方においても,差押債権者に遅れる(ないしは配当では無視される)という議論をする。その根底にある理解は,差押えの処分禁止効に抵触する(あるいは差押えの登記に遅れるため,差押え債権者に対抗できない)抵当権だからだという点にあるのは明らかである。しかし,そもそもこの考え方が果たして当然だっただろうか。
 もし,差押えの登記の実体法的効力を,将来の売却に向けた順位保全的効力に過ぎないと考えれば,差押えの処分禁止効も「買受人」に対して対抗できないだけで十分なのであり,「差押債権者」に対して対抗できるかどうかは別問題という理解も成り立たないわけではないような気がするのである。よく考えれば,「差押債権者」と「買受人」は別人であることが普通であるし,仮に差押債権者が買受人になったとしても,差押債権者たるAは配当との関係だけが問題になるに過ぎず,買受人たるAは,中間処分のない不動産を買い受けることが出来るかどうかだけが問題なのである。両者の問題状況が全く違う。そして,買受人との関係では確かに中間処分の登記の効力は否定されなければならないが(その意味では,買受人との関係では差押えに遅れる抵当権の効力は排除されなければならない),配当権者に過ぎない差押債権者Aとの関係では,たとえ差押えに遅れるBの抵当権であっても,Bが優先弁済権のある物的担保を取得した以上は,配当の上でも抵当権者であるBが一般債権者に過ぎない差押債権者Aに優先すると考えても,決しておかしくないと思うのである。
 つまり,「配当」との関係では,差押えの登記の前後とは無関係に,もっぱら債権の実体法上の優先劣後の関係だけで配当の優劣を決するという考え方も,十分にあり得そうな気がするのである。ある意味では,債権者平等の原則を,もっとも愚直に貫く考え方ではあるが,本来,民法の債権者平等の原則というのは,そういうことではないのか。
 以上のように抵当権の登記が差押えに遅れようと,一般債権者である差押債権者あるいは配当要求をした債権者に優先すると考えれば,個別相対効のままであっても,「ぐるぐる廻り」現象は起きなかったはずである。

 現行民事執行法は,個別相対効を採らず手続相対効を採用したといわれ,差押えに遅れる抵当権は無視される。ここで抵当権が無視されるというのは,「配当」においても無視されるということである。そして,配当において無視されるということは,差押えすらしていない単なる配当要求者に過ぎない配当権者に対しても抵当権の効力を主張できないということである。さらに,差押債権者及び配当要求債権者に弁済してあまりがあっても,差押えに遅れる抵当権者に弁済されることはなく,「債務者」に交付されることになる。
 そうだとすると,差押えの登記は,執行手続における債権者に対する配当の側面では,絶対的である。したがって,言葉としても,手続絶対効という言葉の方が理解しやすそうである。

 このように,差押えの処分禁止効とは,対「買受人」との関係では登記の順位保全的な効力であるが,「差押不動産の所有者としての債務者」に対する関係では当事者恒定的効力,「債権者」との関係では絶対効と考えるのが,私の考え方である。実体法,手続法全般を見渡した場合に,差押えの処分禁止効は,この三つの効力が混在しているよう思えるのである。

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